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9.ゴールデンウィークは波乱への序章。

目を覚ますと見知らぬ天井ーーーなわけもなく、生まれついた我が家だった。



「あ……そっか、帰ってきたんだった」


たった一カ月ほど離れただけなのに、こうも懐かしく感じるのは何故だろうか。




前世の記憶を持ち、二度目の生を送ることになった俺、七罪ナナツミレイ


しかも、前世での妹が熱狂していたBLゲームと似たような世界で。


そんなどこぞの小説のような体験をしているにもかかわらず冷静なのは、前世むかし今世いまも醒めた性格であることが一つの要因である。


あとは俺以外の転生者がいることと、前世での未練が特にないことがあげられる。


そりゃあ、若くして死んだんだし、まだやり残したことはあったさ。



ろくに覚えていないが、友達だっていたんだろうし……え、いたよな?もしかして、ぼっちだったりするのか?



…と、こんな風に記憶が曖昧だから余計に、“生きていたかった”という強い感情が湧かない。



忘れてしまった俺とは違って、別の世界で生きている家族たちは、今でも俺のことを覚えているのだろうか。


妹は俺が死んで、泣いたりしたのだろうか。


最期に助けた少女に、自分の所為で人が死んだ、という重荷を背負わせてしまったことが前世の俺ーー天城アマギ真琴マコトの唯一の罪だ。


中学生のときは《贖罪の堕天使》とか自称していたが、実際に罪があったわけではないので。

…断じてないので!





もうどうにもならないとわかっていても、ふとした瞬間に前世の記憶がよぎる。


俺という存在が特異な以上、それは仕方のないことだし、受け入れるしかない。


ただひとつ言えるのは、この世界が俺にとっての居心地の良い場所だってこと。


それだけで今は充分だ。









被っていた布団ふとんから這い出ると、春とはいえ五月の朝、肌寒かった。


ぬくい(※温かい)布団にもう一度戻りたい欲求と戦いながら、ラフな格好に着替える。


どうしても全体が黒っぽくなってしまうが、黒い服の比率が高いのでしかたない。

…夏は光を吸収して暑そうだ。



昨日の昼頃寮を出たのだが、学園と家の間はけっこう距離があるので、昨夜ついた。


時間がかかるのは学園周りの交通の便が悪いせいもあるだろう。

なんせ都会とは縁遠い、人里離れた山奥だし。



それにしても一ヶ月とはいえ、ずいぶん学園寮に馴れたものだと思う。


姉との電話のおかげか、ホームシックになることもなかった。


両親にも久々に会えるので、気分はめずらしく高揚している。


てっきり気持ち悪くニヤけているだろうと、顔を洗いに洗面所に行ったついでに鏡を見たら、微動だにしない無表情がそこにはあった。


…俺の表情筋、仕事しろ。






リビングに向かうと、美味しそうな匂いが漂ってきた。


「あっ、レイおはよー」


「おはよう」


笑みを浮かべて振り向いた姉さんは、淡いピンクのエプロン姿だった。


邪魔にならないようにくくったのか、俺と同じ髪色の銀のポニーテールが揺れる。


日本人の顔の造形にファンタジックなカラーは合わないと思うが、不思議と違和感はない。


俺だってオッドアイだしな。




「エプロン姿…久しぶりに見たけど可愛いね」


「えへへ、ありがとう」


「前は水色のだったよな。ピンクのは初めて見たけど、お嫁さんにしたいぐらい似合ってるよ」


「私も血が繋がってなかったら間違いなく付き合ってると思うわ〜」


「でも俺は、姉さんと実の姉弟として出会えて嬉しい。だからこそ今こうやって過ごせてるんだから」


「嶺…!」


姉さんは、感極まった様子で胸の前で両手を組んでいる。祈るような姿勢だ。



瑠衣あたりがいたら、「付き合いたてのバカップルかッ」とツッコんだであろう光景がそこにはあった。


漫画だったら、背景にキラキラした効果のトーンが貼ってあるようなラブラブ具合である。



甘ったるすぎてドン引かれるかもしれないけど、俺達にとっては普通だ。

usualだ。


身内にはすらすら喋れるので、他の人相手と違って言葉少なになることもない。


ちなみに俺はポニーテールもツインテールも好きです。(真顔)


姉さんはどんな髪型でも似合うけどな!

