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ある前世持ち侍女の納得いかない現状  作者: みあ
番外編 ある騎士の独白

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2 前世と現世と

 俺ことセルク・アートレスは、前世を忘れられない男だ。

 我ながら女々しいなーとは思っても、世界を一つ救って平和をもたらした経歴の持ち主ながら自分の幸せが叶わなかったことを、生まれ変わっても生まれ変わっても、どうしたって思い出しちゃうんだよね。

 今ではずいぶん遠くなった俺の記憶のはじめ――かつての世界では歴史に名を残すフェストは、今の俺からすると馬鹿みたいに真っ正直でくそ真面目で融通の利かない男だった。

 いや、幼くして魔獣の驚異に出会い両親ごと故郷を失って、その憎しみを「憎んでたら魔獣に力与えちゃうから押さえて押さえて! かわりといってはなんだけど、君に力を貸してあげるー」とばかりに神から力を授かり、使命感を胸に感情を抑制した結果なんですけどね?

 成長過程が重かったらそりゃー割合出来た人格を身につけてもおかしくないよね。その感情を抑制して世のため人のために動いた結果、自分の幸せをつかみ損ねて初恋こじらせて、生まれ変わってこんなになっちゃったわけだけど。

 フェストの長い余生といったら、それはもーわびしいものだった。

 カッコつけて救世の旅の相方であり想い人でもあったティーファに別れを告げた自分をずうっと後悔して、暗い最後だったと思う。

 でも過去に戻れるとして戻りたいかと聞かれたら、あの時はあれで仕方なかったよなあと思える程度には俺も変わったんですよ。進化したか退化したかはご想像に任せるけど、あの頃があったからこその今の自分は嫌いじゃないし。

 そんなわけで、やけに重いような感じのある前世を思い出してから、俺はそれ以前の自分が持っていたけれど押さえつけいた不満を表現するように適当にちゃらちゃらやってきた。

 ティーファの生まれ変わりに出会っても彼女が俺というかフェストのことを覚えていないのを何度も体験してきたけど、それでも諦めきれなくて今回は違うかもしれないと思ってたんだよね。それで、あわよくば彼女を探しに行くチャンスを得られるかなと思って。

 実際のところ、唯一の嫡男が放り出される可能性低いとは知ってましたよ? ちゃらちゃらする前は逸材との呼び声も高かった俺でございまして。

 騎士になるために抑制されていたものが弾け飛んじゃっても、そのうち落ち着くんじゃね? とでもね、思われていた感が。

 順当に行けばまあ、そのうちちゃんとするつもりはありましたとも。

 前世の記憶があったところで、現実の俺は魔法国家ラストーズの中堅どころである武家筆頭アートレス家の次期当主候補(ほぼ確定)という立場から逃れられないと、誰に言われなくても十分理解してるんですよこれでも。

 恵まれた環境で育ててもらった恩は返さねばなりません。こう見えて俺はいざとなればやれる子です。やる前からほぼ確定している父の跡を継ぎ、城での立ち位置も受け継ぐ道をそつなく歩むことはじゅーっぶん可能ですとも。

 ただ、前世から忘れられない人がいて、跡継ぎを残す点に少々不安があったくらいで。

 いざとなれば、政略結婚くらい仕方ないなーとは思うわけだけども、仕方なく覚悟を決めた後でティーファの生まれ変わりに出会ったらと無駄に気を回してみたりして。だって、その彼女の記憶が今回こそあるかもしれないぞと考えると、二の足踏んじゃうよね?

 というわけで、出来れば面倒な立場はご遠慮したい俺は、家に迷惑をかけない感じで穏便に仕事を辞められないかなとうだうだやっていたのです。

 旅立ってあちこちふらふらしてたら、フェスト以降俺のことを気にかけて下さっているはずの時空神ヴァンレイクさまが俺と彼女を巡り合わせてくれるに違いないと信じて。

 ――あの方がそういう力の持ち主じゃないの知ってるけど。まあ、そーゆー気分って大事じゃない?




 それがまさか、旅に出るまでもなく同じ国内にいると思わないじゃない?

 しかも、会おうとすれば会えたかもしれない感じの距離感の、アートレス家に次ぐ武家のファートレン家の令嬢とか、なんなの?

 父親が職場の上司と部下。そんでもって一応は貴族なんだからお互いの家に招きあって家族ぐるみの付き合いとかしててくれてもよくない?

 ファートレン家は奥方が王女さまの乳母で忙しくて家を空けがちだからとか、そんな機会がなかった理由は分からなくもないけど!

 ティーファの生まれ変わり――アイリア・ファートレンと、出来れば前世の記憶を思い出す前に出会う機会があったのならなあ、と今の俺は思いますですよ。

 そうだな、出来れば五つとか六つとかで、彼女の言葉がしっかりしてきた頃がよかったなあ。舌足らずな彼女もきっと可愛かったに違いないし、そのころの俺なら年下の女の子に優しくできたと思うから。

 ティーファの記憶も持たず別の育ち方をした彼女でも、俺が好んだ根っこのところは変わらない。

 一度目の凛とした彼女も、二度目のほわーんとした彼女も、三度目以降に出会った彼女も、とにかく彼女であり、俺の気持ちは常に変わらなかったわけで。

 たとえ前世の記憶がない頃の俺でも、彼女に出会った瞬間にびびっときたに違いない。そう確信してるわけですよ!

 ああでも現実は一切合切の記憶を思い出してから出会い、予想外すぎて初対面で驚きのあまりひっどい挨拶をかました、っていう。

 ないわー、それないわー。我ながらないわー。

 今の彼女にとって、王女さまは主であるということ以上に姉妹のように育った親友のような存在で、とっても大事にしているっぽい。その王女さまの護衛騎士が、こんな俺みたいな奴なのが許せないとばかりにね、めっちゃ冷たい視線がね、びしばしとね……!

 どうでもいい奴の冷たい視線なんて気にしない俺だけど、彼女のそれは堪えます。

 今回も記憶がない彼女、好感度マイナススタート。

 これはない、ないわー。せめてもうちょっと親密になりたいという希望は叶うかしら。

 別に恋仲になろうとまでは思いませんので。

 大事な王女さまを守ろうと毛を逆立てて周囲を警戒して無意識に守護魔法まで使っている彼女もいかにも彼女らしくて大変素敵ですけども、ティーファをはじめとした前世の彼女もまた少し違う良さがあるなーとか思ってしまう俺に「ティーファの生まれ変わり」ではあっても「アイリアちゃん」に自分から恋だの愛だのささやく資格はないですから。

 でもせっかく否応なく近くで過ごすことになるんだから、ちょっとでも良好な関係になってこっそり彼女を愛でるくらい許されるよね?

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