23 お姫さまは無茶振りする
顔見知りのマスター経由のレシィちゃん第一の手紙は、俺たちに一応の安心をもたらした。
無事にラストーズから出たこと、しばらく周辺国を旅して回ろうと思っていること。平穏無事な旅路と言い切れはしないが、おおむね問題ない日々を送っていること。
次期王位が確定し世情が安定した頃には戻ろうと考えているという意図が誰に――例えばマスターなんかに――見られたとしても問題ないようにものすごく婉曲な表現で記されていた。
「一応無事なのは良かったけど、旅がおおむね問題がないといううちに戻ってきてくれたらよいのに」
「そうですね」
従妹の手紙に胸をなで下ろしながらシーリィちゃんが呟くと、同じようにほっとしたような顔でアイリアちゃんが応じる。
その近くでレイちゃんが渋い顔をしている理由は、何となく想像はついたけどあまり突き詰めたくないかなあ。今晩辺り、「レシィさまに王都を案内して回るなどという危険なことを何故していたのです!」とか説教を食らう予感がひしひしとします。
手紙を言付けることができるほどの馴染みの店があるってどういうことだよって顔をしてる気がするわー。
その後予想通りに説教食らったけど、俺は前みたいに時々町へ降りることに決めた。
また同じようにマスター経由で手紙が届くかもしれないと考えれば、忙しくても足をのばすだけの価値がある。
「飛び出していったレシアがとりあえず無事を知らせた後、そうそうお前なんかに手紙よこすとは思えないけどな」
「そうだけどね」
俺宛じゃなくて、シーリィちゃんにならマメになりそうな子だからと俺はマスターの言葉をかるーく聞き流すことにした。
そんな俺のことをあざ笑うように、レシィちゃん第二の手紙が届いたのは家宛だった。
職務明けに日課にしている訓練に赴いたところで、俺は自邸の執事から連絡があったことを知った。
執事に俺の字で宛名が書かれた執事宛の手紙はできるだけ早く取り次ぐように伝えてあったので、取り急ぎ伝えてくれたらしい――昼過ぎくらいに。
なのにその連絡が俺のところまで届いてなかったってなんの意味もないじゃん!
急ぎの伝言を止めていたという悪意への怒りが、少し湧いた。そりゃあ俺に素直に従いたくない騎士たちの気持ちは、俺だってわかるけどね?
「で、急ぎだと知っていてなお、連絡をよこさなかった理由を明確に教えてもらえるかな」
万に一つの可能性を考えてあえてはじめに俺の指定した方法を避けて連絡してきた子が、指定した方法で連絡してきた意味はなんだと考えるといても立ってもいられなかった。
ただ、この場で不備を指摘しないわけにもいかず、内心やきもきしながら冷静に問いかける。
したり顔でそれらしい言い訳をする姿は見苦しい。でも、こうなったのはこれまでの自分の行いが悪いんだよなーとわかってしまって、頭ごなしに怒りをぶつけるわけにはいかない。
俺はことさら冷静に、丁寧にその言い訳を粉砕してやって、さらに平常時に些細な伝言すらまともに伝えることができない騎士が、上司に信頼されると思うのかと続けた。
ちょっとした嫌がらせのつもりで急ぎの伝言を止めた方が悪いんだし。いずれ重要な局面でそんなことをされても困る。
少し前までちゃらっちゃらしていた平騎士で今は分不相応に騎士団副団長になってしまった男に、真面目に言い諭された部下氏の屈辱に満ちた顔と言ったら。余計な恨みとか買ってそうで怖いわー。
でもいい加減そろそろ上下関係をきっちり作ってないと、有事の際に困るもんね。
騎士になってからずっと不真面目にやっていた付けを払い終わるのは先だろうけど、近いうちに力ずくで逆らわない方がいいぞと思わせる作戦でも練った方がいいかなあ。
「次からはきちんと頼むね?」
納得いっていない顔の部下にそう告げて、俺は訓練もそこそこに帰宅することにした。
そして、着の身着のままで帰ってきた俺に驚く執事から奪い取るように手紙を無事に受け取り、俺は自室に足早に向かいながらそれを開いた。
前回と同様丸っこいけど丁寧な字で書かれた手紙に、とりあえずはほっとした。わざわざ執事を宛てて「ご当主さまに中の封筒をお渡し下さい」なんてメモが入っていたし。
封筒の中に入っていた一回り小さい封筒には、他の誰の名前でなくセルク・アートレスさまと記されている。
「シーリィちゃんでなく、俺宛?」
メモと俺宛の封筒以外に他に中身がない。あの子はシーリィちゃんにこそ直接色んなことを伝えたいだろうに――この期に及んで万一を考えてるんだろうか。
首を傾げた俺は、遠慮なく開いた俺宛の手紙の中身を出した。
「これは……」
作法なんかすっ飛ばしてその後お元気かしら、から始まる文面は、次にいつも食べにいった食堂のマスターに手紙を言付けたけど心配になって指示された方法で連絡するわ、と続いていた。
そして本題は。
「――うーわー。無茶振りするなーぁ」
って思わず漏らしてしまうものだ。
大したことはないわとでも言いたげな淡々とした文面で一枚目に「姉さまが王位につけるようにお父さまを説得して」と記した後で、二枚目には荒い筆致でそのお父さまへの不満がこれでもかと書かれている。
最後「レイドルとうまくいくように陰で後押しするように」という一文で結ばれていた。
俺も考えていたことには大いにうなずけるけど、レシィちゃんのお父さま――つまり、王弟殿下を説得しろだなんて無茶振りにもほどがある。
俺、しがない武家の人間よ? 武家の中では上でも、全体では半ば。その上王弟殿下と敵対関係にある王女派なのよ?
「正当なるシーリィ姉さまに王位が渡らない限り私は戻りません、かー」
殿下の怒りをあおりそうな伝言を任せてくるって、俺をそんなに信用してくれてんの? それとも知らないうちに恨みでも買ってたんだろうか……なんでお前が娘の言葉を伝えてきたとかいって無礼打ちされることが期待されてたり?
内容によっては城にとって返してシーリィちゃんに内容を伝える気があった俺も、さすがにこんな手紙の中身を彼女に伝えることはできない。
彼女だけでなく、他の誰にも、だ。
名前の挙がったレイちゃんに見せれる内容でもないし、アイリアちゃんを巻き込むわけにもいかない。
「殿下に、穏便に言付ける方法なんて、いくら俺でも思いつかないわー」
誰かに相談したい気は、とってもしたけど。




