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ある前世持ち侍女の納得いかない現状  作者: みあ
番外編 ある騎士の独白

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24 仕方ないので不法侵入

 ここから数話、いつもよりご都合主義マシマシでお送りします。

 設定しただけで使いきれてなかった「隠れチート要素」のキーワードをちらりと頭の隅に思い浮かべてお読みくださいませー。

 俺は、レシィちゃんの要求を無視することまで視野に入れて、一晩じっくり考えた。

 考えれば考えるほど、混乱する思いだった。

 王女派の俺がまともな方法で王弟殿下と会うような方法なんて全く思いつかない。公に顔を合わせる算段なんて付けたら、アートレスは王女を見限ったと判断されそうだった。

 血迷った新しい当主が今更王弟派に媚びを売りに来たとか思われたくないしなー。

 自分の身を考えれば、無事を伝えるレシィちゃんの伝言は黙殺するべきだ。だけど、手紙を受け取った昨日に連絡の不備に怒りを覚えた身としては、娘に家出されちゃった父親の心情を考えずにはいられなかった。

 親に家出を謝るでもなく内容が「要求が通らない限り戻らない」なんて喧嘩を売るようなものでも、便りをよこした時点では無事に過ごしているのだということを伝えるべきじゃないだろうか。

 体調不良だと娘の不在を誤魔化し、特に取り乱した様子もなく王弟殿下は過ごしていらっしゃるようだけど――レシィちゃんの家出以降遠目でしか見ていない方の内心はわからない。

 俺が尊敬する方なら、「子を大事に思わない親はいない」と俺に伝言を伝えるように言いそうな気がする。レイちゃんなら「親でも子を捨てることがあるんですよ」とか言いそうだけど、だけどなあ、でもなあ。

 悩んだ挙げ句に、俺は翌日話の流れでシーリィちゃんに相談した。

「王弟殿下はレシィちゃんのこと心配してるのかな?」

 相談と言っても、シーリィちゃんの日課のようなつぶやき――レシィは今どうしているかしら――に、さらっとそんな疑問を投げかけただけだけど。

「え?」

「遠目で見る限り、あの方はいつも通りだよなーと思って」

「どうかしら」

 勉強から戻った後の自室でソファに身を任せたばかりのシーリィちゃんは目をぱちくりとさせてから、首を傾げる。

「心配の前に何故いなくなったのだとお怒りだろうけど、レシィのことは当然心配していると思うわ」

「やっぱり?」

「叔父さまはああ見えて愛情深い方なのよ。とってもわかりにくいけれど」

 そーなんだってうなずきながら、俺はシーリィちゃんの返答を受けて意を決した。

 どんな手を使っても、愛情深いらしい王弟殿下に伝言を伝えてレシィちゃんの要求を通すように説得することを。身の安全を考えるとためらいを覚えるけど、彼女の要望は俺のものとびっくりするくらい一致しているから。




 俺はその日の職務を張り切って終え、二日続けて訓練をさぼるのも良くないと俺を侮っている騎士連中と体を温めがてら稽古することにした。

 素行は良くなかった俺だけど、騎士たちが見ていないところではきちんと訓練していたので実力は申し分ないつもり。家の名だけで取り立てられたわけでなく、腕もそれなりにあると知られているからこそ二年前に王女殿下の護衛に取り立てられ、今も副団長に任じられたのだとそろそろきちんと理解してもらいたいよねー。

 戦争もなく、王位争いがあるといっても先日の一件以外どこかのほほんと平和を享受している騎士にはこれでも後れをとらない自信があります。

 ――なんせ、それなりにギスギスとした時代の記憶も持ってるんで。たかが記憶なんてなんの足しにもならないって?

 そりゃあ記憶があるだけじゃなんの意味もないけど、この国では得難い実戦経験は、何にも代え難い価値がある。

 俺が侮られている何よりの理由は、これまでも言動もそうだろうけど騎士にしては割合細身だからだろう。着やせするタイプなんですと言い訳しても筋骨隆々とはほど遠い、ちゃらっとした言動がお似合いのなよっちい見かけなわけ。

 俺は別にムキムキが正義とは思わないし、重さよりも早さで勝負する方だからかまわないと考えてるけど、実際に剣を交えなければ実力なんて通じないよねー。

 護衛の任についてからこっち、嫉妬やなんやかやいろいろと面倒だったもんで騎士たちと剣を交わすことがなかっただけに、あいつはちゃらちゃらして腕を鈍らせているに違いないと思われてる感があるなー。

 稽古を付けるなんて名目で声をかけた奴らはこの機会に俺の鼻っ柱を追ってやろうとやる気満々。対する俺も、力こそ正義の連中に力を見せつける気満々。

 多くの護衛の目をできるだけ避けて王弟殿下のところに進入して話を付けることを心に決めた俺は、稽古の名目でついでに殿下付きの騎士の実力とかを把握するつもりもあり、訓練用に刃をつぶしてある剣を本気で構えた。




