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16話 かねがね、金がねえ

 あの夜、エリオットの村を飛び出して、すでに数日が経っていた。俺は、ひたすらに農村と農村を繋ぐ細い道を駆けていた。


 道では台車に多くの荷物を載せて移動する旅商人や、軽装で旅をする若者たち。時に、馬にのった兵士らしき人々とすれ違った。もちろん俺は身を隠していたが。ちょっとエリオットの村でやり過ぎた感があったので、足取りを消す事を考えて、途中の村々も立ち寄らないように迂回した。


 ちょっとした逃避行だ、フローリアとの駆け落ちみたいなもんだしな。なんて、ついこぼしたら、照れたフローリアはきゃーきゃーとポーチに逃げ込んだ。


 エリオットの聞かせられた国の成り立ちを聞くに、やはりあの精霊の森にいたフローリアはなにか特別な存在なのだろうと思う。妖精じゃなくて精霊なのか? 彼女に聞いてみてもその辺りはさっぱりだ。


 判っていることといえば、例のどーんくらいである。聞いてみたがどーんどーんと何発でも撃てるらしく、マジ戦略兵器だ。まあ、彼女の存在を喧伝するみたいなものなのでなるべく使わない方向で。俺らの命優先だけどね。


 飯に困らなかったのは、由香里ねーさんのお陰だ。毎日、俺の遺影におにぎりを供えてくれたから。3日め以降は卵焼きも付いてた。卵焼きは砂糖多めな甘い風味で由香里さんの味だ。匂いをかいだ瞬間にフローリアが喰らい付いて離れなかった。

 フローリアはベジタリアン的な生物なのかと思っていたが、ただの偏食のようだ。卵焼きはキープされたが、お陰で小梅ちゃんを食べることを許してくれたので、よしとしよう。やっと梅おにぎりが食べれるよ。ただし、食べ終わった種は洗ってフローリアがマイスペースに持ち込んだ。それ、もう芽でないけどいいのか? その種の中身の部分食うの好きなんだけどなあ手……。


 しかし、毎日おにぎりが無くなって不審に思わないんだろうか。まあ助かってるのはあるんだが。由香里ねーさんちょっと不思議入ってる所あるしな。


 日が暮れたら野宿をし、陽が登ったらまた移動する。何日移動したのか、もう自分でもあやふやになってきた。次第に道は山間を抜けて平原になっていた。時たま見える小麦の畑の穂も黄金色に色づき、季節の移ろいを感じさせる頃、次第にそれは見えてきた。


 道の先にそびえるのは高い城壁。砦ではなく、城砦都市のようだ。傍らには深い森をいだき、なかなか豊かな川も流れている。道はまっすぐにその城砦の門へと続いていた。


 俺はスピードを一般人程度に落とし、のんびりとその城門に近づく。門の前はちょっとした出店が並び、ちょっとしたバザールといった感じだ。食料品やら布やら売る商人たちが、通りがかる人々にさかんに声を掛けている。

 珍しいフルーツを並べる店や、甘そうな匂いを放っているはちみつを練り込んだ焼き菓子の出店などなどを見つけるたびに、飛んでいきそうなフローリアをなだめるのに大変だった。金なんて無いのだから。


 進んでいくと長ーい行列ができていた。門の前には兵士たちが、武器を持って構えており、その前にある受付らしきテーブルで、兵士の一人と旅の商人らしき姿の男性が話している。さかんに商人が身振り手振りでアピールしていたが、兵士は首を横に振るのみだ。最後には商人は観念して門から離れる。そして少し離れた所に出店を開いて安い値段で商品を叩き売っているようだ。裕福そうな身なりの人は、兵士に金を渡して通り抜けているようだワイロじゃなさそうだが。


 行列は遅々としてすすまず、フローリアがなんどもの昼寝に飽きた頃、やっと俺の番がやってきた。兵士はうろんげに俺を見据えたあと聞いてきた。

「この城壁都市グレイスへの入場希望か?」

「はい、ルワズ村の方から来ました」

俺は見た目とギャップを考えて、ちょっと声を高めてガキっぽい声で応答した。ちなみにルワズってのは最後に通った村の名前らしい。

「あんな遠くから旅して来たってのか? この都市に身寄りか、親類はいるのか?」

「いません。ここ初めてきました」

「住む所、もしくは仕事のアテは?」

「ないです」と即答。ウソ言っても仕方ないしかえって面倒だ。

「じゃあ、子供とはいえ入城には1金貨必要だな」

え!? 1金貨って…感覚的には10万円くらいじゃないか? 我ながら薄汚いガキだとは思うが、吹っかけすぎじゃないだろうか。


「まあ吹っかけているのかと思っているだろうが、この金というのはこの街の治安と平和を維持する為の物だ。化け物が跋扈している今、兵士の維持にも金が掛かるし、街の中の治安を守るのも大変なんだ。ここらも危なくなるってウワサが流れて移民も集まってきてるしな。無制限に招き入れるわけには行かなんだ」

なるほど、ワイロって訳じゃなくて必要な経費なのね。まあどこまで本当か判らんが。


「仕事も行く先の無いものを街に招き入れるとな、良からぬ事をしでかす者も多いんだ。君の様な歳の子ではまともな仕事も無い。そういう子たちを雇い入れるのは女衒くらいなものだろう」

女衒ってあれか? 売春の元締めみたいなやつだっけ?。

「女衒に斡旋される後ろ暗い仕事をさせられていれば業が溜まり、中にはライカンスロープに堕ちる者がでる。それは、絶対防がねばならんのだ。子供だからといってこれはまけられない。すまないがこういう事なんだ。納得してくれ」


 こ汚い俺みたいなガキ相手でもしっかりと説明してくれるあたり、この兵士のおっさんはなかなか出来た人だな。しかし、ライカンスロープって人から変わるものなのか。邪なカルマが溜まると変わっちゃうって感じなのかね。確かに町の中から急に化け物が出たら被害がどれほど出るかわからないし、確かにそれは不味いな。


 俺は、わかった、ありがとって声を掛けて場を離れる。取り急ぎ俺にも急務が出来たな。この城砦都市に正式に入り込むために、1金貨を稼ぐというミッションだ。時間停止で入ろうとすればいくらでも入れるが、密入城したところで、この目立つ身なりだ、すぐに見咎められて騒ぎになる。


 なにより旅つづきで薄汚れてるのは自覚しているので、ちゃんと入場してキチンとした宿に泊まったり、お風呂はいったり、服を買ったりしたい。中には綺麗な服を着たお嬢さんがたくさん居るのが認識で把握できた。しかも、あの角の服飾店で店番しているのは見間違えようも無い、猫耳なお姉さんだ。そんなの入るしかないだろ!!。


 俺は金策を考えるべく、しばし思考にふけるのだった。



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