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3.同室者はわけありのようですが。

れい、また明日ね!あ、そうだ。携帯の電話番号教えてよ」


「了解」


別れ際に連絡先を交換し、なぎさは向かい側の部屋に入った。




353室…ここか。


黒い扉に353と文字が刻まれていた。


そういえば、同室者は誰なんだろう?

そう思いながらカードキーを使って寮の部屋に入ると、黒髪黒目の裸の男がいた。





・・・・・・。


裸といっても全裸ではなく上半身裸の、だ。

全裸だったら冷静な俺もさすがに叫ぶわ。



視線が合った相手もこちらを向いたまま固まった。


この状況をどう打破するか。

俺の頭には選択肢が出現した。



①何事もなかったかのようにスルーして部屋に入る


②「お前誰だ」と聞く


③見なかったことにする



よし、ここは③だ。

見なかったことにしよう。



バタンッ


「ふー」


勢いよくドアを閉じた俺は一仕事終えたかのような空気を醸し出し、通路に出る。



今のはいったい誰だったんだ?


いや、まあ同室者なんだろうけど。


寮の部屋は同じクラス同士で組まれていると説明を受けた。



でも俺は黒髪黒目であんな顔をした奴なんて知らない。


…どういうことだろう。


しばらく考えていたが、これという答えが浮かばなかった。


このままここに居てもなんだしなぁ。


迷わない程度にどこかをうろうろしてみるか。

遠くに行かなければ大丈夫だろ。




踵を返そうとしたとき、背後から手が伸びてきて腕を掴まれた。


そのまま、ぐるんと体を回転させられ、中に引きずりこまれる。


ドンッと耳元で壁に手をついた音がした。



ハロー姉さん。

現在俺はイケメン金髪野郎に壁ドンされています。


前世でもされたことないのに。




「…見た?」


「まあ、黒い髪の人なら見たけど」


あれだけ目が合って見えてなかったら俺の視力が大丈夫じゃないから。


とりあえず顔が近いので離れてくれませんか。

そんな俺の願いは無視され、身長が俺より高い九重ここのえに上から覗きこまれている状態は継続中。



そう、金髪で認識できたんだが同室者は九重ここのえ瑠衣るいだったらしい。

よくよく見てみればさっきの黒髪の奴も同人物だとわかる。



金髪の印象が強くて最初は気づかなかった。

ゲームでも変装しているという描写はなかったし。


「聞かないの?変装してる理由」


九重は低い声で囁く。

吐息がくすぐったい。


変装してる理由、ねえ。


たしかにちょっと気になるけどさ。



「別に無理に聞きだそうとは思わないよ。なんか事情があるんだろ。で、俺はどこの部屋を使えばいいの」


きっぱり言うと九重は呆気にとられたような表情をした。


そしてようやく俺を腕の檻から解放する。



「えっと、ここが共用スペースで、左側をオレが使ってるから…右側。風呂やトイレはあっちだから」


共用スペースという名のリビングには大型テレビやキッチンが設置してあった。金持ちだな、ほんと。


つまり寮の部屋は共通の広い部屋が一つと個人部屋が二つで構成されてるわけか。


じゃあ俺の荷物は右の部屋に置こうっと。



「ところでさ」

「ん?」


九重はソファーに腰を下ろして振り向いた。


「いいのか?喋り方」

「っ!」


あー、気づいてなかったっぽい。

演技してるわりに迂闊すぎるだろ。


「な、なんのことかな〜?」


平静を保とうとしているが目が泳いでいる。


今さら取り繕ってバレないとでも思っているのか。



「九重が演技したいのならそっちでもいいが、どうせバレてるんだし楽なら素の喋り方でいいぞ?俺的には素で喋ってくれたほうが気持ち悪くなくていい」


「この喋り方、そんなに気持ち悪い〜?」


「吐き気がする」


「うわあ辛辣。オレもこの喋り方嫌いだからそのほうがいいけどね」



素の喋り方に戻った九重は、あははと笑う。


「ここまでバレたならついでに言っちゃうけど、オレは腐男子なんだ」


「そうなのか」


姉さん、あの本の内容は実際にありえたみたいです。

今日の夜電話してあげよう。



「オレ自身は女子が好きなノーマル。でも男どうしがにゃんにゃんしているのを見るのが趣味。だけどオレってイケメンじゃん?」


「自分で言うか」


「別にナルシストなわけじゃなくて、客観的に見てってこと。…絶対狙われる」


「だから変装してチャラ男を演じてる?」


「そう。チャラ男なら「今日はもう先約がいるから〜」とか言い訳できるでしょ?これは記憶が蘇る前、この学校に入ってからずっと演技してきたんだ。正確に言えば中等部から」


