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ある前世持ち侍女の納得いかない現状  作者: みあ
本編

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8 少女たちは二人で祈る

 しかし、所詮は王女の侍女でしかないアイリアに出来ることは多くないとアイリアが悟ったのはそれからすぐであった。

「私、今日からお祈りしようと思うんです」

 だけど唯一出来そうなことを思いついて、その日意を決して主の私室に足を運んだアイリアは、開口一番そう宣言した。

「おいのり?」

 起きたばかりで柔らかい髪が爆発したままのシーリィがきょとんとつぶやいた。

「はい」

 アイリアはいつも通り主を鏡台まで誘導してから櫛を手に取った。

「慈愛神さまに、シーリィさまのことを」

 鏡越しにシーリィが自分を見るのに、アイリアはにこりと微笑んだ。

 しばらく悩んでアイリアが思いついた、シーリィのためになるいい方法がそれだ。

 王女の身の回りの世話と話し相手くらいしか期待されていないアイリアだけど、自分は古代魔法のようなものが使えるのだという事実を思い出したのだ。

 ずいぶん前のほんの一時期、よく見る夢の風景が自分の過去世だと確信したくて手を出した古い時代の魔法――期待度は上がっても確信を得るところまでは至らないまま後ろめたくて使えずにいたそれ。

 有能な魔法使いがひしめく城内でそれをそのまま使う度胸まではもてなかったアイリアは、夢の中の自分が神の信任を受けて力を授けられた巫女であったという事実に希望を見いだした。

 この世界ではそういう存在を聖女という。滅多に現れない存在と自分が同じようなものとは思えなかったけれど、何も出来ないと嘆いているよりは遙かにましだ。

「慈愛神さまに?」

「はい」

 不思議そうなシーリィの言葉に、アイリアはしっかりとうなずきを返す。

「ファートレンのおうちは特に武神さまを信じていたのではなかったっけ」

「武家ですからね」

「なのに、なんで慈愛さま?」

 シーリィがますます疑問を深めた様子なので、アイリアは当たり障りなく説明をすることにした。

「武を司る方にシーリィさまのことをお祈りしても、御利益は薄いと思うんです。だって、シーリィさまは武具を扱われるわけじゃないですから」

「そうねえ」

 続けて主だった神々の名をあげてアイリアは解説を続けた。

「シーリィさまが長い間努力を重ねてこられたのは、このアイリアが一番よく知っています。それを真摯に祈りに混ぜれば、慈愛神さまだったらきっと救い上げてくれると思います」

「――神頼みで魔法が使えるようになれるんだったら、とっくに使えるようになってると思うけど」

「そうですね」

 ふっと一瞬で冷静になってつぶやくシーリィにアイリアも冷静に応えた。

「神々は万能な存在ではないと、数多くの神話が語っています」

 その上アイリアは夢の中の追体験でそう感じ、母のくれた本でそれについてははっきりと確信を得ている。

 神が真に万能な存在であるというのならば、唯一絶対の一柱が存在すればいいだけだ。きっとそのような神が統べる世界は、瑕疵ひとつない平和なところなのだろう。

 夢の中のように人にあらがいがたい強大な魔獣など、万能なる神の創った世界に現れるわけがない。

 「世界と神話の話」には、他にも様々な世界の物語が記されていた。そして、どの世界にも必ず悪しき存在は現れていたのだ。こどもの向けの物語はどれも綺麗に「その後世界は平和になりました」で結ばれていたけれど、平和に至る過程では確実にたくさんの犠牲があったものとアイリアは思う。

 たとえば、ティーファが故郷を滅ぼされた娘であったように、描写されない犠牲は確実に存在するはずなのだ。

「だけど、万能ならずとも人を超越した有能な存在であると思います。だから、私はシーリィさまの幸せを祈りたい」

 それでも、神は常に人間に慈悲を垂れてくれた。人の身に過ぎた力を気に入ったものに与え、悪に対抗させてきた。勇者、英雄、戦士、巫女、聖者、賢者――様々な呼ばれ方をした救世主を生み出してきたのだ。

 どうしても悪しきものを生み出してしまう負の感情を消しきれない人間の心持ちを完全なる良きものにするほどの万能さを神は持ち得ないらしいが、たとえばそれを滅ぼし、あるいは封じるといった手法がとれるのだから、きっと有能――。

