トラウマおでこ
「うわぁ、酷い顔」
「キモいんだから、話しかけんなよ」
「ブツブツがうつる、近寄んなよ」
"ブツ子"
男子に陰で付けられてたアタシのアダ名。
この頃の私の顔は、”思春期のシンボル”などと言う言葉では、到底言い尽くせない程のニキビで覆われていた。
赤く腫れ上がった、オデコや頬が時々、黄色く化膿していた。
「辞めなよ、そういう事いうの」
アタシを庇ってくれる女子も居た。
「ねぇ、でも莉央ちゃん、顔、ちゃんと洗ってる??」
何気無い、悪気の無い一言。
そう自分に言い聞かせていても辛い。
いつしか、顔をあげて、人と話すのが怖くなってしまった。
いつも下を向いて歩くようになってしまった。
ニキビが治ってきてもそれは変わらなかった。
こんなんじゃ、ダメだ。
変わらなきゃ。
高校に入ったら、今までの自分を捨てて、新しい自分に生まれ変わるんだ。
そう誓って、私は中学の知り合いが滅多に行かない高校を受験する事にした。
「莉央、おはよう!」
「あっ、香澄ちゃん、おはよう」
「およ?このピンカワイイじゃん?梨央、デコ出し似合うよ!」
香澄が、梨央のおデコの上のピンを指して、にっこり笑う。
「昨日、買ったんだ〜!えへっ。ありがとう〜!」
中学の私だったらあり得ない。
デコ出しなんて。
でも、私は変わるって決めたんだ!!
とりあえず、顔をあげることから…!
莉央は無意識にガッツポーズをしていた。
それを見ていた香澄は少し、怪訝そうな顔をしたが、直ぐに笑って、
「今日は、その調子で藤枝に話かけられると良いね〜」
莉央の肩に抱きつきながら、耳打ちする。
「うっ…うん」
変わると決めた。
だけど、莉央は相変わらず顔をあげて人と話す事が出来ない。
特に男子とは上手く話す事が出来ない。
どうしても、思い出してしまう。
本当は、キモい、話しかけるなって思われているんじゃないか?
大丈夫。
ここに居るのは、中学の時の男子ではない。
大丈夫。
ブツブツも、あの時よりずっと良くなったでしょう??
自分に何度も言い聞かせる。
「莉央ったら、小学の時はもっと皆んなと話してたのに。いつの間にこんなに人見知りになったのさ?」
香澄が本当に不思議そうに莉央に話す。
莉央は苦笑いをして誤魔化す。
香澄と莉央は小学が一緒だった。
中学は別で偶然、高校で一緒になったのである。
香澄は中学の時の莉央を知らない。
それは莉央にとって幸いだった。
莉央はあえて、中学の知り合いが滅多に来ないこの高校にした。
自分を変えるために。
なのに…。
「あっ、藤枝!おはよう!笹沼も」
香澄が、前方を歩く男子二人組に声をかける。
「おー!田倉?おはよう」
「"も"ってなんだよ」
香澄が笑いながら、2人に駆け寄る。
「吉野さん、おはよう」
藤枝が莉央に笑顔を向ける。
「あっ…おはっ」
消え入る様な声。
藤枝の耳にはまるで届いていない。
沈黙が包む。
藤枝は不思議そうに莉央を見ている。
「フジ、お前、今日日直じゃなかった?」
笹沼が、藤枝に言った。
「えっ!そうだっけ??やべえ!俺先に行くわ。それじゃ!」
藤枝は皆んなに笑顔を向けて、小走りで教室に向かって行った。
「あんた、人の日直なんてよく覚えてたね」
香澄が感心したように、笹沼に言った。
「いや、知らねえけど。」
そう言うと、笹沼はニヤっとして去っていった。
「うわっ!マジ?!聞いた?今の。笹沼、あいつ悪だなあ〜」
香澄が呆れた顔で莉央に言った。
莉央は「そうだね」と言いながら、内心救われたと思った。
また、ダメだった。
男子の…特に藤枝君の前じゃ、いつも以上に顔を上げれない。
中学の時のトラウマが莉央に重くのしかかる。
いくらおデコを出して見ても中身が変わらないとダメだ。
莉央は右手でおデコの上のピンをぎゅっと握り閉めた。
暗い話からのスタートとなっておりますが、少しづつ、コミカルになっていく予定です。。