「親衛隊の…隊長?をしているのは何でだ?」


「あー、それは『瑠衣』が親衛隊の子の恋愛が近くで見れるからって前隊長から後任を引き受けちゃったんだ。親衛隊はたしかに好意が暴走気味の危ない組織だったけど、今はそんなの一部だよ。ほとんどが生徒会を慕う可愛い…なかにはガタイのいい奴もいるけど…子ばっかりだ」


だから偽チャラ男親衛隊隊長なんてやってるのか。



「親衛隊自体、隊員以外には疎まれてるから、生徒会を体で懐柔した淫乱生徒会親衛隊隊長とか呼ばれてるんだけどねー。肩書き長すぎ」


俺は九重の頭に手をおいた。


「な、七罪ななつみ?なんでオレ頭撫でられてんの?」


「無理するなよ」


泣きそうな顔して笑うんじゃねえよ。


「…オレは大丈夫だよ。それに、これからは七罪が『本当のオレ』を知っててくれるんだ」


だから大丈夫だ、ともう一度言って。


九重は再び笑った。



今度は本心からの笑顔だと思ったから、安心して俺も微笑み返した。


「…っ!?」


「九重、どうした?顔が赤いぞ」


春とはいえ夜はまだ寒い。

風邪には気をつけないとな。


「鈍感か(ボソッ)」


「何か言ったか?」


「…なんでもないぜ」


誤魔化されたような。

まあいいや。


「それにしても、趣味に関しては気持ち悪がられるかと思った」


「俺は特に偏見もたないし。醒めてるとも言うが。あと、姉が腐女子だから」


「お姉さんが!?うっわー話してみたい」


「…姉さんは渡さないからな」

「シスコン」


ぐさっときた。

本当のことだからしかたないが。



「ともかく、これで七罪の前ではオープンな腐男子でいられるわ」


はて、オープンと隠れ腐男子の違いとは具体的に

「…何するつもりだ?」


「共用スペースの大型テレビでR18のBLゲーム」


「やめろ」


自重って大事だよね!




「本当はここにはない(・・・・・・)ゲームもやりたいんだけどな。『友達じゃたりない』だってまだ全ルートクリアしてないっていうのにさー…」


「は?」


一瞬思考が止まる。



今、九重瑠衣は、なんて、言った?


「BLゲームの話、だよ」


「『友達じゃたりない』?」


聞き返すと、怪訝そうな九重。


大方、俺が知らないと思って言ったのだろう。

俺は「嘘だろ」という思いに囚われていた。



「まさか九重も前世の記憶があるとでもいうのか…」


「ナナも転生したのか!?」


いつのまにか零れていた言葉に反応する九重。


その呼び方は、七罪だからナナか?


