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17話 お金の価値は

 入城門の混雑する人ごみから離れ、俺はそこに打ち捨ててあった壊れて放棄されたらしい台車のなれの果てに腰を降ろした。ふうっ、とため息を一つついて第何回目か判らなくなった脳内会議を開催。議題は、このノーマネー状態から金貨1枚を手に得るためである。


 俺のスペシャルである時空魔法。これを悪事に用いようとすれば、なんちゃら3世なんて目じゃない筈だ。誰にも気づかれる危険もなく、金銀財宝を集めることが出来る。だが折角、旅を楽しんでいるんだ。ここで不法な手段を選んだら台無しだ。なにより多分天罰が下るわ、女神さまから。


「神が天から金を授けてくれないものか」なんてボヤき、俺はうす曇の空を見上げる、まあ冗談だが。本当に降ってきてもらっても困る。金の価値が暴落しそうだ。


 ぼんやりと人の流れを眺めつつ、思案に暮れる。ちょっとした手伝いをするか。荷降ろしとか、荷運びか……。と、思ったがこの細腕のガキを雇ってくれる人がどれだけいるのか。まず信頼が無いってのは難しいな。俺の背中のジャンパーに描かれた白ネコ印を知る人は、この世界に居ない。こんなガキのする仕事を信頼してくれる人はまず居ないだろうな。ガキの手伝い賃をかき集めたとして、どれくらい働けば、金貨を稼ぐことが出来るのだろう。


 そこらの店では、エリオットの家で食べたようなパンが銅貨1枚で売られている。

銅貨10枚で銀貨1枚。

銀貨10枚で大銀貨1枚。


 ってあの大銀貨っての初めて見かけたときビックリしたわ。あんなの銀貨10枚持ち歩くより邪魔そうだ。デカくてかさ張りそうだ。ムダに高級感あふれる意匠の刻印が施されていた。


 で大銀貨10枚で金貨1枚。

しかし、金と銀の価格比率が1:100ってもとの世界では、恐慌が起こりそうだ。まあ埋蔵量も判らんし、為替経済なんてないだろうから関係ないか。閑話休題。


 その上に、金貨100枚で白金貨というものもあるらしい。これはもう国家レベルの取引で使われるらしい。一般市民じゃ見ることもないということだ。この知識は出店で手習いをしていた少年への教育を聞けたお陰だな。空間把握の情報収集は便利である。ちなみに丁稚クンの一日の手当ては銅貨4枚だそうだ。買い食いしすぎるなよと言われていたが。


 エリオットのパンの銅貨1個を100円くらいと換算すると、金貨1枚は10万円である。1日働いて400円で10万貯める? うむ、ムリゲー。


「君、一人でさっきからため息をついているが、困っているのかい?」

 気づくと目の前に恰幅のいい裕福そうなおっさんが立っている。


 一人と言われたのはフローリアにはウェストポーチに入っていて、とお願いしたから。こんな不特定多数の目に触れさせたくなかった。アレコレ欲しいと屋台を見て騒ぐので閉じ込めたわけではない。多分。ちなみに暗くしておけば彼女はすぐに寝てしまう。インコか!!


 静かなテントで話を聞こうじゃないか、と彼のテントに誘われた。なかなか布の質も良さそうな大きいテントだった。モンゴルのゲルみたいと思いながらテントに入る。お香みたいなのが炊かれて、妙な雰囲気だ。商人はその金や宝石のついた指輪のごつごつする感触をした手で招き、俺をベットの端に座らせた。


「おじさんはこれでも裕福でね、少しは相談に乗れると思うよ?」

 って見るからに成金っぽい下品な容姿で何言ってるんだかとか思ったら、彼の手が俺の体を……ってあああああああ。なに、人の尻を撫で回してるんだ、コラ。


 俺はおっさんをテントの外まで蹴り飛ばした。ちくしょう、ホモかよ!!。いくら金で悩んでいたからってなんで俺はあんなのについて行ってんだよ。背中に遅まきながらゾゾッと鳥肌が立った。


「くそ、素直なガキかと思えば……、もう少しガマンしてじっとしていれば金をくれてやったと言うのに」

確かにどうみてもテントに招かれる流れはアレだった。うむ、悩んていた所に虚をつかれたとはいえ、ホイホイついて行った俺も悪い。とはいえ、

「俺みたいなガキ目当てのホモとか趣味悪いぜ」と悪態をつく。

「お前、男なのか?」と目を見開くおっさん、どこに目付けてんだよ。


 人目も集まってしまったので俺はそこから離れることにした、気分悪いしな。いつの間にか起きたのかポーチから半身乗り出したフローリアが俺に告げた。

「えっとね、ユッキー。かわいいのよ?」


 街から少しはなれた川辺に移動して、俺は川で顔を洗い、川面に姿を映す。

「誰だ……この美少女…」

そこには俺のチューボーの頃の中世的な顔から一歩進んでしまった少女のような顔があった。なんかまつ毛とか伸びてるし…。まゆ毛も抜いてないのに細くなってるし、肌もムダにつるつるだ。


 ハッとして俺は、マイサンを確かめる。そこには確かに彼が…安心した。って朝トイレするときに逢っていたか、すまないなマイサン。下の方に目を向けるとムダ毛は存在しなかった。俺は女性の敵になったらしい。胸もペタペタしてみるが膨らんでなかった、セーフだ。


 エリオットの村から離れて、しばらく野宿が続いたし、顔も洗ったり、川で汗を流したりもした。この鏡が見当たらない世界で生活し、容姿なんてしばらく気にしてもいなかった。ヒゲもなぜか伸びなかったし。って前髪が変化ないんでわからなかったが、後ろは結構延びてるな。うむ、確かにこの姿で口開かなかったら、ちょっと目つきの悪い美少女だ。おっさん悪かったな、お前もある意味被害者だったわ。


 あー、門番のおっさんが女衒とか心配してる意味も判ったわ。確かに身寄りの無いこんな容姿のガキが街に入ったら、女衒に騙されて、娼婦として売り飛ばされるわ。っておれはサンが付いてるから稚児か……。

下手なホラーより怖い。


 能力で目を付けられるのを恐れて普通のガキっぽく行動していたが、まさかこんな所にも罠が潜んでいたとは。


 って、これはマナによる身体変化が進んでいるってことなのか?。あの初日に川で見た俺の姿はまだ変化途中の物だったのかもしれない。ってことは俺は男性機能を失う可能性が微粒子レベルに存在する?


 その夜も結局また野宿となったが、俺はその恐ろしい未来に怯え、なかなか眠りにつけなかった。

 


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