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ある前世持ち侍女の納得いかない現状  作者: みあ
番外編

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37/82

家出姫の手紙

 ――兄さん、お元気ですか?

 そう書き出して、私はうーんと考え込んだ。

 これまで手紙というものをろくに書いたこともないというのに、出来るだけ自分の現状を誤魔化してわかりにくく書くのは難易度が高い。

 何かの間違いで他の誰かの手に渡った時に問題が起きないようにはしたいけど、誤魔化しすぎて本来伝えたい人にまで話が通じないのは困るのよね。

 私は羽ペンをくるくる回してから頭をひねり、とりあえず封筒の裏に自分の名前を書き記した。

 つい先日家出してから本格的に使うようになった偽名で、レシアと。




 本来の私の名前はレシィリア。これでも、王族の姫君って奴だ。

 そんな私が家出しようと思い立ったのは、もうずいぶん前のこと。きっと、私の家出を知った周りは驚いていることだろうと思う。

 驚いているのはお父さまの他には伯父さまや従姉くらいかしら。私を妹のように可愛がってくれたアイリアやセルク、それにレイドルも。

 お母さまやそちらの親族は驚き以上に怒りを感じているかもしれない。その他の人は――きっとお父さまが娘の不祥事を表沙汰にしないように箝口令を敷いていて知らないと思うわ。

 そんなことはさておき、仮にも王族の姫だった私が家出を思いたった理由を、最初から思い出すのはちょっと苦い。 

 幼かったからといって無邪気に従姉に――魔法を使えないことを気に病むシーリィ姉さまに、「魔法を使えるようになったの!」なんて自慢げに見せたことは失敗だったなと今でも思う。

 私の国は、ラストーズは魔法使いが中心となる国だ。その国の唯一の王女であるのに魔法をいつまでも使えない姉さまは、私には言わなかったけどきっとそのことを気に病んでいたはずだ。

 悪気はなかったからって、ただ出来るようになったことを見てほしかったからなんて理由で、なにも考えずに行動したことは誉められたことじゃない。

 魔法に集中していたこともあってその時の姉さまの反応はよく思い出せないけれど、しばらく避けられて姉さまの侍女のアイリアに仲立ちを頼まなければならなかったくらいだから私に見えないところでとても悩んでいたのだと思う。

 何事もなかったように相手にしてくれる姉さまに調子に乗って、魔法を使うための助言をあれこれしたのも今思うとどうだろうか。優しい姉さまは笑って受け入れてくれたけど、内心は面白くなかったんじゃないだろうか。

 過去に戻れるのなら、昔の生意気な自分の口を後ろから塞いでやりたい。それだけの後悔をしている。

 でもそれ以上に私が苦々しく思うのは、魔法国家の跡継ぎに似つかわしくない魔法を使えない王女の代わりに、私を次期王に推す声が挙がってきたことだ。

 はじめに言い出したのは、母方の祖父。それをまさか、「王族は王を支えねばならない」と常々私に言い聞かせて、いずれは姉さまを支えるように務めろと口にしていたお父さまが受け入れるなんて思わなかった。

 お父さまも、お父さまのお考えがあってそうおっしゃったのだ――ってことは、そりゃあ今では私も分からない訳じゃないのよ?

