5人の溺愛者たちとの日常 3/5
今回はヴェルデ編です。
変態度・イチャイチャ度は少ないですが、奥様の信頼度は抜群です。
私には5人の側付きがおります。旦那さまに見向きもされない私にお義母さまが『贈って』くれた方々です。彼らは元は奴隷という立場でしたが、今や立派な側付きです。
彼らは私をとことん甘やかしてくれます。それはもう、朝から晩まで。なので私も、彼らがちゃんと自分の道を一人立ち出来るようにサポートしますわ!
*・*・*・*・*・*・*
今日は王立図書館で本を探してます。勿論旦那さまの言い付けで護衛という名の見張りもいます。どこまで私は信用されてないのかしら。
その方だけだと息が詰まる、というか、彼らも見張りを信用してないのでネーロとヴェルデも一緒に付いてきました。なるべくならヴェルデにはついてきて欲しくなかったのですが……。
「ラディナ様、そろそろ何をお探しなのか教えて下さっても良いのではないですか?」
そうね……。本に関してはネーロの方がより詳しいものね。
「……近くにヴェルデはいる?」
「いえ。周りを見てくるように頼んだのでいませんよ。」
「そう。なら大丈夫ね。……実はね、ヴェルデの傷痕を消す方法がないかを調べたいのよ。」
「傷痕を、ですか?」
「ええ。私は皆の身体を見たわけではないけど、話を聞いている限りヴェルデが一番傷を付けられたんじゃないかしらと思って。あの子は身体を隠したがるし。だから、完全に消せないまでも、少しでも薄くなる方法があったらいいのだけど……。どんな本を探せばいいのかしら?」
あら?ネーロが苦笑してるわ。なんかまずいこと言ったかしら?
「妬けますね……。私のこともそこまで考えて欲しいものです。」
「え?なぁに?聞こえないわ。」
「何でもありませんよ。ちょっと棚を確認してきますので、ラディナ様はそこでお待ち下さい。」
「分かったわ。」
さすがネーロ。不慣れな私よりもよくわかってますね。他の本を見ようと振り向いたところに、
「ヴェルデ……」
「ラディナ様。」
あ、あら?周りにいないってネーロが
「ラディナ様。」
「ななな何かしら!?」
うぅ。聞かれてなかったわよね?大丈夫よね?お願いヴェルデ、何も聞こえなかったと言ってちょうだい!
「おれの傷のこと、気にして下さってたんですか?」
「…………」
ばっちり聞いてたみたいね……。
ヴェルデの傷痕は、他の4人よりも生々しいものです。首には縄らしきものに擦られたような痕、腕から手にかけての何かを押し付けられた火傷の痕、足には鞭で打ったかのような傷。そのどれもが、もう塞がっていようとも『奴隷』だったという証になるような気が私にはするのです。
ヴェルデ本人は気にしていないようですが、この傷痕が将来彼の妨げになるのではないかと危惧しております。なので私はなんとか傷痕を目立たなくさせる方法はないかと探しているのですが……。自力で探そうと思うのが無茶なのかもしれませんわね。でも、お医者様を呼ぶと旦那さまに知られてしまいますし、かと言って個人的にお付き合いのあるお医者様はおりませんので、自分で調べている次第です。確実にその方法があると分かるまではヴェルデに知られたくはなかったのですが。
「ヴェルデ?」
急にヴェルデが跪くので慌てて駆け寄りました。表情は俯いてて分かりませんが、すごく辛そうな雰囲気です。何か気に障ったのかしら?
「……申し訳ありません。ラディナ様の気分を害しているとも知らず、傷痕を晒してしまって。こんな醜くて汚い傷痕など、今後は目に入らないように気を付けますので……おれを捨てないでください。」
衝撃を受けました。まさか、ヴェルデにそんな風に受け取られるなんて……。でも誤解させたまま、こんな哀しい顔のままでいさせるなんてこと、出来ません!
