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塔国のラユト  作者: 采火
継承編
31/34

30.闇夜に燃える竜

「な、魔法!?」


 ラユトの驚愕の声に、クラメラが素早く後ろへ後退した。炎に焼かれるのはごめん被りたい。

 燃えるチャクラムを指に引っかけてルミアは回転させる。


「ラユト、ラユト。びっくりした? ルミアもびっくりしたんだあ。ラユトがトロル相手に魔法使ったとき。あれがちゃんとした魔法なんだな、って思った」

「魔具か。見た事ない奴だな。お前、どこで手に入れたんだそんなもん」

「さぁ? でもこれをルミアにくれた人が言ってた事によると、古代の魔具らしいよ。ちゃんとした魔法の構造は東聖霊和国でも分かんないんじゃないかなとも言ってた。ただのチャクラムが手元に戻ってくるなんて離れ業、よっぽどの事がないと出来ないよ」


 よっ、と軽くチャクラムを放つルミア。チャクラムはラユトの銀糸を焼き切った。


「このっ」


 クラメラがナイフを投げる。


「えい♪」


 ナイフは赤く燃えるチャクラムにはじかれ、さらにはレーリィンへ向かう。


「───細く長く鋭い槍!」


 言葉に感応して、糸を形作っていた聖霊達が動くのをラユトは感じた。銀の粒子が集まり、ショートスピアがラユトの手に収まる。そのまま腕を振り上げて飛んできたナイフを払った。

 ナイフの後ろからチャクラムも迫っていたので、器用に槍を操ってそれも打ち払う。


「解け!」


 そのついでとばかりに、槍が触れた瞬間、チャクラムに宿っていた聖霊を動かして、炎の宿ったチャクラムから普通のチャクラムへ戻してしまう。チャクラムは回転数を落として不自然な弧を描きながらルミアの手中に収まった。


「わー、やっぱり本場の魔法には適わないや。炎が解かれちゃった。でも根本的な構造までは解けない、と。ふーん……」


 ぶつぶつと一人で呟き、ルミアはラユトとクラメラの間をすり抜けてベランダに出る。


「姫様、ルミアは姫様が好きだったよ。だから死なない可能性のある毒を使ったんだけどね。……そうそう、帰る前にお土産を北塔に置いておくから受け取ってね♪」

「待て、ルミア!」

「……いい、ラユト。行かせてやれ」


 止めようと動いたラユトをレーリィンが制止する。不満そうな顔でラユトはレーリィンを一瞥してから、槍を解いて手のひらサイズの球体に戻す。

 クラメラも移動して、レーリィンの横に待機した。


「ルミア、私は味方が欲しい。また戻ってくる気になったら、帰ってきてくれ」

「んー、そんな事は無いと思っておくのが最良だよ♪」


 最後の最後でルミアは明るくレーリィンの申し出を断って、ベランダから飛び降りた。トサッと土と草の音が聞こえたので無事に着地しただろう。

 ラユトは暫くルミアの去ったベランダを見つめていたが、やがて視線をずらした。


「姫さん、どうする」

「ルミアの土産を取りに行くしかないだろう」


 あっけらかんと言われ、ラユトは軽くため息をつく。


「罠だったら?」

「可能性としてはあるが、バトラー君もクラメラもいるんだ。大事ない」


 レーリィンはそう言ってラユトの首に抱きついた。


「え、あ、ちょ」

「まだ全快でないのだ。ラユト、連れて行ってくれ」


 むぎゅう、と思いっきり腕を回して抱きつく。というよりも、身長からしてレーリィンがラユトにぶら下がっている状態だ。


「姫様、はしたないです」

「いいじゃないか。ほれ、抱えろ」


 クラメラを無視してレーリィンがラユトに言う。さっきまでの緊迫していたムードが一気に弾けてしまったようだ。

 ラユトは渋々レーリィンを抱える。そして自分の身の内だけに収めようと思っていた言葉が、思わずといったていで滑り落ちる。


「……やっぱ、思ったよりも軽い」

「それ主に向かって言うべき言葉じゃないとか言う以前に女性に言うべき言葉じゃないぞ」


 ぺちり、とラユトの頭を叩いて注意する。真の紳士ならばそんな事言わないぞ、と目で訴えられたが、ラユトは紳士でありたいとは思ってないのでスルーする。


「メイド長ー、めんどいんであっちから行っていいか?」


 ラユトはドアとは反対の方向にある場所を指さす。


「仕方ありませんね。今日だけですよ」

「ん? どこから行くんだ?」


 レーリィンはラユトの指の先を視線で辿る。その指が差しているのは、


「……ベランダ?」

「そうだけど?」


 ラユトがしっかりレーリィンを抱える。クラメラもスカートを動きやすいように摘む。


「お、おい。やっぱりやめよう、お前達二人で行ってきて、」


 ラユトとクラメラが固まるレーリィンを無視してベランダに歩み寄る。ルミアが出て行った大窓は開けっ放しで、カーテンがふわりふわりと揺れている。


「よ、っと」

「ひぃいいいいいいいい!? ここは二階だぞ、高いぞ!」


 手すりに飛び乗ったラユトに向かってレーリィンが怒鳴りつける。


「大丈夫大丈夫、たった二階だから。ルミアも飛び降りていったし」


 そういう問題ではない気がする。

 レーリィンは頬をひきつらせた。


「は、はは……」

「姫様、怖いなら目を瞑っていては如何でしょう」

「言われなくてもそうする」


 ぎゅ、とますますラユトにしがみついてレーリィンは固く目を閉じる。ラユトはちょっぴり照れたように遠くを見た。


「では行きましょうか」

「御了解」


 クラメラが手すりを越えて、ふわりと飛び降りる。ラユトがそれに続くと、レーリィンの身体は一瞬の浮遊を体験してから、魂が取り残されて肉体だけが落ちる感覚を感じ、絶叫した。



レーリィン「バトラー君のバカぁぁぁぁぁぁ!!!」

ラユト「喋ると舌噛むぞ、姫さん」

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