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ある前世持ち侍女の納得いかない現状  作者: みあ
番外編 ある騎士の独白

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26 説得の効果

 それからの俺は、日々王弟殿下との密会を重ねた。

 これがアイリアちゃんとだったらどれほど心はやるかと思うのに、相手がね、王弟殿下だとね、テンション上がらないよねー。

 初日以降は危険を冒して王弟宮に侵入する必要はなく、殿下ご指定の場所に参上すればいいだけだから多少気は楽だったけど、待ちかまえてるのがおっさんだもんなあ。

 不法侵入を果たした武家の新当主風情に王弟殿下が日々時間を割いてくれたのは、きっと俺が現状娘から連絡のある唯一の手段を有していて、さらには魔法が使えるということを知ったからだ。

 初日、殿下の寝所に張られていた防御結界をさらっと通り抜け、不意打ちの炎を相殺したことに目を付けられたとも言う。

 とにかく、色んな方向からうんざりするほどの質問を浴びせかけられた。

 結界を通り抜けられたのは思ったほど強力ではなかったからで、もっと強力なものを使えるヒトを知っていると言えばそれは誰だと問いつめられる。

 当たり障りなく誤魔化すの、大変だったわあー。

 城下に繰り出していた流れでさる凄腕魔法使いと知り合うことになり、一時期師事を受けることができたんだと誤魔化したけど、魔法国家と名乗るラストーズの王族に生まれて様々な書物に造詣が深く優れた魔法研究者とも聞く王弟殿下は「在野にそんな者がいるとは」と悔しげにうなっていた。

 剣士としてうろちょろしていた男――つまり俺ね――に魔法を仕込めばモノになると見抜く力を持つ魔法使いを是非招きたいと言われても、実在しない人間だしなあ。

「その者がいれば、他にも魔法を使える者を見いだせるのではないか?」

 言われても俺は苦笑するしかない。 

 当たり障りないように探ってみると、魔力は大きいのに魔法が使えないシーリィちゃんがこれから使えるようになるかもしれない可能性を知りたいという意図だとわかれば余計に。

 不器用な人だなあと感じずにはいられない。

 娘に王位を望んだのは魔法の使えない姪に苦労をさせないためで、ともすれば強硬な手段に出そうだった妃の一族を制し穏便にそれをなそうとしたのは娘に王位簒奪という汚名を着せないため。

 その結果、従姉大好きな娘に反抗されて家出されるとか、もう。

 俺に言われたくはないだろうけど、もうちょっと親子で話し合っていれば現状は違ったんじゃないかと言いたくもなるよね。

 魔法を得たにも関わらずそれを公にするつもりがないという俺の存在は、魔法を重視して物事を考えていた王弟殿下には信じられないものだったらしい。

 何故かと問われた俺は、せっかくの機会なのでそれはもうたっぷりとあれこれお話申し上げた。

 あれこれってのはつまり、魔法や魔力にこだわるいびつなこの国の現状に対する不満とかをね。真に迫るようにそれなりに盛った話に、王弟殿下は結構な衝撃を受けたようだった。

 魔力や魔法を軸にして地位が固定化され、優秀な人材が下でくすぶっている。その優秀さには魔法の有無や魔力の量は関係ない――魔法をそれなりに扱えると殿下が知ってしまった俺がそれを言うわけだからねー。

 アートレス家は、武家では唯一の公爵位だ。魔法が使えないという一点で下位に遇されている家は、そりゃー現当主である俺が「実は魔法使えるんだぜ」と明かせばぽーんと成り上がれるだろうなと予測はできるけど。

 それってなんかすごくおかしいことのように俺は思うんだよね。

 特に俺が使えるのなんて、攻撃魔法だけだよ? 成り上がって政治に食い込めるようになったところで、そこで俺の力なんて何の役にも立たない。逆に騎士位で留まっている方が有事の際に使えるじゃない?

 ……小さな小競り合いはあっても戦争なんて長く起きていない状況だから必要ない可能性の方が高いし、そもそもが魔獣に対抗するために与えられた力が今も使えちゃうだけなので人間相手に使うのは基本ご遠慮したいけど。

 これでも信心深い方なので、力を授けて下さったヴァンレイクさまに見限られるのは嫌なんですよ。いやまじでまじで。

 えーと、何の話だったっけ。

 そうそう、殿下が受けた衝撃の話ね! 

