後輩侍女は観察する 2
関わるつもりもあまりなかった方とお近づきになる機会を得たのは、様々なことが立て続けに起こったからだ。
国王陛下には魔法を使えない王女殿下しかいらっしゃらないことで数年前から密やかに王位継承争いがあったというのに、あれよと言う間にいろんなことが起きて最終的には王女殿下がその争いに勝利することになった――それで、これまで絞りに絞られていた王女殿下の側仕えが増えることになったのだ。
その増えた側仕え、つまり侍女の一人が私というわけ。仕事はそれなりに真面目にやっていたけど、もっといい家柄の騎士家出身の侍女たちを差し置いて、何がどうなって兵士家の私たちが選ばれたのかは不思議だった。
働きぶりが認められたのだとすれば、素直にうれしい。ただ、それだけではないような気はしていた。
それはさておき。
同じ方にお仕えするとなれば、自然と王女殿下の騎士である方とお近づきになった。
これまで遠巻きにしていた人は間近で接すると、噂とはほど遠い方だった。
いや、噂だけでなく遠目には見たことはあった姿からも、明らかに違っていた。
セルクさまといえば、とにかくへらへらと女性の間を渡り歩いていた姿だけが印象にあるのに、そうではなかったのだ。
近くで見てみれば、セルクさまはとてもよくできた、真面目な騎士さまだった。主の側に静かに控えているのが仕事ですと言わんばかりに口数も少なく、きりりと表情を引き締めていらっしゃる。
そうすると、私が以前夜会や何かで目撃した人とはまるで別人だった。
私を含めた新しい王女殿下付き侍女は、みんなそのことを不思議に思っていた。
どういうことかと疑問に思っても、まさか当人には尋ねられない。
主であるシーリィさまはお優しい方だから尋ねたら答えてくださいそうだけど、好奇心で主を煩わせるのはよろしくない。
そうなると一番尋ねやすいのは、侍女頭であるアイリア・ファートレンさまなのだけれど――仕事に関係ないことだとぴしゃりと言い切られるだけのような気がしていた。とかく、アイリアさまは真面目なのだ。
そんなわけで、疑問を解消するあてのない私たちは、時々寄り集まってはどういうことなのだろうと推測することを話の種にしていた。
シーリィさまとアイリアさまとセルクさまは、付き合いが長いだけあって仲がよろしい。私たちを信用していないというわけではないと思うのだけど、これまで大勢に囲まれることのなかったシーリィさまの息抜きなのか、時々お三方だけでお茶をするということがあったので、そういう機会はたびたびあった。
セルクさまは間近で拝見した印象はよくできた方なのだけど、これまで遠目で見た印象と噂話からはほど遠い姿が私たちの興味を煽っていた。
近くで見たままを信じるなら、とても好ましい方だ――だけど、結局のところ兵士家系の侍女には手の届きにくい方だと、私たちは遠巻きにセルクさまの観察を続けていた。
そうしながらこっそりと交わした愚にも付かない会話がシーリィさまの耳に入ってしまって、恐れ多くも王女殿下におそろしい誤解を持たせてしまったことは後悔している。
セルクさまが、シーリィさまの婚約者に内定された元教育係のレイドル・ホネストさまに思いを寄せている、なんて、ねえ。
そんなのはすこーし前にレイドルさまが兵舎にあるセルクさまの部屋で一夜を明かしたらしいという噂から邪推した冗談混じりの妄想でしかない。仲間の一人の身内が朝帰りするレイドルさまを目撃したのは事実だそうだけども。
お二人とも王女派の重鎮である家の当主だ。常識的に考えてこれから先の未来のことでも相談されていたに違いない。
セルクさまが仮に誰かに思いを寄せているのだとしたら、きっとシーリィさまに対してだろうと私たちはほとんど確信していたようなものだった。
筆頭武家の跡継ぎであったところで、王族と武家との間には大きな隔たりがある。
誰か一人を定めるようなこともなくふらふらされていたのは、その思いを振り切れなかったからで。
それを止めて真面目にされるようになったのはシーリィさまにレイドルさまという立派なご婚約者ができたことで諦めがついたことと、侮られるような軽薄な振る舞いは今後シーリィさまの助けとならないと判断されたことが原因ではないだろうか。
私たちはそれぞれ家族からの情報を持ち寄って、そう結論づけた。
なぜならば、私たちが今このように王女付きとなるに至った後ろにはセルクさまの存在があると知ったからだ。
あの方は女性の間をふらふらと歩き回っているように見えて、その実武家の中で王女に好意的な家を探していたのだということを、私の場合は父から聞くことになったから。
似たような話が仲間内で聞かれれば、不確定な情報も確信に近くなる。
セルクさまはシーリィさまのことだけを考えて行動されているのだ。
その理由に恋心を当てはめたのは、私たちが結婚適齢期でそういうものに興味津々だからだ。
セルクさまがシーリィさまに懸想している説は、我ながらよくできていたと思っていた。




