22.昼食の合間に
「ラユトがリュイをテスト?」
食事をする手を止めて、レーリィンはクラメラに聞き返した。
「どうやらリュイが体術を習いたいと言い張っているようです」
「無理無理、だってバトラー君とガーデナー君だぞ。元々の実力差を考えてみてもバトラー君の方が強いに決まってるじゃないか。だってバトラー君だし。盗賊壊滅させたのバトラー君だし。何故今更?」
レーリィンは首を傾げつつも、休めていた手を動かして昼食のサラダを口に運ぶ。トマトと茹でたキャベツを甘く味付けたものだ。全てゼルウィガーに作らせたもので、他にも豆のスープやバター控えめのパンなど、ヘルシーメニューがテーブルに並んでいる。
何だかんだでレーリィンも女子だからダイエット程度は考えているのだ。
「まぁ、面白そうだから好きにさせておけ」
ふふふ、と笑って口にサラダを運び続ける。
「相手は盗賊です。そんな勝手を許すのはどうかと」
「ラユトがなんとかしてくれるさ。なんたってバトラー君だしな」
「しかし、」
言い募るクラメラに、レーリィンはフォークを突きつける。
「バトラー君とかメイドちゃんとかコック君とか、そういうのがもうすでにいるんだ。ガーデナー達が私の手の内にある間は何をしても私は気にしない。彼らにとって、その方が素でいやすいだろうしな」
「そうですが……」
「クラメラ。お前は時々過保護すぎる。そんなに心配しなくとも、お前が全力で私を守ってくれると信じているから、これくらいの無茶ができるのだ。お前が気にするのは事が起きてからでいい。でも、そんな事にはお前がさせないだろう?」
レーリィンはクラメラにそれ以上追求させないように食事を続ける。
黙々とサラダを口へ運ぶレーリィンは、それでも不安を隠せないでいるクラメラに気づいて、ぼそりと付け足す。
「それに面白そうだから私もみたい」
「それが本音ですね」
レーリィンの本音にクラメラが半眼になったが、レーリィンは食事を続ける。
食べ終わって立ち上がると、クラメラがテーブルを片づけ始めた。
「ふむ。クラメラ、そのテストとやら見に行くぞ」
「今日の午後は家庭教師が来ますが」
クラメラの冷静な声にレーリィンは、
「さぼる」
「……はぁ」
きっぱりと言えば、クラメラがこれ見よがしにため息をついた。
「こらこらこら、主人の前でなんだその態度は」
「姫様に呆れているだけです」
「なにっ」
「家庭教師には明日の朝来るように言っておきます。明日こそは早起きをしてくださいね」
レーリィンは渋い顔をしたが、しかたなく頷く。勉強はしなければならないものなのだ。
クラメラがテーブルを片づけている間、レーリィンはそれを眺める。特段やることがない。
いつも思っていることだが、しっかりと仕事をこなすクラメラはすごいと思う。レーリィンは知識を欲してはいるが家庭教師とのマンツーマンの授業が嫌で、家庭教師から逃れる口実をいつも探しているのだ。
理由は一つ。家庭教師との相性が良くないのだが、
「家庭教師、そろそろ解雇しようか……」
「何言ってるんです。ラユトたちのように、家庭教師を決めたのもお嬢様ですよ」
「あんな性格とは思わなかったのだ……」
立ったまま、はぁ……と肩を落として後悔する。
確かに雇ったのは自分だが、会うのが憂鬱な人種であるのは知らなかったのだ。
頭の回転が速く、その膨大な知識だけで雇ってしまったと言っても過言ではない。
「まぁ、いい。明日の朝まで会わなくていいからな」
ぼそぼそと言っていると、クラメラが片づけ終わったようで、食器を乗せたキャスターを押して入り口へ向かう。廊下を覗いて、ちょうど通りがかったメイドにキャスターを片づけるように頼んだ。
レーリィンは壁に掛かっている時計を見た。ぴったり十三時。ラユト達の昼休みが終わる頃。
レーリィンは、ラユトたちはどこにいるだろうと考えた。
レーリィン「さて、行くか」
クラメラ「姫様、人参が残っております」
レーリィン「……(遠い目)」




