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2.悪役だったようですが。

前世の妹は

「なにこの悪役ライバルの子!一途でかっわいいいい!!ビッチなヒロインより応援したくなるわ!」

と言っていた。


…たぶん。



というかヒロインがビッチじゃないと、ある意味乙女ゲームなどは成立しない気がするが、そういう問題ではないのだろう。



逆ハーレムとか、穿った見方をすればビッチだしな。

そこはヒロインの人格がよければプレイヤーも感情移入してできるので、製作側の腕の見せ所だ。





こういう攻略対象がいるゲームで欠かしてはならない存在、悪役。


場合によっては案外性格のいいライバルだったり、ただの咬ませ犬なこともあるバリエーション豊富なキャラクターだ。


そんな悪役の末路は学園ものだと退学なことが多い。


このゲームだとどうだったかな?


やたらエンドが多かった印象があるので、イマイチ覚えていない。



俺自身がプレイしていたらもう少し知識が役に立ったのだろうか。残念だ。



そんな悪役の代表格、生徒会親衛隊に所属するチワワ君こと二胡川渚。


彼のことを説明するには、親衛隊について説明する必要がある。



そもそも親衛隊の組織とはアイドルのファンクラブのようなものだ。


それが過激になったのがこの学園の親衛隊。


基本、顔面偏差値の高い奴ら(イケメン)には親衛隊がいると考えていい。


規模が小さいものを含めると、正確な存在数を把握している者はいないらしい。


教師にまであるというのだから驚きだ。

なかでも生徒会親衛隊は隊員の数が多く、全校生徒の3分の1くらいが所属しているらしい。



…これなんて宗教?


媚を売ったり生徒会に近づくものを排除…もとい制裁したりするので、生徒会には嫌悪されている。


俺にすれば、好きな人に嫌われたら本末転倒だと思うのだが、本人たちが満足しているなら口を出すことではあるまい。

でもこの少年、悪い子には見えないんだよなー…。


それともこれから嫉妬に狂って、主人公ヒロインをイジメてしまうようになるのだろうか?


そもそも親衛隊に入っていることが嫌そうなのは俺の気のせい?



「僕は生徒会親衛隊、その生徒会長の派閥に所属…してるんだ」


黙ってしまった俺を見て不安になったのか、自分から話し始める渚。


その声はどことなく沈んでいる。



「生徒会長が好きのか?」


生徒会長、名前に『火』が入っていたと思うがフルネームは覚えていない。


他の生徒会や攻略対象にいたっては、聞かないと思い出せないだろう。



「…好きだったみたいだね」

「つまり今は好きじゃないと」


渚は迷うようなそぶりを見せ、俺の言葉に頷いた。



ゲームのままの悪役だったなら、二胡川渚にこがわ なぎさは会長が好きすぎて近づくヒロインを勝手に制裁してしまい、それを攻略対象者の誰かに見つかって逆に罰されるような、そんな感じだったはずだ。


もちろんここは現実なので、何かしら渚が生徒会長に幻滅するような出来事があったのかもしれないが。


…が。


さっき聞こえた『脇役』だとか『キャラ』という台詞を踏まえれば、彼に起きた変化は予想できる。


普通ならありえないと爪弾くだろうけど、俺自身(・・・)の存在がなによりの証明であり答えだから。



「渚、前世の記憶とかあったりしないか?」


「っ!?」


固まる渚。しかしその様子はそれが正解であることを顕著に物語っていた。



「まさか、レイも?」


「そうだ。ちなみに昨日記憶が蘇ったんだが、『七罪嶺』として生きることにとくに疑問は持たなかったな。意外とあっさり受け入れられた」


「僕もだよ。『前の僕』と『二胡川渚』が混ざり合った感じ。どっちの要素も含むって言えばいいかな?だから生徒会長は好きじゃなくなった。だって僕は男が恋愛対象じゃないからね」


「渚は可愛いから襲われそうだけどな」


「だ、だから可愛くないよ!?それに嶺もかなり目立つ容姿だかりゃむぐっ」


顔を真っ赤にして反論する渚の口を手の平で覆う。


「渚。声大きい」



銀髪にオッドアイという中二病な容姿は俺のSAN値をガリガリと削っていくので、妥協点として目には黒のカラーコンタクトを入れることにした。


銀髪は染めるのが面倒だったからそのまま。この世界には目に痛い色の髪をしている人がたくさんいるので、問題ない。



「むぐむぐ(ごめん)」


手を離すと、声のボリュームをやや落として尋ねてきた。


「嶺の前世のこと、今度聞いてもいい?」


「まあ、覚えてる範囲だったら。その代わり、ゲームの知識とか教えてもらえるか?できるだけ関わらない方がいい人とか知りたいし」


「お安い御用だよ!…と言いたいところだけど、僕も姉に無理やりやらされただけだから詳しくは覚えてるないんだ。役に立たなくてごめん」


しゅんとなる渚。


頭の上にウサ耳の幻覚が見える…。



「まあこの世界がゲームと似ているっていっても、イベントの強制力とかがないなら大丈夫だろ。協力して情報を手に入れようぜ」


「うん!」


あ、復活した。





そんな会話をしているうちに入学式は終わった。


…一応大事な話とかは聞いてたよ?




