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塔国のラユト  作者: 采火
継承編
33/34

32.北に座すべき信念

 最初に二階の床を踏んだラユトは、簀巻き状態で沈黙している彼を見つけた。上等な衣装を着て、北塔にいるということはもしかして───


「……お父様」


 レーリィンが驚きのあまりに目を大きく見開いて、口元を手で覆う。クラメラも息を詰まらせた。

 まさしく彼こそ、レーリィンの父でありエルド塔国王であるウォルターだった。

 ラユトはウォルターに近づいて縄を解こうとした。そこで彼の前髪に挿されているヘアピンに気づく。見覚えのある怪しい模様のそれは、ルミアが持っていたものだ。


「姫さん」


 レーリィンがラユトのすぐ後ろに立って、自分の父をじっと見つめている。そろそろ、と手を伸ばしてヘアピンを外した。ぎゅっと手に握り込む。


「ルミアがお父様を縛ったのには何か理由があるはず。事情聴取するからそのままでいい」


 そして背を向ける。


「ラユト、お父様を叩き起こして徹底的に調べ上げろ。クラメラは引き続き私の護衛。この事を叔父様に報告しに行く」


 ラユトはその背中を見る。


「いいのか、自分で確認しなくて」

「私がいたら、吐かせられるものも吐かせれないだろう?」


 レーリィンは無表情な声でそれだけ言うと帰ろうとした。だから彼女が帰る前に、ラユトは彼女のその言葉通りにウォルターの頭を思いっきり叩いた。

 清々しいほど派手な音が、ホール内に高く広く響いた。

 レーリィンはびっくりして後ろを振り返るし、レーリィンに付き従おうとしていたクラメラは顔をひくひくとひきつらせる。


「ラ ユ ト ?」


 今までで一番怖い笑顔でクラメラがラユトを見る。


「え、だって姫さん叩くなりなんなりしろって言ったし」

「それとこれとは違います! 相手は一応この国の王ですよ! 王に手を挙げるなんて……! 呆れ過ぎて言う言葉が見つかりません!」


 顔をひきつらせるクラメラにラユトはあっけらかんと言う。


「姫さんが逃げる前に起こしたかったし」


 ぴくり、とレーリィンの肩が僅かに跳ねる。


「姫さんのそれは逃げだ。真実を知る義務が姫さんにはある。もし俺ですら予想できるほどの最悪の事が起きてた場合、姫さんは知っておかなくちゃいけねぇんだよ」


 ラユトはそういいながらウォルターの襟を掴んでゆさゆさと揺さぶる。なかなか起きないので、軽くビンタもしてみたり。


「………ぅ」

「あ、起きたな」


 ラユトが満足そうに肯く。


「王サマ。姫さんをお連れしましたよ」


 縄は解かずにそのままでウォルターを座らせる。目線がレーリィンに合わさるように誘導する。


「レーリィン」


 ウォルターは驚いたようで、ぼそりと娘の名前を呟いた。暫く呆然としてから、目をつり上げて話し出す。


「お前……わ、私を殺そうとしたな! お前の使用人がつい今し方やってきて私を殺そうとしたぞ! いつの間にあんな奴を飼っていたんだ! これは歴とした犯罪だ、そこな使用人、レーリィンを捕らえよ!」


 レーリィンが憐れんだ目でウォルターを見る。


「……お父様、茶番はお辞め下さい。私のメイドに、既にあなたの息がかかっていたのは知っています」

「なっ……んだと!」


 明らかに動揺してから誤魔化すように取り繕うが、それは意味のない行為だ。自分が犯人です、と主張しているだけの虚しい行為。

 ラユトは窺うようにレーリィンを見た。レーリィンは微動だにせずにウォルターを静かに見ていた。


「姫様」

「クラメラ、叔父様に連絡してくれ。王位継承第一位を弑そうとしたのは現王だと。直ちに議会を招集し、裁判の手配をしてくれ」


 レーリィンの命令を聞いて、早速クラメラは階段へ向かいウォータックの元へ行く。

 ウォルターは一瞬レーリィンが何を言ったか分からないような体でぽかんとしていたが、クラメラの姿が見えなくなると顔を真っ赤にして怒鳴りだした。


「何を言うか、王はこの私だぞ! それに父を裁判にかけるとは何という親不孝!」


 レーリィンは一瞥して背を向けた。


「今をもって私が王です。詳細はまた後日。父だろうが誰だろうが、私は人を平気で害する人を国の頂点に置いておく気はさらさらありません」


 さらりと。呆れもなく哀しみもなく憐れみさえ無い淡々とした調子で、レーリィンは宣言する。大局を見極め正しく何をすべきかを決断する王の目。レーリィンは既に持っている。その意志も。その運命を受け入れる心構えも。

 今度こそ、レーリィンは去って行こうとする。

 ラユトはクラメラがいないので変わりに護衛をと思ったがウォルターがいるので、はてどうしようと首を傾げる。


「姫さん、めんどいなら殺すか?」


 懐から銀球を出そうとするとウォルターが短い悲鳴を上げた。情けないな、とラユトはつい思ってしまう。

 レーリィンは背を向けたまま足を止める。か細い声で囁いた。


「お前まで犯罪者にするわけにはいかないよ、ラユト。ラユトが私のバトラー君である限り、その手は汚させない。そういう契約だ」


 きっぱりと強い意志を込めた声でレーリィンは言うと、歩き去っていく。

 ラユトは仕方なく縛られたウォルターを担いで後ろに続いた。階段を下りながら、ラユトは目の前を歩くレーリィンの小さな見て、目を細める。

 レーリィンの言葉はラユトの視界を一気に開けたような感じがして、少しまばゆかった。



ラユト「そんなに気落ちすんなよ、姫さん。自分の親が黒幕だったのには同情を覚えるが、いつまでもくよくよしていてもだな、」

レーリィン「……お腹空いた(ぐったり)」

ラユト「本当に緊張感ねぇなおい!」

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