しかしこれで確定だ。


もう1人前世の記憶持ちがいるという事実は、やはり実体験があるからなのか、あっさり受け入れられたようだ。



「ああ。ちなみに前世は高校生で終了した」

「オレも。そして前世今世とも腐男子だ」


すごい偶然だな。




そこでふと言わないといけなかったことを思い出した。


「今日わかったんだが、二胡川渚も前世持ちだ」


「うえぇぇい!?あの子、悪役にしては性格まで可愛いなーと思ってたけど、転生者だったの!?オレ親衛隊でいっしょなのに全然気づかなかったよ!?」


オーバーリアクションで驚く九重。



俺もまさか身近に2人も転生者がいるとは思わなかったよ。


もう攻略対象者にもいるんじゃないの?って気までしている。




「あ、親衛隊といえば」


「なに?」


「俺も親衛隊に入りたいんだ」


「えっ?ナナは生徒会の誰かが好きだったのか?」


「違う。人数が多いなら情報が集めやすいかなって」


俺はきっと女子が好きだ。

『嶺』は初恋もまだみたいだが。


親衛隊に入ろうと思ったのは、2人と同じ立場にたったほうがいいような気がしたから。


生徒会が避けてくれるなら楽でいいし、不当に嫌われている親衛隊、それに対するみんなの見解を変えたいと思った。



…面倒なことを率先してやるなんて、俺らしくないよな。


どうやら俺は、自分で思っている以上に信頼できる友達というものができて嬉しかったらしい。


少なくとも、友達のために何かしたいと考えるぐらいには。



前世でも醒めた性格のせいか、一歩ひいた目線だったし、『嶺』は友達がいな…くはないが、やっぱり上辺だけの付き合いに等しかった。



「そっか。たしかに情報の流れは親衛隊が1番活発だな」


「無理言ってすまん」


「親衛隊はいつでも新隊員募集中だから、問題ないよ。それにオレは、隊長だぜ?」


ニッと歯を見せる九重。そのままちらりと時計を見て、


「あ、もうこんな時間か」


と呟いた。




時刻は6時すぎ。


入学式は午後からだったので、いつのまにかけっこうな時間がたっていたみたいだ。


「俺、荷物整理してくる」


くつろいでいる九重にそう言うと、共用スペースの隅に積まれていた家から運びこまれたダンボールを片していく。


「手伝おうか?」


ダンボールは重いが、嶺のひ弱な筋肉でも持つことはできる。


ふらふらして危なっかしく見えたのだろう、九重が手伝いを申し出てくれた。


「いや、自分でできるから」


この中にはちょっと見せられないものもあるし…ね。



荷物の中身を個人部屋にならべ、整頓していく。


姉さんに持たされた一眼レフのカメラは隠しておいた。


見つかったら趣味が写真を撮ることとでも言おう。


九重は自己紹介のとき盗撮が趣味とか言いかけてたし、バレてもなんとかなりそうだけど。








共用スペースに戻ると、九重が冷蔵庫を開けて唸っていた。


「うーむ、何を作ろう」


「え、九重は料理ができるのか?」


「まあ一応。中等部からこの学園で寮生活だし、一週間前にこっちに移ったから食材も充分あるよ。けど、何作ろうかな…」


食材とにらめっこしながら悩んでいる。

悩めるほどのレパートリーがあるって素晴らしいね。



「この学園、24時間稼働の食堂があるんだっけ?」


コンビニ並みの稼働率、0時開店で24時閉店。すえ恐ろしいな…。


あとルームサービスもあるらしい。


ここホテルか何かなの?


「オレ金持ちじゃないから、食堂の料理は高すぎて毎食はちょっとな。だから朝と夜は手作り。1人分作るののも2人分作るのも変わらないから、ナナのもついでに作ろうか?」


「えっ、いいのか!?」


「いーよ」



実をいうと、料理は苦手なんだ。


まったく作れないわけじゃないが、美味しいかって言われると美味しくない出来栄え。


お菓子なら作れるのに、なんでだろうな?

不思議だ。



なので正直、九重のこの申し出はありがたかった。



「九重、ありがとな」


「…ねえナナ。瑠衣って呼んで」


「わかった。瑠衣」


「えへへー」




…何故こいつはニヤニヤしてるんだ?

【その夜の電話】


「姉さん、今日はいろいろあって疲れたよ(前世とかは言えないから詳しく話すのは無理だけど)」


『なんか萌えがあった?』


「萌えかは知らないけど、姉さんがよく言ってたチワワ系男子と仲良くなった」


『写真please(プリーズ)!今アメリカにいる父さんと母さんにも送るから!』


「(英語の発音だけやたら上手い)了解。あ、それと寮の同室者が偽チャラ男親衛隊隊長だった。まさか実在するとは…」


『偽チャラ男腐男子キタコレ。あとは王道転校生がくれば完璧ね。生徒会との絡み…生で見れないのが残念だわ。男装して侵入しようかしら』


「身内から犯罪者は出したくないのでやめて」


『嶺、あなたは立派なフラグ建築士よ。だから姉さんの萌えの生贄になって。Fight(ファイト)!』


「えー…」


『あと腐男子くんのLIME(連絡先)教えて』


姉と瑠衣が共謀して、何か企み始めることを、このときの嶺はまだ知らなかった…

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