31.玉座への置き土産
北塔二階ホールで、彼は気怠そうに玉座に座していた。
そこは王の間。エルド塔国最高権力者が座する場所。
「約束の報酬を貰いに来ました」
ルミアはその場所に足音一つ無くやってきた。
彼はルミアの言葉にふん、と鼻を鳴らす。
「仕事はきっちりやったんだろうな」
疑わしそうに目をやるが、動じないルミアを見てから、隣にある袋を顎でしゃくって示した。
「報酬だ。ラミレス金貨二百枚。コレを持って行け」
ルミアは静かに袋に近づくと、袋の前で膝をついて中身を確認する。確かに輝かしい金色の硬貨がぎっしりつまっていた。
「後一つ」
「なんだ? 報酬は渡したのだからさっさと帰れ」
彼は嫌そうに顔を歪めてルミアを見た。彼はもうルミアに用はないのだ。後は結果を待つのみ。それだけだと安心しきっていたから、次のルミアの行動は意外だった。
ルミアは今までの澄まし顔を消して、いつものにこにこ顔を作る。
「お土産、置いてくから受け取ってね♡」
ルミアは僅かな怒りすら微塵にも見せず、立ち上がりざまにチャクラムを投げた。
「なっ?」
炎を纏っていないチャクラムからは紐が伸びていて、一瞬で彼の身体に巻き付いた。慌てて身をよじるが無意味だ。
ルミアはつかつかと歩み寄って、顔を寄せる。
「ごめんねぇ。お仕事の事バレちゃってさ。ルミア一人で罪被るの嫌だから、ちゃーんとルミアの分の裁きを受けといてね♪」
「な、なななななんだと!?」
彼はルミアの軽い口調に憤慨する。仕事をしないで報酬だけ貰っていくつもりなのか。それは契約違反ではないのか。
「貴様、騙したな!」
ルミアの目が氷のよりも冷ややかなものになる。チャクラムを紐から外してそのまま彼の首筋に押し付けた。
「最初に騙したのそっちでしょ? ルミアは毒を仕込むことだけしか仕事を受けなかったはずなのに、後から押し付けてくれちゃって。殺さないだけでも良しとしてくれないかな?」
「お前……ラミレスの偵察殺しをばらされたいのか!」
「あれはあなたの命令じゃん。スパイだった彼におびえてルミアに後先考えず命令した結果だよ」
その十四歳とは思えない迫力に彼は息を呑む。と、そこで何人かの階段を駆け上る音が聞こえてきた。
ルミアは静かに彼を見据えたままチャクラムを懐にしまい、少し思案してからネクタイについている最後のヘアピンを外した。
「あは、閏のラユトに幸あれ♪」
恐らく、この塔国の中で本人以外知らないであろうラユトの通り名に祝福の言葉を述べる。ルミアはラユトが何者か最初から知っていた。ただ、何の目的でこの塔国に来たかを知らなかっただけ。
アースグランのヘアピンを彼の髪に挿す。
「このヘアピンは姫様にあげてね♪」
それだけ言って彼の首に手刀を入れて意識を飛ばし、金貨のたくさん入った袋を担ぐと、近くの窓から身を乗り出して飛び出した。
と、同時に階段を登ってきた者たちが二階のホールにたどり着く。
ルミア「名残惜しいけれどここでお別れかぁ。さて、と。次はどこに行こうかな。とりあえずこの金貨を換金しなくちゃね♪」




