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ある前世持ち侍女の納得いかない現状  作者: みあ
番外編 ある騎士の独白

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29 王女殿下は誤解する

「ずっとおかしいと思ってたの」

 シーリィちゃんは思い詰めた顔で言った。

「セルク、貴方ずっとレイドルにやけに絡んでたもの」

 言われた俺があわあわと口ごもったのは、もちろん指摘されたくないことを言われたからではない。控えているのが気心知れたアイリアちゃんだけなら「なんでよ!」と思い切り突っ込めたけど、周囲の目や耳がね!

 新しい侍女ちゃんたちの前で王女殿下に堂々と馴れ馴れしくするわけにはいかないじゃんっ?

 俺護衛、シーリィちゃんはきちんとした婚約者がいる王女殿下だもん。

 うかつな言動に出て侍女ちゃんたちが王女殿下と護衛騎士の道ならぬ恋でも想像しちゃったらとか考えちゃうよね。大変に初々しくらぶらぶしいシーリィちゃんとレイちゃんの様子を彼女たちも見てるから誤解はしないと思うけど。

「あ、あのう、殿下、おっしゃることがちょっとよくわかんないです」

 ホントもーわけわかんなくて動揺しちゃって、侍女ちゃんたちの目がある時はいつももうちょっといい感じに装うのについ言葉が乱れてしまった。そのことでシーリィちゃんはやっぱりとでも言いたそうな顔になった。

「前々から、なんだかおかしいと思ってたの。女性にだらしないと噂はあるけど、誰にも本気になっていないようだし」

「ええ?」

「いろいろ話は聞いたけど、なにか違和感があったの。決して振り向いてくれない人を追いかけているような」

 俺は唖然として、シーリィちゃんを見つめた。

 魔法が使えないという一点で公の場に出ることのない子がなんだってそういうことに詳しいの? 誰がそんなこと王女さまの耳に入れんの?

 アイリアちゃん――は、そういうこと言いそうにないし。

 レイちゃん……も、わざわざそんなこと言わない人だし。

 護衛として長時間一緒にいる立場だから、彼女が関わる人は大体把握している。

 一番長く一緒にいる人たちが言いそうにないなら、王妃さまとか、王妃さまの侍女……うーん、レシィちゃんって可能性もあり得る。

 誰経由で得た情報かはぶっちゃけどうでもいいけど、なにがどうなって俺がレイちゃんが好きだって結論になんの?

 ライクじゃなくてラブの方を疑ってる顔だよね。

 アイリアちゃんが恋敵かと悩んでたときと同じ雰囲気なんですけど。

 声を大にして誤解といいたいよ俺はー!

 振り向いてくれない人を追いかけてた云々が微妙に真実にかすってるだけに超惜しいし。そこまで迫ってて何でレイちゃんが好きだって思っちゃうのー?

「俺もレイドルも男なんですけど」

 俺は控えめに主張した。家出するしかないと思い詰めて飛び出していったレシィちゃんと同じように何かを信じている顔のシーリィちゃんに、うっかり「アイリアちゃんが好きだ」と言うべきでない気がする。

 妙な誤解にたどり着いたシーリィちゃんが「んまあ! 追求を逃れるために私の大事なアイリアでお茶を濁そうとするなんて! 貴方なんかにアイリアはもったいないわ!」とか暴走して妨害されても困るなんてとっさに計算した。

「嘘をつく必要はないのよ……だって、レイドルはあんなに素敵なんですもの」

「いや、あの、あのね?」

 何か悟ったような、慈愛のこもった笑みでこっち見るのやめて。つらい。

 レイちゃんは、まあいい男といえばいい男だけどそれ惚れた欲目だからね。結構うじうじしてる人だからね。周囲の雑音にめげず頑張っている様子の今も、裏で何か悩んでいそうだし。

 そのうちもう一度お酒を山ほど飲ませて吐き出させてあげようかなと思ってるくらいだからね!

「根拠のない噂に殿下が惑わされると、周囲まで真実と誤解するのでやめていただけませんでしょーか」

 頭を抱えたい気分で俺はやんわりと告げた。

 この会話、侍女ちゃんたちにも聞こえてるよね……若いお嬢さんたちがさらに噂を広め……いや、待てよ、この誤解に至った経緯ってこの侍女ちゃんたちだったりして。

 そう思いつけば、アイリアちゃんがいない隙を狙って話を始めたことも納得できる気がする。

 彼女の前で「セルク、貴方レイドルが好きなの?」とか言い出したら、すんごい嫌がりそうだもん。それが俺に好意を抱くが故の嫉妬だったら喜ばしいけど、そんなこと関係なしに「シーリィさま、なんてはしたないことおっしゃるんですか」って換言しそうだよね。

「殿下のおっしゃるようなことは、決してございません」

 俺はきりりと表情を固めて言い切った。

「だったら何で、特定の人を決めようとしないの?」

「それは――」

 言い掛けたところで、アイリアちゃんが帰ってきた。

 入るなり俺とシーリィちゃんが向かい合って座っているのを見て、彼女はちょっと小首を傾げた。

「いいわ、セルク」

「へ?」

「またいずれじっくり話しましょ!」

 とうに決めた人がいるということだって当人の前では俺も言いにくいけど、シーリィちゃんも生真面目なアイリアちゃんの前では今の話を深めたくなかったんだろう。

 アイリアちゃんが表情を変えないながら、目が「何でセルクさまがシーリィさまの相談に乗っているんですか私じゃだめなんですか」みたいに語ってる気がするんですけど、気のせいかしら。

