8 箱庭で交流を
うまいことお姫さまを助け出してシーリィちゃんの部屋まで案内することには成功したけど、予想通りレイちゃんに大目玉を食らった俺であります。
アイリアちゃんの何とも言えない視線に心貫かれながらも、さらに小言を食らいかねない事実を死守することには成功したのでまあいいかな。
レシィリアちゃんを騎士から逃がすために、護衛対象のシーリィちゃんを一時一人きりにしたって……王弟の娘をひっかけてきたというあまりの事実に、動転したらしいレイちゃんが当然気付きそうなことに気付かなくて助かったわー。
アイリアちゃんたちが戻ってくるまでも戻ってからも、しばらく二人のお姫さまは仲良く話をしてた。途中からそれに加わったアイリアちゃんも心なしかうれしそうに見えるから、俺は満足。
お見送りを申し出た俺は、彼女たちのために年長者らしく一計を案じた。
「シーリィちゃんのことが好きなの?」
「もちろん、姉さまのことは大好きよ。ふざけた声が上がらなければ、いつだって会えるはずなのに」
王女殿下らしく装ったレシィリアちゃんは子供っぽく頬を膨らませる。
「ねー、姫さまはしょっちゅうああやって側付きを振り切って逃げてるんでしょ?」
「悪い?」
「立場をお考え下さいって本当は言うべきだろうけど、俺は言わないよ」
眉間にしわを寄せて俺を一睨みした子が、一瞬でぽかんとした。俺はことさらにっこりと微笑んだ。
「あれだけ大勢に常に囲まれてたら、一人になって気を抜きたいこともあるでしょ。でも、シーリィちゃんが好きなら今度また、その一回を彼女のために使ってもいいよねー?」
「どういうこと?」
不審そうに問い返してくるレシィリアちゃんに、俺は敵対関係にある王女陣営と彼女が誰にも知られずに連絡を取れる方法を伝えた。
完全に信用したわけでもなかったんだろうけど、レシィリアちゃんは最後にはそれを了解。そして、取り巻きを巻いたはいいけど方向音痴なあまり城内にてよりによって王女の騎士に発見され、兵士に引き渡されるというある意味屈辱的な役割を演じてくれた。
彼女と別れて怒り心頭のレイちゃんを巻き込む方法に頭を悩ましてたけど、俺が戻った時にはすでに協力体勢になってたから驚きだ。
幼い頃生き別れることになった弟のことを思いだして、二人を引き離すのが忍びなくなったとか――冷静に見えて、案外レイちゃんも甘いもんだ。
後できっと連絡があると伝えて喜ぶシーリィちゃんに冗談めかして真面目なふりでに答えてたら、まるで嫉妬してるみたいにアイリアちゃんに割って入ってこられたり、見つめられたりしたので、収穫の多い一件だった。
ついついうれしくなって本気で応対したら、ものすごく動揺してたなー、アイリアちゃん。
「だけど――すぐ会える距離にいて、お互いが会いたいと思っているのに、周りの事情で会えないなんて悲しいじゃない? 自分が協力することでなんとかなるなら、助けになってあげたかった。アイリアちゃんだって、そう思わない?」
なーんとなくフェストとティーファのことをにおわせるようなことを言って、思い出さないかなあと狙ってみたり。彼女に何かを思い出したような気配はなかったけど、これまでにないくらい近くでじっくり顔を見れたから大満足。
それからしばらくして兵士を経由して届いた形ばかりのお礼状を装った便りを発端に、公には敵対している王女と王弟の姫君が今でも仲良くしているんだから、誰にとってもよいことだよねー。
レシィちゃん――って呼ぶのをあっさり許してくれた――は純粋にシーリィちゃんを慕ってたけど、シーリィちゃんと長く離れて甘言を告げる人たちに囲まれていたらそのうち考えを変えてたかもしれないし。
王位継承権争いが起きてはいてもそれはとても静かで、内乱にまで発展するような勢いがない。
何の問題もないとはいえないけど、ラストーズは表向き平和だった。それは力ずくではなく議論でもって事を成そうと派閥を押さえる王弟殿下の功績が大きいんだと思う。
それでも何かしようと考える人もいるかもしれないけど、今のところとりあえずは俺とレイちゃんという抑止力がきちんと働いているようで、特に何も起きなかった。
王弟派も自分たちが推すレシィちゃんがまだ幼いことは承知しているし、彼女がシーリィちゃんを慕っているということも知っているんだろう。
慕っているシーリィ姉さまに何かあれば反発しそうなことも――ただでさえ、抵抗して取り巻きを振り切って自由気ままに過ごすようなお姫さまだから。
レシィちゃんは従姉であるシーリィちゃんに比べて活発な女の子で、週に一度くらいは逃げ出して過ごしているらしかった。完全に逃げ切ってしれっと戻ることもあれば、見つかって連れ戻されることもある。
その途中の行動については黙秘しているらしいけど、城内にいるんだろうから別に危険なこともあるまいとそれを許されるくらいにはのほほんとしている状況。
まさか、その時々を王女殿下と過ごしているとも思わないようだし――さらにまれに城下に飛び出ているなんて、父親の王弟殿下も気付いていないらしい。
「正当な王位継承者であるシーリィ姉さまに王位が渡るようにするために、私が家出すればいいんじゃないかしら」なんていう無謀な思いつきを決行しかねない勢いのレシィちゃんを発見してしまった俺は、彼女を説得して宥めて城下での秘密の行動の共犯者になる羽目になった。
十をいくつかすぎただけのかわいー女の子が一人旅って無謀でしょ。そりゃあ本人は手加減されているとはいえ騎士数人をいいように翻弄して逃げ出せるような実力の持ち主だけど、だからって安全な旅が出来るとはとても思えない。
そもそも、レシィちゃんは慣れた城内でも時々迷っていたような方向音痴さんだ。城下でも先に一人で歩いていくとどこに行くもんだかわからない。
偶然城を飛び出そうとしているレシィちゃんを発見して半ば強引にお守り役を命じられた時はホントどうしようかと思ったけど、結果としてあの時見つけてよかった。
王族のお姫さまが無謀な出奔をするのを未然に防げたし、一緒に城下をうろつくことで城だけでは得られない情報も手に入れた。それに、口にはしないもののアイリアちゃんのことも姉のように思っているらしいレシィちゃんから、幼い頃の彼女のあれやこれやをそれとなく――シーリィちゃんの話のついでに――聞くことも出来たしね。