…シスコン?知ってる。



「朝ごはんはトースト、スクランブルエッグ、サラダよ。て、手抜きじゃないんだからねっ!?」


「なんでツンデレ風に言った?」


切り替えの早さもいつも通り。

甘い空気はすでに霧散している。


ところで我が家の朝食は和食だったり洋食だったりと、ご飯やパンを固定してはいない。

朝は米派の父さんと、パン派の母さんがいるためだ。

まあ等の本人たちは海外にいるわけだが、姉さんも俺も米とパン両方好きなため、大抵交互に出されている。


俺はスクランブルエッグと聞いてなんだか微笑ましい気持ちがこみ上げてきた。


何故なら姉さんのスクランブルエッグとは、オムレツを作ろうとした成れの果てだからだ。


「姉さん、まだオムレツ作れないんだ?」


「うっ…だってグチャグチャになるんだもの。食べたらオムレツもスクランブルエッグもいっしょだから問題ないよっ」


そうだけども。


容姿端麗、ハイスペックな姉さんだけど、意外と不器用だ。


人間、何か一つくらい欠点があったほうが親しみを感じるというのは事実らしかった。



「これ持ってくね」


「はーい」


料理の乗った皿を運ぶのを手伝い、準備を終えると2人で椅子に座る。


「「いただきます」」


「料理以外、生活能力がない姉さんが俺がいなくて大丈夫なのかと思ってたけど、案外なんとかなってるみたいだな?」


「むー、失礼ね。私を誰だと思ってるの?姉さんは完璧なのよ!」


「本当?…朱莉あかり


「嘘です、ごめんなさいまがりがたまに来て掃除してくれてます」


素直でよろしい。


幼い頃から、名前で呼ぶと姉さんは従順になる。

俺が小さかった時は『姉さん』じゃなくて『朱莉ちゃん』って呼んでたけど。




そういえば、

「父さんと母さんって今どこにいるの?」


「グルジアだって」


マイナーなとこきたな。


「パッと場所が出てこねえ…」


アメリカとかならわかるが、そんなに地理に詳しくないから、言われてもピンとこない。


仕事上、世界各国を回っている両親は居場所がころころ変わる。


二人とも連絡不精だから報告もあまりなく、今どこにいるか把握していないことの方が多いくらいだ。



二胡川にこがわくんと九重ここのえくんは明日くることになったそうだから、今日はわたしといつものメンバーで遊ぼうね」


「うん、それは構わないんだけど、なんで姉さんは俺の友達とそんなに通じあってるの」


俺本人が知らないってどうなの。



「わたしは嶺と違ってコミュ障じゃないから誰とでもすぐ打ち解けられ……って冗談だから泣きそうな顔しないの!」


「…泣きそうな顔なんてしてない」


細かな表情の変化を見分けられるのも、家族だからなのか。


でもこの前(なぎさ)に指摘されたし、ひょっとして実はわかりやすい?


無表情でもオーラ的なものが出てるとか。


「違うの嶺、違うのよ。主に九重くんとは発酵power(パワー)の関係で」


「発酵て」


腐ってる系男子と女子だった。








朝食を食べ終わった俺たちは、服を着替えて支度したくをすると待ち合わせ場所にむかった。


空は青く澄み渡り、外出に適した気候だ。微睡みたくなるぐらいポカポカと暖かい。


「あ、もうみんな着いてるみたい」


LIMEの通知にチラッと目をやりながら姉さんが言う。


「そうみたいだね。あの走ってくるのは、ゆのちゃんか…?」


前方からニーソ、ショートパンツ、ツインテールな小学生ルックでかけてきた幼…、少…、…えっと女性は、約1年たっても変わりないようだった。


大学生だし、あの低身長が改善される可能性は絶望的だろう。


あれはあれで需要がありそうだけど。

うん、まあ一言で言うなら幼女です。


「れーーーーいっっ!!」

「ぐはっ」


突撃を避けるわけにもいかず、抱きとめると腹部への衝撃。



「うわぁレイだ!本物のレイだよね!くんかくんか…レイの匂いがするお!レイレイレイレイレイレイレイ」


「あのー…、ゆのちゃん?ちょっと怖いから落ち着こうか」


見た目からは想像できないほど強い力でホールドされて、光を失ったヤンデレのような瞳をした幼女から逃げるすべはない。



この光景、一歩間違えたら通報されるんじゃ…。


冷や汗が頬をつたう。




「…ん?今ユノは何をして…」


ハッ!と我に返ったゆのちゃんは顔を上げ、真正面にいた俺と目があった。


「わわっ!レイごめんなのだっ。しばらく会ってなかったせいでレイ成分が足りてなかったのだ!」


「それなら仕方ないね。わたしは嶺成分を定期的に取らないと衰弱死するもの、ゆの(・・)の気持ちはよ〜くわかるわ」


何その成分!?


…とツッコミたかったが、姉達の間では当たり前の事実のように認知されているようなので、なんかもう諦めた。


人間、諦めがかんじんだと思う。



「昔からそうだったけど、レイの格好黒いなぁ…。あかりんと並ぶと白黒対象的で良いと思うのだ」


「姉さんは白が抜群に似合うってのは同意する」


「そんなこと一言も言ってないお!?」



七罪朱莉、姉さんは白いワンピースを着て、深窓の令嬢のようなオーラを醸し出していた。


N(姉さん)M(マジ)M(見ため詐欺)だぜ。



「嶺、そんな…照れちゃう」


「姉さん…」


「二人だけの世界つくらんといて!?」

(※つくらないで)



「なんじゃ、騒々しくしおって…お主らは周りの迷惑を考えんか」


「肯定。声のボリュームを落とすべき」



まがりあおい、ごめんね待たせて」


「曲さん、葵さん、久しぶり」


「本当に切り替えが早いのお…」


半眼でつぶやくのは佐藤さとうまがり

幼馴染みグループ唯一の良心であり、常識人だ。

いつも姉さんがお世話になってます…。

申し訳ない。


「曲、いつものこと。朱莉、私が来たのは5分前、気にしなくていい。嶺、久しぶりね。元気そうでなにより」


淡々と抑揚のない口調で告げる、小澤おざわあおい


たまに物騒な発言をするナチュラルに危険な人だが、美しい外見に引き寄せられて告白した男性は見事に玉砕しているとか。


葵さんは男嫌いだからな。

俺だって最初は近づかせてもらえなかった。




この四人+俺でいつものメンバーだ。


たまに曲さんの弟やゆの(・・)ちゃんの兄姉が混ざることもある。

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