1 動揺の初対面
・セルクの一人称による本編の裏話的番外編です。
・話数が結構かさみます。
・文体などがゆっれゆれであれこれ突っ込みどころが満載な仕様です。そういったものをおおらかな気持ちで受け入れられる時にお読みいただくことをお勧めします。
そんな感じの話ですが、よろしくおねがいしまーす。
こんなに動揺したのは、この人生で二度目のことだと思った。
目の前の人たちが愕然と自分を見ているのが視界に入っていたけど、フォローなんて出来るわけがない。なんといっても、めっちゃめちゃ、動揺してるからね!
ついさっき動揺のあまり自分が口にした言葉が意味もなく頭の中で繰り返された。
どーも王女さま、ってその挨拶何なの。
親しみを込めてセルクちゃんって呼んでとか、馬鹿なの?
不肖この俺、セルク・アートレスは、近年まれにみる優秀さを誇る騎士として若くして叙任されたはずなのに、それ以降勤務態度はそこそこで、この上なくチャラくさいと悪い意味で評判の騎士ですけども。
さすがに、王女殿下の前では取り繕おうかなーとか考えるくらいの理性はございますのよ?
魔法国家の第一王位継承者なのにちっとも魔法を使えるようになる気配もない、若干見捨てられかけている王女さまの護衛騎士なんてそのうち切り捨てられる感ハンパないと思うので「もういっそのこと、ちゃらっとやらかしてクビになった方が幸せなんじゃなーい?」とさっきかました挨拶を妄想するくらいには膿んでおりましたけどもー。
だけどそれをそのまんま表現するほどには人生捨ててないつもりだったんだけど、超やらかした!
「セルク殿、君は王女殿下に何という口を利くんですか?!」
つい先日面識を得たばっかりの新しい同僚氏が、すっごい勢いで文句を付けてきた。
「やーだ、レイちゃん。俺、これから同僚になるんだからセルクちゃんって呼んでっていったじゃなーい」
今更無かったことには出来ないので、俺はそりゃあもう心してちゃらりと言葉を返した。
「私は、先ほどきちんと殿下の前では言動を改めるように忠告しましたよね?」
ええ、それには一応「努力しまーす」と返事をした記憶がある俺でございます。
うろたえながら同僚氏――王女殿下の新しい教育係を拝命したばかりのレイドル・ホネストに、俺はてへりと舌を見せた。
「いやあついうっかり?」
我ながらよく口からそんなこと出てくるよねって勢いで、俺は見苦しく言い訳を続けた。
それを聞いて怒り心頭な様子のレイドルからちょいと視線を逸らして、呆気にとられている王女殿下の後ろの彼女の様子を確認する。
――ああ、うん。
前情報として耳にしていた、王女殿下の乳姉妹にして唯一の侍女殿は、初対面でとんでもない挨拶をかました護衛騎士=俺にさっきまで呆然としていたような気がするけど。
今は「姫さまの前で何ふざけたこと言ってんのコイツ」と今にも言い出しそうな苛立った表情を何とか押さえようと努力しているように見えた。
うん、そうだよね。俺だって、俺みたいなノリで主に挨拶かます馬鹿がいたらそうなるかもー。
なんてなことを納得しつつ、俺は落胆を禁じ得なかった。
何度生まれ変わっても忘れられない愛する人の生まれ変わりが、俺のことをちっとも覚えてなさそうな冷淡なまなざしでこっちを見ているんだからそうなっても当然でしょ?
うまいことクビになったら探しに行こうかなとか妄想していた人の前でだけは、俺やらかしちゃまずかったんじゃないの?
うっかりクビになったら、もしかしたら近くにいれば彼女が俺のことを思いだしてくれるかもーというほのかなあわーい希望だって潰えるんだから、絶望ものの失敗をやらかしちゃったんじゃ?
俺は真面目にやれと言うレイドルの促しに、挽回を期して身なりを整えてみる。
騎士服の首もとまできっちりボタンを締めると――日頃の不真面目さが仇となって慣れないし苦しいんだけどなあ。
「んでは、改めまして――ワタクシはアートレス家が一子セルクと申します。若輩の身なれどこの度国王陛下より王女殿下護衛の任を賜り、本日この時より我が総てをもってその任に邁進する所存でございます。至らぬことは多かろうかと存じますが、何卒よろしくお願い申しあげます」
真面目に頭を下げると、なんだか変に周りの空気が重苦しくなった気がした。
やれば出来るところを見せたつもりなんだけど、さっきまでがさっきだったからびっくりさせちゃったかな。
「とりあえず、こんな感じでいーい?」
ダメだ、俺、重い空気耐えられない!
彼女のつめたーい眼差しを向けられるのもつらいけど、見直してもらっても自分が困るんだよねと計算して俺は真面目なのをやめる。
「そういうことができるのなら、最初からやってずっとそれで通してくださいよ!」
驚いた顔で固まっていたレイドルが今更文句を付けても、もう俺決めたもーん。一回へましちゃった以上これで通すもーん。
「シーリィさまの御前でおふざけはやめていただきたいと私も思いますわ、アートレスさま」
通すもーんなんて思った直後に冷静な彼女にそう言われて、ちょっと気持ちがぐらついたのは秘密だ。
「だって毎日そんなじゃ疲れちゃうしー。一応場に応じた対応も出来るってことで普段は目こぼししてもらった方が、いざって時に俺役立つと思うよ?」
真面目にやっちゃうとつい前世の未練が顔出しそうな気がするなんて自分に言い聞かせて、へらへらしながらこの場の権力者である王女殿下の判断を待った。
こんなふざけた騎士お断りよ、とか言われたら一巻の終わりだよねー。
密かに緊張しながらレイドルと言葉を交わしていたら、呆然とするばかりだった王女さまは明るい笑い声をあげて、こんなふざけた騎士を認めてくれた。
魔法が使えないってだけでやたらと評価が低いけど、懐の広い方じゃない。
初対面で大ポカをやらかした騎士を笑って受け入れてくれる器の大きさ――うん、正直「魔法を使えない王を後押しすることで武家の地位向上を目指すのだ」なんて息巻く父上殿は夢見すぎなんじゃないのと考えてたんだけど。
これはひょっとすると、ずっと魔法が使えないままでもこの子女王になれる器じゃない?
「ご理解いただき何よりでございます、王女さま」
王者たるものあらゆる人間を受け入れる度量が必要だもんね。
俺はそんな器の大きい王女さまに敬意を表して真面目に一礼してみせた。