「しあわせ?」

 信心深い国の人間であれば顔をしかめそうなアイリアの言葉であったが、魔法を重視するラストーズの王女であるシーリィは鏡の中できょとんとまばたきをするだけだった。アイリアは一度櫛を置いて鏡越しに彼女と目線を合わせた。

「こんなことを言ったら叱られそうだけど――シーちゃんが努力に疲れたなら、もう魔法にこだわらなくていいと思うの」

 そっとシーリィの肩に手を置いて、親友としてアイリアは伝えた。

「たとえ魔法使いになれなくたって、シーちゃんが幸せになる方法はあるんじゃないかな」

 戸惑ったようにシーリィの視線が揺れる。アイリアは肩に置いた手に軽く力を入れた。

「シーちゃんが魔力は大きいにどうしても魔法が使えないっていうのなら、シーちゃんの力は神官や精霊使いになるためにあるのかもしれない」

「アーちゃん……」

「こんなこというと、やっぱり誰かに叱られるだろうけど」

 シーリィの反論を封じるようにアイリアは苦笑した。

「でも魔法なんか、使えなくたっていいんだよ。シーちゃんは私には言わなかったけど、ずっと魔法が使えないかもしれない不安と戦ってたんでしょう?」

 アイリアは後ろからぎゅっと親友を抱きしめた。

「うん。そう――だって、お母さまは魔法を使えないんだもの。片親が一人魔法使いでないなら、子どもは魔法を使えないことがあるんだって、ずっと前に聞いたの」

 シーリィはアイリアの手を握るようにして口を開いた。

「だから、魔法は使えない気がしてたの。だけど、王女は魔法を使えなければならないって言うから」

 沈んだ声でシーリィは心の内を吐き出した。

「だから、ずっとどうにかしようと思ってた。でも、もう、みんな――私でなくレシィがいいというんでしょう?」

「国王陛下は違うお考えのようだけど」

 つい混ぜっ返すように指摘するアイリアにシーリィは唇を尖らせてみせる。

「そういうのを、親バカって言うんだって聞いた」

「そう、なの?」

「いくらお父さまから大きな魔力を受け継いだからって、魔法はちっとも使えないんだもの。きっと私は、魔法を使えない才能をお母さまからもらったの」

 言い切って、すっきりしたようにシーリィが微笑んだので「魔法を使えない才能っておかしくないですか?」と指摘しようと思ったのをやめてアイリアも努めてにこりと笑った。

 アイリアの腕を振り払うようにして体を回転させたシーリィは、向かい合ったアイリアの手をつかむ。

「そうだよね、魔法を使えなくても、いいんだよね」

 笑顔の中に縋るような眼差しを見つけたアイリアは力強くうなずく。

「そうだと思う。だって、ラストーズが特別魔法使いにこだわっているだけで、他の国はそうじゃないって私のお母さまも言ってるもの」

 つかまれた手をアイリアは握り返した。

「みんなの期待に応えようとシーちゃんが努力したのを、きっと神さまは見てくださってるよ。だから、私はシーちゃんのためにお祈りする。他にどうしたらシーちゃんにとっていいことなのかわからないけど、お祈りすることだけなら今からでも出来るから」

 目をつぶりそのまま祈りの言葉を続けるアイリアに一瞬目を丸くしたあと、シーリィもまた同じように祈る。

 二人分の祈りが寝室に静かに響いた。

 アイリアは定型の祈りを口にしながら、胸の内で別の言葉を作る。

(慈愛深き我が神ルファンナさま――かつて得た信によりて、願います。どうか、我が友シーリィをそのお力でお守りください)

 夢の中の過去世にアイリアは未だ確信が持ちきれていない。それがただの妄想であったらそのように祈るなんてとんでもないことだ。

 だけど、夢で得た知識に現実で読んだあやふやな古代魔法の知識を加えたくらいしか魔法の情報のないアイリアに、危険にさらされかねないシーリィを確実に守れる魔法を使える気はしなかった。

 前世身を粉にして世界を救った娘に気付いて力を貸してくれるのでも、今世大それた妄想に取り付かれて心の中で神の名を口にする娘に不快ながら興味を引かれるのでもどちらでもいい。

 どちらにしろ一応は神由来の古代魔法を使える身であるのならば、少しは何かの足しになるはずだ。

 アイリアはそう信じて祈る言葉に少しだけ魔力を乗せる。

 そうして祈りに乗せた魔力が神の意を受けてシーリィの身を守る力になるようにとさらに願いを込めた。

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