 順調に騎士団内での影響力を高めつつ、俺は焦りは禁物だと時期を待った。

 王弟殿下は王女殿下の――つまり、王妃殿下の宮殿から正反対に宮を構えていらっしゃる。

 警備上の都合からその間取りは明らかにされていない。だけど、だ。騎士団の副団長の立場となった俺は、幸いにも警備上の理由でそれを閲覧できる立場にあった。

 言うまでもなく、職権乱用だけど。不法侵入のために王族の住まいの情報を入手するとか、罷免されても文句は言えない行為だ。それを自覚しつつ、俺は王族のレシィちゃんの命令を滞りなく遂行するための必要悪だよねと湧きそうな罪悪感に向けて言い訳していた。

 王弟宮と今は呼ばれるその建物は、同じ城内の建物だけあってかシーリィちゃんの部屋もある王妃宮と作りがよく似ていた。図面にはさすがにどこに王弟殿下がいらっしゃるかまでは書かれていなかったけれど、それもあって間取りから王弟殿下の寝所を予想することができた。

 ただ、権勢を誇る方だけあって、警備体制は王妃さまよりもよほど厳重だ。国王に忠誠を誓うという建前の騎士たちだけど、それでも派閥に様々なことが左右される。

 前騎士団長である父上が王女派に属し長く国王陛下の近衛を勤め、そのご意向に沿ってどれだけ王女殿下や王妃殿下に心を砕こうとしても、明らかに王弟派に汲みする騎士たちをお側に近づけるわけにいかなかったんだろうな。

 とはいえ、騎士を遊ばせておくわけにもいかず、自然と王弟派――王弟殿下、妃殿下や姫殿下付きの騎士が増えたってことだと思う。

 俺は少しでも人が少なくなる日を待ちながら、密かに情報を集めた。

 一番注意すべきは殿下ご自身の魔法だろうなと俺は当たりをつけた。騎士たちはできるだけ避けて動くつもりだし、日々の稽古で一人でもなんとかなりそうな人数は把握できてきた。

 練習と実戦は違うものだから、できるだけ戦闘は避けて動くつもりだけどね。

 王弟宮の侵入者と騎士が大乱闘して、みすみす侵入者を取り逃がす報なんて騎士団の責任問題にもかかるからあまり聞きたくないよねー。

 叶うならば誰にも知られないうちに殿下とお目通りして、穏便に説得したいものだ。 

 そんなわけで、無事に騎士たちの目を避けて進入できると前向きに仮定した俺が気にするべきは優れた研究者にして偉大な魔法の使い手ともっぱらの評判の王弟殿下のことになった。

 評判やら噂やらは聞いても、実際のところどうなのかは見てみなければ分からない。なのに、派閥も違う武家の人間にそんな機会はまったくない。

 ただ直接の関わりはないんだけど、シーリィちゃんが勉強に使っているのは王弟殿下が管理を任された王族の図書室に付随する部屋だ。

 道具に魔法を付与する方法を研究する人たちに協力する名目で書庫にも足を運んでいた俺は、殿下が個人的に重視する書物の並べられた一角を見たことがあった。

 だからなんとなーく殿下の研究の方向性の推測はできた。ついこの間事件があったばかりだから、殿下は寝所に強力な防御を築き上げていそうだな、とか。

 真贋の怪しい情報をつなぎ合わせて、殿下は炎を扱うのを得意としているらしいと結論づけ、対策を考える。

 誰にも知られないようにひっそりと、炎で攻撃されたときに相殺できるように氷の魔法を練習とかね。防御できたら楽なんだけど、どれだけ人生を重ねても攻撃魔法に対する適正しかないのよね、俺。

 騎士服の魔法を発動し維持できるくらいに、アートレス家は魔力を保有している。前世の知識に今世幸いにも触れることのできた本の知識をあわせれば、魔法の発動はそう難しいものじゃない。

 使える感覚を知っているからこそ、ね。

 苦肉の策でかつて身につけた相殺技術を今回も使えそうだと考えながら、俺は一通りの訓練をこなした。

 殿下が展開している防御魔法の処置の方は――うーん、穏便に消す方法なんて俺の手持ちではないからなあ。やっぱり攻撃的に破砕するしかないのかしら。

 人目を忍んで侵入したのにそんなことしたら、すぐに人来るよなー。寝所を守る騎士は一人か二人だといいな……それなら、気付かれないうちに落とせそうだし。

 そんな風に俺はあれこれ検討し様々な事態への想定を重ね、そしていよいよその日を迎えた。

 それは王弟派最大の権を誇る、王弟妃のご実家エレフ家の夜会当日。

 様々な事態に対応してのける自信をそれまでに得ていた俺は、背徳感から煽られた昂揚に支配されていて当然気付いてもおかしくなかったことに気付かないことも知らずに、やる気に溢れていた。


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