表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/10

6.転生者会議をしましたが。

流されやすい男、七罪嶺。

「オレは確かにあのゲームをやった。だけど全ルート攻略前に死んだから、攻略対象者が何人いるか把握できてないんだ。特に隠しキャラにいたっては何もわからない」




ある日の夜、俺と瑠衣るいの寮部屋…353室に、前世の記憶持ち3人は集合していた。


今後の方針を決めつつ、平穏に過ごすため、情報の共有をするのが目的だ。



「1番くわしい瑠衣くんでもそれだもんね。僕たちにいたっては役立たずだし…」


どんよりと落ち込むなぎさ


実際にプレイしていたかどうかの差は大きい。



「俺たち、記憶の偏りがあるからな」


「全員方向性はバラバラだけど、かなり制限されてるよね」


「オレはむしろゲーム以外の記憶がすごい少ないんだぜ?2人が羨ましいな」


瑠衣のその言葉は本心からのものだろう。

前世についての話題になったとき、俺たちは残っている記憶に違いがあることを知った。



『前世の名前・前世の性格・家族構成・妹が言っていたゲーム知識・死んだ時』の記憶がある俺。


『前世の性格・家族構成、家族の名前・姉が言っていたゲーム知識・住んでいた場所』の記憶がある渚。


『前世の性格・自分でプレイしたゲーム知識・死んだ時』の記憶がある瑠衣。



共通するのは日本で生活していたということや、その暮らしの記憶ぐらいか。


ところどころが抜け落ちた、儚い記憶だ。

俺は自分のことについては比較的憶えているが、2人は名前が思い出せないという。



「ときどき、昔の夢を見るんだけどさ…。生まれてから死ぬまで生きてきた記憶があるのに、誰かに呼ばれたはずのその名は、虫食いのように音が無いんだ」


瑠衣は嘲笑わらいながら言った。



「僕が『二胡川渚』であることを、あっさり受け入れられたのはそのせいもあるかも。僕は家族の記憶があるけど、名前を呼ばれるって感覚が初めてな気がして、嬉しかったんだ」


「俺も姉さんをひそかに名前呼びするのが楽しかったりする」


お願いするときに朱莉あかりって呼ぶと、効果抜群なんだよね!


…ゲフンゲフン。(咳払い)


自分の名前を憶えている俺は、もしかしたら幸運だったほうなのかもしれない。


思い出すと哀しくなってくるので、俺たちはゲーム以外の前世の記憶について、相手が自分から話さないかぎり聞かないことにした。



きっと、それでいいんだ。


だって俺たちは今を生きているんだから、前世を引きずりすぎるのはよくない。




「ヒロインが転入してくれないと、イベントが強制で発生するのかも確かめられないしなぁ」


話題を転換した瑠衣は、困った様子で頭をかく。


「僕、会長が好きになってヒロインをイジメるの…?う、うわあ…」


すごく嫌そうな渚は、そもそも悪役に向いた人格ではないと思う。


ゲーム時は典型的な悪役だったから、記憶が戻る前の『渚』には素質があったんだろうけど。


恋は身を滅ぼすってやつか…。



「そうならないように、なんとかするんだろ?」



俺は友達をつくり、姉さんに萌えを供給しながら二度目の高校生活を楽しむため。


渚は悪役としての退学や死亡フラグが立たないようにするため。



瑠衣は親衛隊隊長の立場から学園を守り、可愛いチワワとイケメンの絡みを見るために。


あれ、瑠衣だけおかしくない?



まあ、とりあえず協力しようということになったのだ。


「「「転生者同盟、がんばるぞー!」」」


それが、先日の話。











この学園、山奥にあるからか、敷地がやたら広い。


方向音痴の俺が迷ってしまうのも無理はなく、つい一昨日おととい迷ったばかりだ。



(まあでも方向音痴も悪いことばっかじゃないな)


そのとき出会った迷い猫(?)に懐かれた俺は、今日もその三毛猫の元にやってきていた。


前世では犬を飼っていたのだが、今世では動物と触れ合う機会があまりなかったので、正直嬉しい。


心の中でニヤニヤが止まらない。

表情筋はまったく動いてないですけどね!


