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うろな町長の長い一日 その十五 祝福編

作者: 蓮城


シュウ様。


この度は『うろな企画』一周年、誠におめでとうございます。市民として、読者として、そしてファンとして心よりお喜び申し上げます。


私はつい先日入ったばかりの新入りで、それまでのうろな企画にどのような山や谷があったのかは皆さんの活動報告で伺い知る程度ですが、この街がここまで成長できたのも、ひとえに町長たるシュウさんのご尽力あってのことだと思います。


このようなことを言うのは烏滸がましいかもしれませんが、これからも共にうろな街を発展させていければ、と願っております。


住まいは近いようですし、今度一緒に飲みましょう。その時は色々とご指導ご鞭撻の程、よろしくお願いします。


最後になりましたが、改めまして、一周年おめでとうございます。


H24.05.25 蓮城




その日は、いつもとなんら変わらない晴れの日だった。古本屋『夢幻』の店主である(すめらぎ)は商店街にいた。組合長の田中さんに呼ばれたからである。話が長引きそうなのでバイトの人を先に帰して良かった、そう思いながら彼は商店街を、自分の店の方に歩いていく。


すると唐突に後ろの方で複数人が楽しそうにしている声が聞こえてきた。人間、喧噪の声は避けたいが面白そうな話には興味をひかれるものである。振り返った彼の視線の先には、一組の男女と、彼らを囲む商店街の人がいた。どうやら何かをその男女に渡しているようだ。


「あれは…確か町長さんですね。隣の女性は…奥さん?」


実際には秘密の恋人関係(もうバレている気もするが)なのだが彼はそのことを知らなかったので夫婦のように見えていた。町長と女性の仲睦まじさもそう判断した要因の一つだが、二人の波長の相性もまた中々のものである。女性の暖かい波長が、町長の優しい波長を抱き込むように覆っているのである。それは夫婦に見えるのも致し方ないというものだ。


やがていじりきったのか、人だかりは散り、二人が彼の方に歩いてきた。


「どうも、こんにちは。」


「こんにちは、貴方は確か古本屋の…」


「はい、半年ほど前に引っ越してきて、古本屋の店主をやっております皇と申します。中々挨拶に伺えず申し訳ありません」


「いやいや、私なんかにそんな畏まらなくてもいいですよ。第一、今日は公務じゃないんですから」


「なるほど。ところで失礼かもしれませんが隣の女性は奥様ですか?」


「お、おお奥様!?」


「ち、違いますよ?私は彼の秘書を務めている秋原といいます」


「秋原さんですか、はじめまして。いや、余りにも仲が宜しいようでしたので」


彼がそういうと、二人は顔を少し赤らめた。立ち話もなんですしお店にどうぞ、そういって三人は歩き出した。


「ところで、先ほど皆さんから何かを頂いていたようですし、その様子ですと他にもあちらこちら周っていたように見えますがデートですか?」


「…まぁ、そうなるのか、な?」


「町長!」


「あはは、ゴメン、秋原さん」


惚気る彼氏に恥ずかしがる彼女。これをカップルと、これをデートと呼ばずして何と呼ぶのだろうか。そんなことを皇が考えていると夫婦漫才を終えたのか、町長がこちらを向いて話してきた。


「いやですね、今日はこのうろな町に私が町長として就任してから一周年なんですよ」


「おや、そうだったのですか?」


「はい。それで、一年経ったこの町がどう変わったのかを見ようと思いましてこうして市内を巡っているわけです」


「なるほど。普段はお仕事でお忙しいでしょうからじっくりと視ることは難しいでしょうからね…あ、着きましたね。どうぞ、狭いですがおあがりください」


「ではお言葉に甘えて」


「お邪魔します」


「お二人はお茶でいいでしょうか?」


「えぇ、ありがとうございます」


お茶を煎れながら、三人は取り留めもない会話をした。最近の円相場について、国の行政の停滞、近隣諸国との軋轢…はたからみれば、まるで専門家の会話のような内容の濃さである。そのせいかお茶もいい具合に濃く点てあがった。


「ところで秋原さん。一つ、お聞きしてもよろしいでしょうか?」


「えぇ、私に答えられることなら」


「どうしてお二人はペアルックなのですか?」


「…」


その言葉を聞いた二人は少し、苦笑いをした。不味い質問だったのか、そう思い彼が口を開こうとした瞬間秋原さんが説明してくれた。


「実はその質問、今日は行く先々で聞かれてまして…」


「そうだったんですか」


「たまたま選んだ服が同じようなものだったというだけですけどね」


そんな他愛もない会話でも、時間というものは過ぎていくものである。


「もうこんな時間ですか」


「おや、そうですね。」


「そろそろ私たちはお暇させて頂きますね。美味しいお茶ありがとうございました」


「いえ、こちらこそお引止めしてしまって申し訳ありません」


「ここのお茶は美味しいですね。また来ても?」


「えぇ、いつでもいらしてください」


「仕事はサボらないでくださいね?」


「あはは、秋原さんは手厳しいな」


それぞれが別れの言葉を告げ、店を出ようとしたその時、彼が唐突に呼び止めた。


「あぁそうだ。少し、少しだけ待ってていただけますか?」


「えぇ」


町長の了承をとった彼は店の奥に行き、そして何かを手に持って帰ってきた。


「それは…?」


「これは『魔法の粉』です」


「魔法の粉…」


「危ない響きですが…?」


「いやいや、麻薬でもハッピー○ウダーでもありませんよ?この粉を振り掛けると幸せが訪れる、というものなんです。」


「「…」」


ただでさえ怪しい粉なのに、幸せになれるとまでくればまともな人間なら疑わずにはいられない。しかしそれに彼は気づかない。いや、気づいてはいるのだろうがそのそぶりは見せない


「それは信じられないのはわかりますよ?ただ、幸せといっても個人差があるんですよ。道端で100円を拾うくらいの幸せもあれば、意中の人と結ばれる幸せもあります。」


「はぁ」


「ようするにかけてみないと分からないってことなんです。ですのでこれをさしあげます」


「…え?」


「いや、使わなければそれは別にかまいません。それ自体もらいものですから」


「因みにどなたからの…?」


「昔からの知り合いですよ。腐れ縁でね、ローマ正教の司祭を務めているものです。今は確か枢機卿でしたかね…」


「そ、そんな人と知り合いなんですか。凄いですね、皇さんは…」


「世界中を旅してましたから。という訳で、枢機卿のお墨付きなので、効果は保証しますよ。ささ、貰って貰って」


半ば強引ともとれる渡し方ではあるが、『魔法の粉』を彼は秋原さんに渡した。彼ならばもっとうまい説明の仕方もあっただろうが、それに気づくのはもう少し後。


立ち去る二人を見送って、彼は再びカウンターの奥へと戻っていった。














次の書き手は朝陽 真夜様です。


http://mypagek.syosetu.com/220798/



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