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ある前世持ち侍女の納得いかない現状  作者: みあ
番外編

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家出姫の手紙 2

 手紙の配達を依頼して、人伝にだけど故郷の姉さまに無事を伝えた気になってからも、私は旅を続けていた。

 城を出て煩わしいすべてを振りきること自体が旅の目的で、それは無事に家出をして国から出国して追っ手の恐れが低くなった時点で叶っていた。

 何の目的もない旅なんてつまらないと思う。

 だから私は旅立つ前から第二の目的を考えていた。

 それは、姉さまの幸せを願う旅だ。より具体的に言うなら、精霊使いを探す旅。ただの精霊使いじゃなく、姉さまの思い人のレイドルの弟さんを意図していた。

 二人はお互い想いあっているように見えるのに、いまいち噛み合っていないように私からは見えた。

 お互いが、誰とも結ばれないと思っているように。姉さまは魔法が使えない王女を望む人がいるはずないと信じているようだったし、レイドルはレイドルで弟さんが精霊使いだっていうことが引っかかっているみたいだった。

 本当にそうなのかは分からないけど、私とセルクの間ではすっかりそういうことで話は決まっていた。

「レイちゃんは押しが弱いよねえ」

「あの真面目な人が、教育係の立場を忘れて姉さまを口説くようなことがあったらそっちの方がびっくりよ」

「それもそうなんだけどさー。想い合うのにすれ違ってるって、見ててやきもきしちゃうよね」

「面白がって手を出したらこじれちゃいそうだからやめてよね!」

 なーんてね。

 レイドルはどうも弟さんのことを可愛がっていたようだ――というのを、私は姉さまとの雑談で知った。

 精霊使いの才を見せたというホネスト家の次男の噂は、私だって聞いたことがある。立場上敵対している王女派の重鎮の情報だから、悪意ある脚色に満ちていたと思うけど。

 レイドルは日頃ちゃらっちゃらしたセルクとは対照的に馬鹿みたいに生真面目な人だ。可愛がっていた弟の行く末を案じて、自らが幸せになるわけにいかないと思い詰めている可能性があるんじゃないかと私は思うのよねえ。

 十年以上は前にどこかにやられたというその人を見つけだすなんて実際難しいと思うけど、無目的に旅をするよりは目的があった方がずっといい。

 ラストーズ国内にその人が留まっていたら無意味なんだけど、精霊使いが嫌われるラストーズから放り出されたと仮定して近隣の国を回ってみるのもいいと思うんだ。

 ラストーズでは嫌われている精霊使いという存在が個人的に気になってるという思いも大きい。

 精霊使いは希少で滅多に出会えないというし、その中で幼くして放逐されたホネスト家の人間を見つけだすなんて難しいと思うんだけど――もしその人に出会えたら、私はきっとその人がそうだと分かると思うのよ。

 誰でも多かれ少なかれ魔力を持っていて、そして人の魔力には色というべきものがある。色というか気配というか、なんというかそういうものが。

 血のつながりがあれば、その色はよく似ている。私と姉さまのように従姉妹同士になれば違いも大きいけれど、例えばお父さまと伯父さまのように、お母さまと叔父さまのように兄弟であればとっても似ているものなのだ。

 だからきっと、私はレイドルの弟であるその人に会えばこの人だと分かるはず。

 出会えるかどうかも分からないその人が兄であるレイドルを嫌っていないと分かればいいな、なんて希望的な観測にもほどがあると分かってるけど。

 精霊使いっていうのは、馬鹿みたいに善良ですっごくお人好しな人間ばかりなのだと伝え聞いたことがある。精霊使いを嫌うラストーズの城内では聞けなかった話も、城下でなら噂で聞けたから。