 そういう意味で嫉妬されるってどうなの? どうなの……。

 なんて思ってからしばらくは平穏なもので、蒸し返したくない話を蒸し返される日が近く訪れるなんて予想もせずに、一段落ついたと俺はほっと息を吐いた。




 婚約式の日取りが近づたある日のことだ。

 その日シーリィちゃんはアイリアちゃんに――自分の側をつかず離れず、主と一緒に社交界から距離を置いていた親友に「当日はアイリアをお休みにするからね」と宣言し、婚約式に招待客として参加するように言い出した。

「私は近くでシーリィさまを見守りたいです」

「だめよ、アイリア。あなた私につきあってアイリアもずっと社交と縁もなく過ごしていたでしょう? だから、一緒に公の場に出たいの」

 抵抗するアイリアちゃんを言い含めるシーリィちゃんの手腕は見事だった。

「何でも一緒にしてきたんだもの、デビューも一緒がいいわ」

 アイリアちゃんはそれを聞いて言葉に詰まっていた。口が開けたら「お側で一緒にいる方がいいです」と言いたそうだった。

「私の側に控えているだけでは良い出会いはないわ」

「そうですよ、アイリアさま」

「姫さまのお側はお任せください」

「夜会で侍女の手が必要なことはそうはありませんから」

「私たちで十分ですよ!」

 シーリィちゃんに続いて侍女ちゃんたちが元気よく続く。純粋にアイリアちゃんのためを思っての言葉に、彼女はたじたじになった。

 側で見守る俺は、アイリアちゃんがどういう結論を出すのか緊張しながら見守った。十中八九、シーリィちゃんの側を選ぶものだと思っていた。

 だから。

「シーリィさまが、そうおっしゃるのでしたら」

 幾日かかけた攻防の後で、諦めたような顔でしぶしぶ彼女が言ったときには驚いた。 

 驚きながら、これは俺ものんきに殿下の護衛を務めていられないぞと動くことにした。

 具体的に言うと、根回ししてアイリアちゃんのエスコートの権利を得た。主の晴れの日に職務放棄をたくらむ俺に向けるアイリアちゃんの目は冷ややかでしたけど。

 だって、彼女を一人で夜会に放り出すとかできないでしょう?

 通常デビューのご令嬢をエスコートするのは親族――大抵が父親で、兄弟という場合もある。事情によっては叔父だの従兄弟だのということもあるけど、赤の他人がそうすることなんて滅多にない。

 幸いなことに――というべきか、アイリアちゃんのお父上は騎士団長、つまりは国王陛下の筆頭騎士だ。王女殿下のご婚約にともなって婚約者となる男に次期王位を与えることを宣言するなんていう前代未聞の試みが成される場所で、職務に忠実な人が主のそばを離れられないことは分かり切っていた。

 そして、彼女の弟のサミーはまだ出仕もしておらず、式に招待されるほどの年齢ではないのもよかった。来年辺り騎士になりそうな才覚を見せているけど、今はまだ半人前だもん。

 お母上の方は奥に籠もり浮いた話一つない年頃の娘のことを気にかけていたらしく、普段であれば「なんとしても王女殿下のお側にいなさい」とたしなめそうな人だったのに、この機会に娘を社交界に出そうと張り切ってらっしゃった。

 そこで俺はアイリアちゃんのお父上に、つまりは上司である団長に近づいて丸め込むことに決めた。

 そのために、まずはシーリィちゃんから婚約式にそばを離れる許可を得て準備は抜かりない。

「セルクもこの機会にきちんと女性に目を向けるべきよ!」

 そう息巻く王女殿下に精神はがりがり削られましたけどね。

 俺は男は恋愛対象じゃないよ! 仮にアイリアちゃんが男なら――いや、いやそれでも、さすがにティーファの生まれ変わりでも俺を愛せるか自信ないわ。

 レイちゃんにむやみやたらとうざたらしくからんでたのなんてやけにアイリアちゃんが懐いているように見えて嫉妬したからだし、そうでなくても構いつけたのは昔の自分の不器用さと向き合っているようで放っておけない気がしてるだけなんだから。そこに愛はないんだよ!

 でもやっぱり相変わらず盲目的に思いこんでいるシーリィちゃんにうかつに俺の気持ちの行き先を明かすのは危険な気がして、俺はただ「善処します」とだけ応じた。

 シーリィちゃんの晴れの舞台に職務放棄なんてと不快を露わにしそうなアイリアちゃんがいない隙を狙ったからって、わざわざその話蒸し返さなくて良かったじゃないのかと思わずにはいられない。

 やっぱり少し離れたところで見守っている侍女ちゃんたちの生温かい視線が痛いんですけど。

 でも首尾良く主の許可は得られたので、俺は意気揚々と団長の説得に向かうことにした。


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