校舎から歩いて約10分、東側の噴水の前。

…今度は迷わないよ?


俺は、勝手に付けた猫の名前を呼んだ。


「ボルボックス、ご飯持ってきたぜ」


餌付け…もとい売店で何故か売っていたキャットフードを皿に入れて置く。


あの売店、すごい品揃えがよすぎて怖い。

メイド服とかなんのために使うの?

誰か着るの?

想像したら吐き気がした。


でも何人かは似合いそうだな、とか思った自分の頭を殴りたい。


俺の脳がこの学園に染まりつつあることに絶望を感じていると、茂みの奥から一匹の三毛猫が出てきた。


潤んだ瞳に丸っこい体。


にゃおん、と鳴くとキャットフードを食べだす。


その様子を眺めて和む俺。


猫かわいい。マジ天使。



「ボルボックス、今日はいいものがあるんだぞー」


対猫用兵器、その名は猫じゃらしである!…なんてな。


キャットフードを食べ終わったボルボックスとネコじゃらしで戯れていると、俺の背後から影がさした。



「ネーミング、センス…皆無」


振り返ると、190cm近くありそうな背の高い人物がいた。


目が隠れそうなくらい長い前髪から覗くのは、みどりの瞳。


スラリとした体躯は全体的に細いものの、よく見れば俺とは違い、けっこう筋肉がついているのがわかる。


光さえ吸い込むような漆黒の髪は、左右対称に猫(犬?)耳を象ったようにはねていた。


気安く触れることが叶わない、神秘的な美貌がそこにはあった。


この学園は全体的に顔面偏差値が高いが、その中でも彼はずば抜けて美形だ。



ネクタイについているピンの色は緑…2年か。


白銀学園の制服はブレザー。


学園自体がけっこう山奥にあるから、近隣の学校の制服は全然見ないけど、デザイン的にはいい感じだと思う。


学年によってネクタイにつけるピンで色分けされていて、1年が赤、2年が緑、3年が青…といったぐあいだ。


「はい?ボルボックスのどこが変だって言うんですか?」


俺の質問に「なに言ってんだこいつ」みたいな視線を投げかけた先輩からは


「ぜん、ぶ…?」

という無慈悲な答えが返ってきた。


嘘だろ。

素敵じゃんボルボックス。

戦慄している俺を放置して、先輩は三毛猫を抱き上げた。


されるがままにしているどころか、甘えるように鳴いているところを見ると、先輩と三毛猫は旧知の仲みたいだ。


…嫉妬なんかしてない。うん。



「…ミケ」


先輩は、猫を撫でながら呟いた。


つまり、自分が最初に『ミケ』と名付けたから、この子はミケだと主張しているのだろう。



「ミケっていうのも可愛いと思いますけど、やっぱりボルボックスのほうが可愛いと「それはない」……そうですか」


今まで聞き取りづらく単語で区切って喋っていた彼だったが、俺の台詞セリフに食い気味にはっきり反論してきた。



「なんだ、普通に喋れるじゃないですか」


「できる…けど、つかれ…る」


「ならそれでいいです。先輩のほうが先だったみたいですし、これからはミケと呼ぶことにしますよ」


「…ん」


満足げに首を縦に振る先輩。


そんなにダメか、ボルボックス。



ふと思い出したように先輩は呟いた。


「俺…言葉…わかる?」


俺の言葉がわかるのか、と驚いているらしい。

まあ、声が極端に小さいわけじゃないから意味が伝わる程度にはわかるし、ゆっくり喋ることにイラつくほど繊細な神経は持ち合わせていないのでな。



「わかりますよ」

「そ…か」


俺ほどではないにしても表情が乏しい先輩が、ニコニコしていた。


「ミケ、野良猫のらねこ。俺、が…許可とった、…ここで、飼ってる。きみも…遊び、きたらいい」


「学園の許可は取ってあったんですか。では遠慮なくこさせてもらいます」



さすがに勝手に敷地でずっと世話をみるわけにはいかないので、権限を使って許可を取ったそうだ。実に用意がいい。


権限というワードに俺の中の警鐘が鳴ってるんだけど、気のせいだよな?



