5 恋愛相談には乗れない
俺はうきうきと同僚たちと親交を深めることにした。
アイリアちゃんもレイちゃんもごくごく真面目なので、かなり一方的に親密度を高めたつもりになっただけかもしれないけど。別に空回りしてないんだからっ、そう自分に言い聞かせる俺であります。
実は同僚よりも、主にあたるシーリィちゃんと一番仲がよくなったかもしれないというのは衝撃の事実だよねぇ。
恐れ多くも主をちゃん付けはじめた俺にレイちゃんとアイリアちゃんが共闘して抗議する時に、俺とシーリィちゃんの親近感はむしろ高まったと思います。
シーリィちゃんが「レイドルとアイリアがそんなに仲がよくなるなんて!」みたいな感じで衝撃を覚えているのを冷静に諭した俺も、内心は面白くなかったし。
アイリアちゃんて、レイちゃんみたいな男が好みなのかなあ。フェスト時代、俺もあんなだった気がするわー。いや、あそこまで説教臭い男ではなかったですけどね。
だから俺だってやろうと思えばあれくらい真面目に出来はするけど――アイリアちゃんとレイちゃんに加えて俺まで真面目にやりだしたら、王女さま付きの間で笑いがなくなるよね。うん、今更方針変更できない。
俺は胸の内で涙を流しながら、理路整然と俺に対して抗議するレイちゃん――ちなみにアイリアちゃんはシーリィちゃんの説得に当たっていた――の論破を試みた。
別に、アイリアちゃんと仲いいことに嫉妬したから気合い入れて言い負かそうとしたわけじゃないからね!
最後までぶつぶつ文句を口にしていたレイちゃんだけど、シーリィちゃんが見事にアイリアちゃんを論破した後、味方がいなくなったことに気付いて仏頂面でしぶしぶ「公的な場では控えて下さいよ」と何度も念押ししながら俺のちゃん付けを認めてくれたんだからこれは偉大な勝利ですよ。
「心配しなくても俺はやれば出来る子なのよ」と言ってみたら「貴方は何故そのよく回る頭と口をもっと有効に活用しないんですか?」なんて呆れられたけどね。
これまではさておき、これからは有効に活用してあえて道化を演じるんだよとは言わないでおいた。身近で接してたらいずれ気付かれそうだけど。
前はよく勉強途中に部屋から飛び出して義務を放棄していたシーリィちゃんだけど、レイちゃんに恋に落ちてからはずいぶん落ち着いた。
その結果、使った勉強部屋の片づけを自らに課しているアイリアちゃんとレイちゃんを二人その場に残して、俺と一緒に自室に戻るようになったことに彼女はいつも釈然としない顔をしている。
「アイリアは、レイドルが好きだから残っているのかしら」
それはしばらく前からのことなのに、最近はいつもシーリィちゃんはそんなことを言っている。
一国の次代を担う立場にある王女殿下なのに、この国独特の事情でもってシーリィちゃんの身の回りは静かなものだ。
魔法を使えないものに未来はないとばかりに、取り巻き一人訪れない。そして、魔法を使えないがために、十五歳をとうに過ぎても王妃さまの元から独り立ちできずに俺たち三人以外に使用人を持てない。
乳姉妹のアイリアちゃんは慣例として、教育係のレイちゃんは当然として、騎士の俺はきな臭くなった身辺ににらみを利かせるための特例として、許容されている。
アイリアちゃんとレイちゃんはいいとして、陛下のご意向だとしても騎士が一人つけることになったのは、ラストーズにあっては奇跡的なことだよなーと思います。
王女派に名乗りを上げた父上もごり押ししたかもしれないけど、王弟派の面々がアートレス家の嫡子を王女の騎士として一応は認めてくれたのは、かつての評判はともかく今は軽薄不真面目な評判が功を奏したんじゃないかな。
いやあ、前世を思い出してぐるぐるうだうだ考えた上での行動だったけど、うまく世渡りをしたもんだよ俺。
アートレスは見込みの薄い王女についたんだし、騎士になってから調子に乗っちゃってる息子が下手をやらかしたらそのまま失脚するんじゃないかって考えが透けて見える気はするよねー。
細かい事情はさておき、本当なら何人も侍女を従えていてもおかしくない王女さまの周りにはほとんど人がいなくて、シーリィちゃんが恋バナをする人間が俺しかいないってすっごい状況だよね、と思います。
女癖の悪そうな軽薄な騎士だと評判だもんね俺。王女さまの相談相手ともっとも縁遠いレッテルの持ち主ですよ。
それ騎士としてちょっとどうなのよという評判をあげるためにあれこれ画策しただけで、評判ほど女癖は悪くないですよ?
――正直なところを言うと、俺もまあ年若い男なのでなんにもなかったとは言わないけどー。いずれ出会うはずだったティーファの生まれ変わりに顔を向けられないことはしていないと胸を張って言いたいところ。
でも実際のところはともかく、そんな男に恋の相談を持ちかけるしかないシーリィちゃんの不遇には同情を覚えます。もっとも身近なアイリアちゃんが恋のライバルかもしれないんだもんね。そしてレイちゃんが想い人だもんね。
消去法で俺しか残らなかったのは仕方ないのかなー。
まさか王妃さまや王妃さま付きの侍女に話するわけにいかないもんね。
でも、だからって何回も前の人生の初恋をみっともなく引きずる男に相談されても、正直持て余すんだよね!
「うーん、アイリアちゃんは仕事熱心だから別に他意はないんじゃないかなー」
なんて、俺は自分の願望込みの言葉を吐き出すしかない。
これでも人生経験はいくつも積んでるはずなんだけどなー。成功経験に裏打ちされない言葉は薄っぺらいと我ながら感じるなあ。




