3 その時間は幸せな
俺は、アイリアちゃんの側で過ごせば過ごすほど、今の彼女は王女さま――シーリィさまが大事なんだという確信を深めることになった。
見ていればわかるよねそーゆーの。
その中で一番大きい要因は、常にシーリィさまが彼女の魔力を身にまとってるっていうことだ。
これはきっと他の誰も気付いていないことだと思うんだよね。気付いている人がいるのなら、アイリアちゃんが今のようにのほほんと侍女をやっている場合じゃなくなってるはずだから。
魔法の素養がないはずのファートレン家の娘が王女さまの周りに自分の魔力を纏わせてるなんて、気付かれてたら魔法の才能があると思われること確実だと思わない?
ご親切に武家の娘に「お前は魔法を使う素養があるようだ」とご指摘下さる上位貴族がいるかって聞かれたら、俺としては「いないんじゃなーい?」と言わざるを得ないところが微妙だけども――だって、武家の上位にあるファートレン家が成り上がったら立場が危うくなる家だってありそうだしね――、あれこれ事情はあるにせよ若くして王女さまの教育係に抜擢されるような優秀な魔法使いであるところのレイちゃんが無反応なあたり、誰も気付いていないと俺は見る。
だって同じ王女さま付きの側仕えとしてずっと一緒いるんだよ? 気付いていたら、彼なら何らかの反応をしそうな気がするんだよねー。そう俺が何となく思ってるだけだけど。
優秀だと言われてるレイちゃんでさえ気付いた気配のない事実に気付いた俺の愛の深さってすごいと思わなーい?
とはいっても。
なんでシーリィさまがアイリアちゃんの魔力を纏うことになるのか、いくら首をひねって考えても疑問だった。真っ当に育った武家の出で侍女として育てられたアイリアちゃんが魔法使えるようになる要素って皆無じゃん。
まさか彼女に直接「君魔法使えるの?」と問いかけるような愚は、さすがの俺も犯せない。
シーリィさまに守護的な魔力を分けている様子のアイリアちゃんだけども――なんて言うんだろうか。それは俺以外の誰にも気付かれた様子のない微弱なもので、実際何かに役立ちそうなものとはとても思えない。
慣例を曲げて護衛まで与えられることになった立場の弱い王女殿下を守るために無意識にも守護の魔法をかける――いかにも、これはティーファの生まれ変わりだなあとほのぼのとしてしまう。
そんなわけで、本人にうっかり尋ねるわけにはいかないなと思うわけ。口にしたが最後、ものすごく冷たい眼差しで「何言ってるんですか、セルクさま?」なんて正気を疑うような声色で尋ねられる気がするもん。
初っぱなからやらかした騎士に対する信用は限りなく低いですからね……。彼女がみるみるレイちゃんになついているように見えることに、俺はちょっとしたジェラシーを感じます。
うかつなことを口にして、限りなく低い信頼値が下がるのはご遠慮したい。すっごく気にはなるけど、興味だけで突っ走ってもろくなことがないですよきっと。
だから疑問は解けることなく持ち続けるのかなあと、俺は半ば諦めていたんだけど、解決の取っ掛かりはアイリアちゃんとの雑談をきっかけに見つかった。
彼女と話すのは楽しい。良くできた侍女として前々から噂に聞いていた彼女だけど、面と向かえば可愛らしいお嬢さんでしかない。
できるだけ理知的にあろうとしているようだけどまだまだ感情を殺しきれていない感じ?
そう言うと本人は誰のせいですかってイヤな顔するだろうな。相変わらずちゃらちゃらして、礼儀もなってないうっざい俺が原因ですよね。知ってます。
俺は真面目な彼女には受け入れがたい存在なんだろうなと自覚しておりますとも。
俺としても彼女の冷たい眼差しを目の当たりにするのはつらいところだし、意中の相手にはいいトコ見せたいんですよ?
やろうと思えばきっちり行動はできるわけだけど、真面目にすると「何か悪いもの食べたんですか?」とか「こいつ何かたくらんでやがる」みたいな無言の視線をね、感じるわけで。
もうそーなったやっぱりこのうざちゃらい感じ維持するべきじゃないかなーと。
こっちの正気を疑う視線を受ける度にフェストっぽくキリリっとしたら前世を思い出す奇跡とかやっぱり起きないかーと、落ち込むばかりの日々ですよ。
まあそんなことはさておき。
シーリィさまとレイちゃんがお勉強にいそしむ時間というのは、俺にとっては癒しの時間だ。
なんて言ったら生真面目なレイちゃんは「貴方、護衛任務の合間に何考えてるんですか」とかお小言くらいそうだけど、王位継承問題のごたごたで今後危険にさらされるかもしれない王女殿下の周りは今のところ平穏そのもの。
本当に危険なんだったら、俺一人だけでなくて王妃殿下付きの騎士たちも動員して身辺警護に当たるはずだもん。
今は対立しているとはいえ国王陛下と王弟殿下の仲は元々良好で、王弟殿下は姪である王女――シーリィさまを力ずくで排除する気は毛頭ないらしいってのが、陛下のお考えだそうだ。
態度はよくないけど実力だけは認められている俺は代々国王陛下の筆頭騎士を輩出してきているアートレス家の人間だし、それに落ちたりとはいえ指折りの名家であるホネスト家の次期当主を取り巻きに据えて「絶対、うちの娘に王位を譲るんだぜ?」アピールと牽制をしてるのが実際のところ。
王位継承順位の高さと魔法が使える点でもって優勢だと見られる王弟派が、わざわざ危ない橋を渡ってあえて王女殿下を襲撃する必要って全くないんだよね。
トップである王弟殿下がそういう行動を一番嫌って目を光らせてるようだし、下手に行動したのがバレたら自分の首が締まるってことをあちらの面々は分かってるはずだ。
そんなわけで、俺は安心してゆるゆると与えられた任務にいそしんでいる。真面目なレイちゃんをからかうのも楽しいし、レイちゃんに不満を持っているらしいシーリィさまがそれを見て楽しそうにしているのもまた面白い。
アイリアちゃんが表情を取り繕えずに何とも言えない顔でこっちを見ているのは――うん、へこむこともあるけどまあ、彼女と一緒にいるだけで俺は幸せだ。
で、日中はたいてい四人で過ごすわけだけど、午前中のシーリィさまのお勉強タイムだけは、時々彼女と二人きりで過ごせる癒しの時間ってわけですよ!
一方通行で俺だけが幸せなんだけどね!