 だから、たとえ家を放り出されたその人が本当に精霊使いなら、自分の放逐には関わっていない兄を嫌っていない可能性はあると思うのよ。

 不確かな噂を信じるなんてばからしいかもしれない。でも、幼くして家を放り出された少年が生き延びている可能性を信じるのだって同じくらいばからしい。

 目標を持っていれば旅にも張り合いが出るってものだ。どれだけ可能性が低くってもそこに少しでも希望があるのならと、現実の厳しさには目を背けて私は目的のある旅をしているつもりになっている。

 果たされるともしれない目標を掲げてさまよっている間に、きっとお父さまも私の不在に諦めて姉さまの立太子を認めるに違いないわ。

 ええ。たぶん、きっと――そうだと思うけど、ああでもあの人は強情だからなあ。

 ……もうちょっと、どうにかなるようにフォローした方がいいかしら。

 にわかに不安になった私は、その日の宿で筆を執った。

 なんだかいても立ってもいられない気分で、思いのままにたくさん書き連ねてしまった。ああこれは――余りに赤裸々に事情を書きすぎていて、どう送ろうか迷う。

 前の手紙もきちんとセルクの手に渡ったか、今思うと不安なのよねえ。

 今までちゃらちゃらやっていたあの人も、お父さまを亡くされて真面目にやりはじめたようだから。ああ見えても意外と責任感のある思慮深い人だし、役職付きになったんだから前よりかやる気を出して以前ほど街に降りることが出来ない可能性もあると後で気付いたのよ。

 私が家出した後、シーリィ姉さまの周りはきっとゴタゴタするだろうし、余計にね。

 こんなことなら開封されたら分かるように封筒に魔法でもかけておくんだったわ。

 前の手紙がセルクの手に届いているとすれば、きっと同じように手紙が届くこともあると時々街に出て気にかけてくれると思う。だけど届いていないとすれば、私がまさか自分が指定しない方法で連絡をよこしたなんてこれから先も気付かないかもしれない。

 あれこれぼかして書いた前の手紙なら問題はないけど、お父さまへの文句やらあれこれを書き連ねたこの手紙を万が一にも見られたら知られてはいけないことが知られてしまうから、どのみち前と同じ方法は使えないわけで。

「これは、うーん……アートレス家宛てに出すしかないわねえ」

 私と姉さまとの交流がもし万が一知られていたら、セルク宛の手紙を検閲されかねないから危険だと思うけど、その結果お父さまが直接これを見ても十分な効果を上げるかしら?

 娘がシーリィ姉さまを慕っていたのは知っていても、まさかお父さまも敵対する立場の私とシーリィ姉さまがこっそり会っていたなんて思ってもないと思うし、そんなことされていないとは思うんだけど。

 そういうことを許しそうにないホネスト家のレイドルのことはよくご存じのはずだもの。

 私だって彼を知れば知るほど、よく黙認してくれたなあと思ったくらいだもの。

 あの真面目なアイリアとレイドルを軽く説得して、姉さまとの交流の道筋をつけてくれたセルクの腕前を私は信じるわ。

 この手紙はきっと無事にあの人に届く。そしてどうにかして強情なお父さまを言い負かして、姉さまを王位に押し上げる協力を取り付けてくれるって。お父さまの切り札の私はもういないんだもの、弱いところをつけば出来るはず。

 ああ本当はセルク以外に誰にも開封されないように魔法でもかけておきたいけど、私の魔力の痕跡を残す方が途中で気付かれる可能性が高くて危険だわ。

 私は魔法を使いたい誘惑を振り切って、家出直前にセルクから渡された封筒を取り出した。まずは手紙を自前の無地の封筒に入れてから、アートレス家の執事が宛名書きされた封筒に押し込んだ。

 それを翌朝一番にギルドに持って行くことにして、私は疲れを癒すためにベッドに飛び込んだ。


32話でちらっと出たレシィからセルク個人宛の手紙を書いた時の話っぽい。

もうちょっとフォローした方がいいかしら→父親あての心えぐる伝言をセルクに伝えるように無茶ぶり(身分差がある上に敵対関係で面会できる可能性が低いのに)、みたいな。

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