「ヴェルデ」
両頬に手を当てて、私の顔を見させます。この想いが、偽りでないとわかってもらうために。
「違う、違うのよ。決して貴方の傷痕を見たくないからこんなことを言っているんじゃないの。醜くも汚くもないわ。これは貴方が耐えて、生きようとした証だもの。でもね?この傷痕はヴェルデの将来を妨げるものでもあるわ。見る人が見れば、"奴隷"だったことが分かってしまうから。貴方自身はとても素敵なのに、過去のせいで不当な扱いを受けては欲しくないのよ。だから消せる方法がないかと探していたの。信じて?」
私の言いたいこと、分かってくれたかしら。上手く言えない自分がとてももどかしいです。
「ヴェルデが嫌だと言わない限り、私は貴方を手放すつもりなんかないのよ?だからもう、そんな顔しないで。」
「ラディナ様…………おれは、貴女の元を離れる気はありません。ラディナ様がおれたちを"買って"くれると言ったその日に、おれは貴女の傍に一生いると誓いました。だから、おれの将来なんて考えなくていいんです。」
「今はそうかもしれないけれど、ヴェルデにだってやりたいことが出来るかもしれないでしょう?」
「おれのやりたいことは、ラディナ様のお世話をすることだけです。もう一つの願いだって、ラディナ様の傍じゃないと出来ないから。」
「願い?」
「はい。でも今は言えません。今度、ちゃんと準備が整ったら。」
「分かったわ。その時になったら教えてちょうだい。でもそれならやっぱり傷痕が……」
「大丈夫です。ラディナ様さえ気にならないのなら、問題ありません。ですからラディナ様、もう帰りましょう?」
「………………ヴェルデがそう言うなら。でも私に出来ることは何でも致しますから、頼ってちょうだいね?」
「もちろんです。……ラディナ様にしか出来ないことですから。」
「え?何か言ったかしら?」
「いいえ。さぁ、帰りましょう。」
「そうね。ネーロを探さな……!」
本を探してくれているネーロを呼びに行こうと振り向いた瞬間、ヴェルデがまた私を抱き上げました。私は一人でも歩けますのに……。
「ヴェルデ……」
「今日はラディナ様をたくさん歩かせてしまいましたから。」
「私、子どもじゃないのよ?」
「知ってます。」
そのあとも、降りる降ろさないの攻防をしていたのですが、戻ってきたネーロに『ラディナ様の足が浮腫んだままだと私たちがローゼオに叱られますから』と言われてしまい、抱き上げられたまま帰途に着きました。……きっとこのことも旦那さまに知られてしまいますね。
*・*・*・*・*・*
屋敷に戻り、少し早いですが湯浴みを済ませながら先程のことを振り返ります。ヴェルデはああ言ってましたが、私はまだ彼に何もしてあげられていません。
ヴェルデは、私が彼ら全員を救いたいを言った時に真っ先に信じてくれた人です。貴族夫人の、暇潰しともとれる発言に。他の方は半信半疑でしたが、ヴェルデがそう言うなら、とついてきたような節もあります。ヴェルデが信じてくれなければ、私の今の幸せはないのです。ただただ日々を無気力に暮らす、生きているのか死んでいるのか分からないような生活を送っていたことでしょう。
だからこそ、私は彼ら何かをしてあげたいのです。今のところ、何も出来てませんが……。
でも一つだけ、思い出したことがございます。それは、お母様が幼い頃に私に教えて下さった『おまじない』です。恐らく何の効果もないでしょうでが、少しでもヴェルデの心の傷が癒えればいいと思いながら実行に移すことにします。
夕食を終え、お茶を飲んでる時間(今日は旦那さまが執務でお忙しいとのことで、久しぶりにゆっくり夕食を摂ることが出来ました)私はヴェルデを傍に呼びました。
「ヴェルデ、こちらに来てくださいますか?」
「?はい。……これでいいですか?」
「腕を、出してくれます?」
私の傍に膝をついてもらって、腕を出してもらいます。その腕には無数の火傷の痕。そこを覆うようにアッズローに用意してもらった薄い布を被せます。白く薄い布は、ヴェルデの傷痕を完全に隠すことは出来ません。でもそれでいいのです。
「ラディナ様?なにを……!」
布の上から、傷痕が消えるようにと願いを込めて口付けを落とします。
お母様が教えてくれた『おまじない』。それは、お母様の真似で裁縫をして怪我をしてしまった私の手に、『痛いものが無くなりますように』と口付けを落としてくれたものです。何があるわけでもないのに、この『おまじない』をしてもらうと途端に痛くなくなるので、ずっと不思議だったんです。あれはお母様の『愛情』だったのですね。ですから、私の『愛情』もヴェルデに伝わってくれると嬉しいのですが。
粗方の傷痕に口付けを終えて顔を上げると、皆が私を呆然と見つめています。
「ラディナ様、今のはいったい」
ヴェルデが問いかけてきます。それはそうですね。突然こんなことされたら吃驚しますわよね。
「これは私の母が教えて下さった『おまじない』よ。傷痕が消える訳ではないけれど、少しでも貴方の辛い思い出が癒える、キャッ!」
ととと突然抱き上げられたら吃驚するじゃない!もう!
「何する……の」
叱るつもりでいましたのに、ヴェルデの顔があまりにも嬉しげに笑っていたものですから、私も思わず笑ってしまいましたわ。ヴェルデの少し硬くて短い髪を撫でます。案外いたずらっ子なんですのね。知らなかったわ。
「ず、ずるーーーっい!ヴェルデばっかりずるいっ!ぼくもー!」
私たちの周りが和やかな空気になったのが気に食わなかったのか、アランが騒ぎ出しました。それに続けてローゼオやアッズロー、ネーロまで『おまじない』をして欲しいと私にねだったのは、また別のお話です。
「傷痕、もっと残しておけばよかった」
本当はこの世界に傷痕を治す薬、あります!
でもべらぼうに高くて、しかも使う人が限られてるので一般には流通してません。
ヴェルデ他4人はこの薬の存在を知っていますが、特に必要なかったので奥様に知らせずにいたらラッキーになったという。