「お前ほどの力があれば」

 なんつって認めてくれたおっさんに、俺が「成り上がるつもりはないっス」と丁重な口調で応じると、「何故だ」と問いつめられたけどー。

 魔法を使えないから出世は頭打ちだと諦めていた頃の俺なら認められたら飛び上がって喜んだかもしれないけど、前世を思い出した恩恵で特に努力することなく得ちゃったものだからなあと語れない真実を語るわけにはいかず。

 その辺のことには口を噤んで、俺は「魔法の使えない武家の立場」からこの国に持つ不満を語ってみせたというわけですよ。

 耳に痛いはずの言葉に愛国心の強そーな王弟殿下が黙って耳を傾けてくれたのは、俺がラストーズ内では魔法が使えないと見下されがちなただの武家の人間でなく「魔法が使える人間」だからかなーとか思うとホントびっみょーな気になるけど。

 魔法の有無で政治に参加できるか否かを決めるのは間違ってる。ラストーズの他に魔法にここまでこだわる国はないんだからと、俺はとうとうと語ってみせた。

 国王陛下のご意向は「魔法使いにばかりこだわるだけじゃなくて、ラストーズにも精霊使いが必要だ」って感じだけど、俺はせっかくだから魔法偏重の制度の改正にも乗り出すべきだと思う。

 せっかく第一王位継承者である王女殿下が魔法を使えないんだから、魔法を使えないだけで押さえつけられている武家の地位向上をってね。別に亡き父上の念願を果たすためってわけじゃないけど、いい機会だから。

 俺は数日かけて、殿下に王女殿下を廃する危険性についてささやいた。

 実際、正当な権利を有するシーリィちゃんに期待する兵士層は多い。魔力量の問題で騎士になれず、平民上がりの兵士の上位に立つといっても同じ貴族であり武家である騎士たちから下に見られる兵士の不満は大きく、だからこそ王家に生まれながら魔法の才能に恵まれなかった王女への密やかな支持は高い――それを俺は、事実として知っているんだから。

 ラストーズは、かつてあった大国から独立して建国された国だ。長く周辺国と争い続けていたその国は、戦いの果てに一時は大陸を統一した。歴史的に見て、一瞬の栄華だったわけだけど。

 戦時には重用された魔法使い部隊を中心として、平和になった途端にお払い箱になった兵士たちが手を組み、各地で起こった反乱に呼応するような形で反旗を翻しどさくさに紛れて領土をもぎ取って成ったのがこの国ってわけで。

 このまま武家を軽んじ続けてるとそのうち歴史にならって反乱とかする奴らもでちゃうかもよ、って内容をそうっとささやいてみる。

 それを聞いた王弟殿下は非常に嫌そうな顔をなさったね。

「もしそのようなことがおこりうるとするのならば、それを先導するのはお前なのだろうな、アートレス」

「私めにそのような気概はございません」

 俺をみる殿下の目は冷ややかだけど、とっても心外だ。

 自分から争いを起こすなんて、それこそヴァンさまに見限られる要因になっちゃうじゃなーい?

 だって戦乱は人に良い感情を抱かせない、それはすなわち魔のものを生み出す力となる――俺が知る限り、全ての世界がそのようにできている。

 神は有能であっても万能ではなく、どうしても人の負の感情を消せない。なぜならば神は人を愛してらっしゃるし、負から生み出された魔とも対話できると信じていらっしゃる――かつての魔獣と一応ながら和解したように。

 だから人が存在する以上、世界は常に魔の危険と隣り合わせにある。それは致し方ないとして、わざわざ俺が戦乱の発端になって魔の危険を呼び込むとか、ないわー。

 だから懇切丁寧に俺は解説した。シーリィちゃんが王になって少しずつ国を変えていけば問題ないし、そうなればきっとレシィちゃんも希望が叶って戻る気になって大団円だ、と。

 身バレした以上特に隠す必要はないと見せることにしたレシィちゃんの手紙の一枚目――俺への無茶振りを発揮したそれを見せながら力説し、そして。

 ものすごーく渋々ではあったけど、協力を取り付けることに成功したのだった。


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