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塔国のラユト  作者: 采火
継承編
29/34

28.地下牢の密会

 カチャンと軽い音を立てて牢の戸を閉めると、ラユトは戸に錠前をつけた。

 北塔地下にある牢はじめじめとしていて、明かりもあまり大きくない。光の差さない地下だと時間の感覚が分からなくなってしまう。罪人の処分が決まる短期間だけ使用するだけだが、そんな牢に入っているリュイは少し不満げだ。


「にーちゃん、なんでコダカと一緒に入れてくれねーんだよ」

「仕方ねぇだろ? お前ら一応、犯罪組織のボス級なんだから」

「ちぇっ」


 リュイはふてくされたように、どかっと地面に座り込んだ。


「そっちに寝台あるからそっち座れ。地面硬いだろうから」


 ラユトが指を差した方には簡素ながらも清潔な寝台が置かれていて、罪人の扱いとしては上々な待遇だ。国によっては人間扱いをされない牢があるので、それを思うとエルド塔国はかなり罪人に対しても優しいと言える。


「くっそー、あのウォータックてやつ正論過ぎて嫌だ」

「こらリュイ。メイド長じゃねぇけど相手は王族なんだから敬語使え」

「にーちゃんもタメだったじゃん!」

「俺はいいんだよ」


 リュイの口調は軽く不敬罪だ。ラユトも人のことを言えないが、本人から何も言われなかったから良しとする。


「んじゃ、ちょっと大人しくしてろよ。ほとぼり冷めたらたぶん出してやれるから……あ、犯罪者だから期待はすんな。そのまま処刑台直行もありえるから」

「軽い口調で死刑宣告すんなー!」


 鉄格子をぎりぎりと握りしめてすごい形相で睨みつけてくるリュイにラユトは背を向けて、コダカのいる向かいの牢に声をかける。


「コダカ、リュイがアホなことやらないよう見張っていてくれ。下手に牢番とか刺激したら厄介だからな」

「承知」


 コダカは今にも「肉体美!」と叫び出しそうな無駄なポージングで肯く。こちらもこちらで不安だ。コダカに暇を与えたら何をするのか観察日記を付けてみると面白いことになりそうだ。


「んじゃなー」


 ラユトはそう言うと、その場を立ち去る。

 北塔の一階は半分で仕切られている。入り口近い前半分には地下に続く階段と、後ろ半分の部屋に続くドアがあるだけだ。後ろ半分には二階へ続く階段があって、その二階からは東塔のホールのように一階一室となっている。一階分の高さはほかの塔の二階分の高さになっている辺り、さすが王様仕様だ。

 地下に続く階段は牢へと続いている。地下は全部で三階あり、一階層ごとに分厚い鉄のドアが遮っている。エレベーターはなくて、階段のみの移動だ。

 地下一階は大きめの牢が四つ、地下二階は中くらいの牢が八つ、地下三階は個室が十六ある。リュイ、コダカは三階の牢にいるが、後の盗賊は全員、地下二階の牢を八つ全て使って捕らえている。

 ラユトは地下三階から階段へ続くドアを閉めて鍵をかけると、上を目指して歩き出した。しばらくは、カツンカツン、というラユトの足音だけが響く。


「……ん?」


 地下一階に着いたとき、誰かの話し声が聞こえた。その階は使用されていないはずなのに、明かりもついている。

 ラユトは上へ登るのをやめて、壁越しに耳を済ました。


「手はず通りなのか」

「はい。毒は姫様の身体を確実に蝕んでいます。解毒の薬も作られているようですが、問題ありません」


 男と女の声。地下に響く声のうち一つはよく見知った者の声だ。もう一つは知らない。


「毒は盛りました。私の仕事はおしまいです。報酬を」

「……甘いな」


 男の声が低く響く。


「お前が手を下せ」

「なっ……!? 話と違うじゃないですか!」


 女が怒りを露わにするが、男の方はいたって冷めた声音だ。


「盗賊が捕まったらしいな。この下にいるはずだが、レーリィンはその頭を近くにおいたんだろう? ───死因が毒じゃなくても不思議はあるまい。いや、むしろその方が盗賊のせいに出来て都合がよい」


 ゆらりと明かりが声の主の影を映し出した。太く大きく影が伸びる。


「……最初は生死を問わずに毒を仕込めと言いましたよね」

「致死性の毒は希少価値だからか特定がされやすいのだ。だがレーリィンの動けない今、こんな好機は滅多にない。殺せ。お前の得意分野だろう? 暗殺者。追加報酬は出す。三倍だ」


 なかなかに体格の良さそうな影が、小さな影の肩に手を乗せた。そして影の頭が唯一の出入り口に近づいてくる。ラユトは足音を消して階下へ降る。階段が螺旋状の形をしていてよかった。

 男が地下二階の階段と地下一階の階段をつなぐ扉に手をかける。その後ろを見慣れた型の衣装を着た女が付き従う。


「では、その通りに」

「……承知しました。すぐにでも」


 女が声を殺して肯定の意を伝えると、見慣れない影は地上へ上がっていった。

 残った影も地上に上がろうと扉に近づくが、ラユトは二人とも地上に上がったかと勘違いして登ろうとしてしまう。

 カツン───…。


「誰!?」


 ラユトは再び息を殺す。まだいたのか、と眉をひそめた。


「───ま、いいか」


 声の主はそんなに神経質にならないで地上へ続いていく扉を閉めた。

 ラユトはそっと上を窺い、完全に声の主達がいなくなったのを確認した。それから自分も上へ上がろうと扉に手をかける。


「……ん?」


 扉に手をかける。


「……んん?」


 扉に手をかける。


「……んんん!?」


 鍵が閉められていた。ラユトは愕然とした。


「嘘だろ!? そのまんま開けて行けよっていうか俺この扉開けっ放しだったんだから下に人がいることに気づけよ!?」


 一刻の猶予もない。先ほどの会話が本当ならば、レーリィン暗殺が企まれている。しかも実行犯は───


「……あの技術。暗殺のものだったのか」


 ラユトは歯噛みする。それから、これは不可抗力だと言い訳をしながら、懐から清銀の宝珠を出した。


「薄く、薄く、鋭い刃──」


 運の悪いことに、ここの鍵は全て錠前式だ。平らな一枚の鉄製のドアに鍵を掛けるのは表からのみなのである。

 ラユトの清銀はラユトが想像しうる硬度の限界値まで達することだって可能だ。だからほら。

 するりと紙のように薄くなった清銀を扉の隙間から差し込んで、粘土を切るかのように錠前を斬る。

 扉からでると、壊した錠前を手に取り、集中して聖霊に呼び掛ける。


「すまなねぇけど、鍵を直してくれ」


 綺麗な切り口だから、この程度なら直せるだろう。ぐっと真っ二つになっていた錠前を切り口で合わせると、ふわりと温かな熱が広がってすっかり元通りになった。

 ラユトはほっとして一息つく。そこで他に不備はないか鍵をじっと見つめていると、はっと気づいた。


「あいつら、鍵どうしたんだ?」


 ラユトの鍵は牢番から借りたもので、他には無いはず。あることにはあるが、王が塔の全ての鍵のスペアを管理しているのでそこから拝借するしかない。王の元から持ち出しすのは至難の業だ。

 だが、今はそんなことを考える場合ではないとかぶりを振る。後々、ウォータックか誰かに報告したときに、ついでに聞けばいい。

 ラユトは扉をくぐって地上を目指した。



リュイ「なぁコダ……コダカ?」

コダカ「ぬーん(キラキラキラ)」

リュイ「(あ、話しかけちゃ駄目だこれ)」

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