3.その老人、策士につき
そこはアプガノール家屋敷の2階にある応接間だった。
部屋の正面にある両扉のドアは褐色の木材に金の装飾を施してあり、たったそれだけで貴族の品格を表す。床には1面の大理石に、フカフカとしたシミ、綻び一つ無い純白のカーペットを敷き、その上には薄い空色のガラス製でできたテーブルを置いてあり、豪華でありつつ下品さを感じさせない作りになっている。
また、周りの壁には今にも動き出しそうなほど精細に作られた彫刻品や、まるで写真の様な風景画が飾ってあり、部屋の格を一段も二段も上げる。
そんな、豪華爛漫という言葉が、この部屋の為に作られたのではないかと思わせる中で1人の余りにも不釣り合いな男、カニバルがテーブルの脇にあるソファーで靴も脱がずくつろいでいた。
シワの寄った赤いシャツに、襟元が僅かに綻びてる黒のジャケットを羽織い、裾が薄汚れてるスラックスを履いて、足元には黒革に気持ち程度に銀で装飾の入った革靴を履いた、まるで浮浪者の様な服装であった。
カニバルはひざ掛けとして渡された薄手の毛布を顔にかけ、ソファーに横たわりながら屋敷の主の到着を待つ。
「遅ぇな爺さん。もしかして今回こそお陀仏か」
来る途中、バルコニーで侍女に肘の関節を極められながら、こちらに助けを求めつつも見捨てた老人の事を思い出し、カニバルは目を細める。
「まぁ、あんな歳でお痛してる時点で弁護の余地なしだな。地獄でも幸せに暮らせよ」
「勝手に殺すな」
カニバルが老人へ別れの言葉を送っていると、扉が開き即座に否定される。
左肩を擦りながら部屋に入ってきた老人はカニバルを恨めしそうに睨みながら、対面のソファーへゆっくりと腰を降ろす。
「まったく、お前といいエタといい、育ての親同然のワシになんて仕打ちをするんじゃ。恩を仇で返された気持ちじゃよ」
「義娘にセクハラする義親父よりはマシだろうが」
「なっ、なんのことかなぁ……ひゅー、ひゅー」
カサカサに乾いた唇を尖らせ、空気が抜ける音しかしない口笛で誤魔化そうとするクロークハーツをカニバルは冷ややかな眼差しで見つめる。
「一応察しはついてるが聞くぞ?わざわざ俺を屋敷に呼んだ理由ってのは何なんだ?しかも、"居もしない息子を作り上げてまで"」
クロークハーツ卿には3人の子供がいるが、いずれも娘であった。
そのため、息子が怪我をして彼が憤怒しているというのは真っ赤な嘘である。
何かしら要件がありそれを頼みたいが、ただその頼みが明るみに出るのは止したい。だからこうして色々と理由をつけて俺を呼び出した。
そうカニバルは解釈して、