 魔法を使えないまま魔法国家の君主として立つなんて、大変なことだろうから。きっと、姉さまのことだって考えていらっしゃったと思うわ。

 だけど、幼い私にお父さまの急激な方針転換は受け入れられなかった。

 そして周りが自分を持ち上げるなら、家出すればいいんじゃないって思いついたってわけ。

 まあ無謀な思いつきだったわよね。魔法が使えたって生活能力がない、箱入り娘が家出なんて。

 だけど思い立ったらいても立ってもいられなかった私は、前にも一度家出を試みたことがあるのよ。

 城を出る前に、発見されちゃったけどね。




 魔法を使って高い塀を乗り越えようとしていた私を発見したのは、姉さまの護衛のセルクだった。

「レシィちゃん、そんなところで何してんの?」

 周りに誰もいないことを確認して動いたつもりだったのに見つかってしまったと気付いた私は、魔法の制御に失敗して見事に落下した。

「うわー、大丈夫ー?」

「痛いわよ! 突然声をかけないでよ」

「えー、だってお姫サマが城を出ようとしているのに声をかけないって職務怠慢じゃない?」

 きょろきょろ周りをみたセルクが誰もいないことを確認して、

「まーた、お取り巻きを巻いて、オイタするつもりなの? 城内なら心配することもないけど、さすがに城を出ちゃうのは危ないと思うよー?」

 なんて軽々しく言ってくるのに私は唇をとがらせた。

 いつもへろへろ笑って何も考えていないように見えるのに、セルクは言葉巧みに私の意図を聞き出してきた。

 みっともなくしりもちをついたばつの悪さもあって頭に血が上っていた私は易々と言い含められて思いの丈を語ってしまい、その上最後には説得されてしまった。

「君みたいな外の世界を知らないちびっ子が、思いつきで城を出たってすぐに見つかって連れ戻されるか悪い人にいいように扱われてとんでもない目に遭うだけだと思うよ」

 言われてみれば確かにそれはその通りで、納得するしかなかった。

 でも私だってただ言い負かされたわけじゃない。それからごねてごねてごねた上で、外の世界で通じるように色々仕込んでもらえるように交渉してみせたんだからね!

「何で俺がこんな危険なことを……」

 ぶつぶつ文句を言うセルクを指導役にして、私はそれから数年の間市井というものがどういったものか――遠出は出来ないから王都の城に近い街中がほとんどだったけれど――学ぶことが出来た。

 姉さまたちの前ではふざけているばかりだけど、セルクの根は案外真面目だ。ことあるごとに私が無謀な行動に出ないように釘を差しながら、まさに兄のように色々なことを教えてくれた。

 本人の言うとおり王女の騎士が王弟の姫を連れ出すのは危険だったのに、約束したからって。

 その過程で私は自分の思いつきの無謀さを悟りもしたけど、いつかきたるべき日のために色々なことを身につけた。

 



 手紙はそんな日々で培った設定を利用して、王都の顔見知りに宛てて出すつもりだ。

 兄貴分にまとわりついて、王都に遊びに来ていた冒険者見習いのレシアから、その兄貴分――つまり、セルクに宛てて。

 家出の前にも十二分にその設定を利用して、あちこちの顔見知りに「兄さんとはぐれたの! でもこの機会に独り立ちして旅立とうと思ってるから兄さんの顔を見かけたら伝えておいてね!」と伝えておいた。

 一人娘の逃避行に気付いた父が追っ手を差し向けても、たやすく足が着かないように。

 まさかあの父だって、娘が何年も前から王都をうろちょろして板とは予想していないはずだ。周りの人間を巻いた上で、城のどこかで一人っきりを楽しんでいるくらいに思っていたはず。

 そんな娘がよりにもよって冒険者見習いの女の子として時々街中に繰り出して、さらには顔見知りが何人もいるなんて考えもつかないに違いない。

 突然の思いつきで城を急に飛び出した箱入りの王家の姫君を捜すつもりで捜しても、私にはそう簡単に行き着かないはずと信じて家出を決行した。情勢から見て大々的に私を捜すわけにいかないだろうから、大丈夫だって。

 ラストーズ国内を抜けるまでは緊張もしたけれど、思った通りにうまくいった。ええ、まあ――道に迷ったりもしたし、トラブルに見舞われなかったとはとても言えないけどね。

 お父さまがどれだけ優秀な方でも、内密に人を動かすには限界がある。国内さえ抜けてしまえば、追っ手なんてほとんどかからないはずだ。

 セルクはアートレス家宛てに手紙を送るようにとあれこれ指示してくれたけど、もし万が一私とのつながりが知られたらアートレス家がただでは済まないと思う。だから私は普通に配達ギルドを利用することして、ラストーズ王都の顔見知り宛にまずは一通手紙を書いた。

 もし兄さんに会うことがあったらこの封筒を渡して下さい。

 宛名の下にそうとだけ書き記して、中身には迷う。

 セルクが好んで連れて行ってくれた大衆食堂の主は人相がよくないから誤解されがちだけどいい人だ。だからきっとセルク宛の封筒の中身を開けてみるなんてことはしないと思う。

 だけど、万が一のことを考えると、あまり詳しいことなんて書けない。

 うーんうーんと首をひねっても気の利いた言葉は出てこなくて、私はそのうち面倒くさくなってきた。

「うーん、まあ、無事だってことが分かってもらえれば、それでいいか」

 本当は、きっと心配しているだろう姉さま宛にたくさん言葉を連ねたいけど、うまいこと書ける気が全くしないし。

 そうやって書き上げた文章は、誰に見られても分からないように出来るだけ短くまとめたから「姉さまの王位が定まるまで帰らないからね!」と遠回しに告げる意図を理解してもらえるかちょっと怪しい感がする。

 でも、もしそれだけで姉さまに伝わらなくてもレイドルやセルクが意訳してくれるよねと信じることにして、手紙に封をした。

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