「…先輩の名前を教えてもらってもいいですか?」


返ってきたのはキョトンとした反応。


自分を知らない人はいないから、質問されたことがないという有名人のそれ。

予感は的中してしまったらしい。


「きみ、は?」


先輩の名前だけ聞いて逃げ出そうと思ったのだが、どうやら無理そうだ。



(…いや、何やってんだ)


もし先輩が攻略対象者だったとしても、1人の人間であることに変わりない。


この世界がゲームのようになってしまうなら巻き込まれたくないが、現実として生きると決めたからには、今先輩をないがしろにする必要はない。


キャラとして曲がった目で見ないようにしないと。



「俺は七罪ななつみれいです。あの、外部生なので」


とってつけた理由に先輩は納得したようだった。


「俺、桜木さくらぎりょく


「桜木先輩ですね」


たしか、生徒会の書記だったはず。


桜木緑はふるふると首を横に振る。


「違う…、りょく」


姓ではなく名で呼べと?


「緑先輩?」




何をそこまで歓喜したのか先輩は俺を正面から抱きしめた。


肩に腕を回され、



ペロッ



それだけでは飽き足らず、おもむろに俺の首筋を舐め上げた。


生暖かい感触に鳥肌が立つ。


アウトッ!

完全にアウトだ先輩!


出会ったばかりの人間に対するスキンシップにしては過度すぎるんだが!?


首元に顔をうずめて舌をわすな!!



突然の行動に硬直していた俺だったが、なんとか脱出を試みる。


くっそ力が強くて振りほどけねえ。


今ほど鍛えても筋肉がつきにくい体質を恨んだことはない。


イケメンだからってなんでも許されるとは思うなよ。



「レイ、暴れる…めっ」


可愛く言ったら俺がほだされるとでも…?


でもその怒り方あざと可愛い。



俺がほだされかけていたとき、どこからか聞き覚えのある声が聴こえた。


冷たいけれど、やけに響く声音が。


「いたいた。緑、探したんですよ」


声の主に顔を向ける。

誰でもいいからまず助けてくれ、と思ったが、目があったその人は


「なぜ一般生徒を襲ってるんですか…?」


呆れと驚愕を混ぜたような複雑な表情をしている。



どこかで見たことがあるような…って副会長!?


「副、かいちょ…。レイ、いいにおい…する」


理由になってねえッ!?



クラスメイトの2人はともかく、生徒会や風紀は個人で関わることはないと思っていたんだけど、甘かったようだ。


願うのは、ゲームのように彼らが籠絡され、仕事を放り出すように堕落してしまわないこと。


渚と瑠衣よ、俺はどうすればいいんだろうな。

嶺が前世飼っていた犬の名前はケルベロス。



【登場人物】


二胡川にこがわなぎさ

通称ニコ。

転生者。前世は男。

身長165cm。

ゲームでは親衛隊の悪役チワワ。

別に生徒会なんてどうでもいいけど、襲われないため親衛隊に入っている。

天然ホワホワ。…に見えて、意外と策士。

嶺にはなんだかんだ甘いが、瑠衣には容赦がない。

チーズケーキが好き。




九重ここのえ瑠衣るい

転生者。前世は男。

身長178cm。

偽チャラ男生徒会親衛隊隊長。

常にヘラヘラ笑っている。

生徒会は観察対象であり、好きではない。

前世も今世も腐男子だがノーマルなので、身を守るためにチャラ男の振りをする。

萌えるとテンションが高くなる。

素も案外チャラい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