「Sクラスから順番に教室に移動してください」


副会長が指示すると、それぞれの担任

と思われる教師がクラスの列を導いていく。この学園は個人の能力や家柄でクラス分けがされている。



Sクラスはそのトップ。

世界で有名な資産家の息子であり、勉強もできるというエリート集団だ。もちろん定番というか、容姿がいい奴らばかり。

生徒会は全員このクラス。

確か風紀もいたはずだ。



次にAクラス。

ある程度の金持ちや普通の家柄だけど勉強はできる、そんな人たちが集まる。


俺は特待生なのでAクラスだ。

家は一般庶民です。



B〜Dは良くも悪くも平凡。

Eは運動が得意な人が多い。

Fは問題児ふりょうが蔓延る、ちょっとガラの悪いクラス。



以上7クラスで一学年が構成されている。1クラスの人数は約30人だ。




校舎広いなー。


絶対迷う。

俺の方向音痴は前世からの折り紙付きだ。



案内されてついた教室は、6階だった。


席は出席番号で並べられていたので、俺の席は窓側から2番目の後ろから3番目で、俺の後ろは渚だ。


七罪ななつみ二胡川にこがわでよかった。




「よし、これで全員座ったな」


教卓から担任が教室内を見回す。



「Aクラスの担任になった月代和哉つきしろ かずやだ。まだ教師になってから浅く、頼りがいがないと思うかもしれないが、よろしく」


担任はなんというか、一言でいうとホストだった。


ちゃんとスーツを着ているのだが、どことなく色気が漂っている。

黒髪は無造作にセットされていて、泣きぼくろがあるのも色気に拍車をかけていた。



「先生、恋人はいますかー?」


「今はいないぞ」


「キャー!ボクにもチャンスがあるかもっ」

「先生に抱かれたい!」

「むしろ襲いたい」

「チワワ×教師キタコレ…!」



いったいどこからそんな高い声が出ているのか、わーきゃー騒ぐチワワ(可愛い系男子)達。


え、ここ男子高ですよね…?


困惑。


あと最後のやつ、姉さんと同類か。



「今日は最初の日だから、自己紹介だけして解散にするかー」


月代先生はそう言うと、じゃあ1番からな、と指名した。


人の顔と名前をおぼえるのは苦手だと自覚しているので、しっかりと聞く。


名前以外は何を言っても自由なので、趣味や好きな食べ物など無難なものから、将来の夢は世界征服だと言って笑いをとったものもいた。




次は番は金髪のチャラ男だ。


「オレは九重瑠衣ここのえ るいだよぉ〜。趣味は盗さt…ど、読書だよ〜!」


「チッ…淫乱親衛隊隊長かよ」


「最悪」


背は俺より少し高いくらいでイケメンなのだが、何故かすごい嫌われてるみたいだ。


みんなヒソヒソと陰口を叩いている。

しかし等の本人は気にしていないようだ。


待てよ…?


九重はさっき姉さんと同類だと思った人と同じ声だ。


明らかに喋り方が違う。


姉さんが貸してくれた…というか無理やり読まされたBL漫画に、偽チャラ男親衛隊隊長が受けの話があった。


もしかしてこいつも演技してるんじゃないか?


深読みしすぎか?

と思っていると、いつのまにか自分の番がきていた。


まずい、何を言うかまったく考えていなかった。


とりあえず立ち上がる。



「えっと七罪嶺です。好きな食べ物は甘いもの全般。外部からきたので、わからないことは教えてくれると嬉しいです。よろしくお願いします」



シーンと静まりかえる教室。


なにか変なことでも言った!?


いたたまれなくなって着席すると、

「綺麗…」

と呟きが聴こえた。



それを皮切りにし、空気がもとの穏やかなものに戻る。


「何でも教えてあげるよー」とか言われてちょっと嬉しかった。


ちゃんと優しいクラスメイトもいるんだな。


その後、渚が自己紹介したのだが、噛みまくりで和んだ。


クラス全員の自己紹介が終わると、先生は解散させた。


この学園は全寮制なので、そっちの準備が必要だからだ。


特に俺のような外部生は荷物整理などやることがたくさんある。


「嶺、寮まで一緒に行こうよ」


渚が誘ってくれたので、同行することにした。1人で行ったら確実たどりつけないだろうし。



「寮は二人部屋なんだっけ?渚は何号室なの?」


「僕は352。同室は有馬くんだよ」


有馬と聞いて爽やかな少年が思い浮かぶ。


「爽やか君か」


「うん、爽やか君だね」

渚は笑った。


「俺は353らしい」


配布されたカードキーをかざす。


「353かあ。たしか向かい側だったはずだよ」


「そうなのか。渚と近くて良かった」


「僕も嬉しいよ。寮はいったん外に行かないといけないから、けっこう遠いんだ。早く行こうっ」



渚に連れられて俺は階段を降りていく。


エレベーターもあるのだが、混んでいたのでやめた。






確かヒロイン(もちろん男)が転入してくるのは、5月という微妙な時期。


すでにクラス内のグループが出来上がっている状態から友達をつくるのはなかなか難易度が高い。


前世の俺だったら無理だわー…。


面倒になって1人で過ごすことを選びそう。






ーーーヒロイン襲来まで、あと1ヶ月。

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