19.決まれば即行動
ぞろぞろと搬送された盗賊がエルド塔国に入国した。ウォータックを先頭にして、北塔へ誘導されていく。
農作業をしていた人々は、急に集められた兵士が多くの薄汚れた人たちを囲むように歩いているのを見て、何だ何だと手を止めて見ている。遊んでいた子供も、行列の邪魔にならないように道を開けて、行列を眺める。
物々しいこの行列は、塔民の注目の的となった。
塔の中にいる人までもが、窓を開けてそっと様子を伺っている。
ラユトは最後尾で一般兵と共に、最重要人物のリュイを見張っていた。リュイの隣にはコダカもいる。
ルミアは治療の為に、ゼルウィガーと一足早く帰ったらしい。
手枷をかけられたリュイとコダカは目隠しされ、鉄格子のはめられた荷馬車に乗せられている。それ以外の盗賊は徒歩での移動だ。
ゆっくりと動く荷馬車がエルド内に入ると、ふーっとラユトは深く息を吐いた。自分でも気づかないうちに肩に力を入れていたようで、苦笑する。きっとトロルと戦ったからだ。さすがのラユトでもトロル相手に余裕綽々とはいかない。
死に絶えたトロルを見た兵士は次々に顔を青くし震え上がった。百戦錬磨のウォータックでも目を丸くしたほどだ。トロルはそれほどの脅威なのだ。
それでもラユトは平然として盗賊を引き渡した。
そういえばゼルウィガーはトロルの死骸を見たはずだが、何の反応もしていなかった。それを考えるとかなりの強者なのだろうか。女装していたが。
「バトラー君、バトラー君。……ラユト」
誰かが呼んだのでそちらを振り向くと、フードを目深に被った少女が横にいた。月の色の髪がちらちらと見え隠れしている。
ラユトは目を丸くした。
「え、は、姫さん!?」
周囲の兵士が、いきなり大声を出したラユトを一斉に見る。
ラユトはそれに気づいて、ばつの悪そうな顔をした。
今度は声を潜めて、
「こんな所に何の用だ?」
「盗賊頭を庭師に勧誘しに来た」
「はあ!?」
ラユトは一瞬、聞き間違いかと耳を疑った。
「バトラー君の時と同じだと考えてくれればいい。盗賊頭の脱獄の手引きをしてくれ。今日中だ」
レーリィンの口から本来でるべきではない単語が飛び出て、ラユトはますます目を丸くする。
「本気か、それ。バレたらヤバいぞ」
「議会は黙らせた。ゼルウィガーのおかげでな」
「は? 女装で?」
意味が分からない。
「メイドゼルウィガーと一日デート券をちらつかせたら一発だ」
なんだと。
女装に釣られるほど、エルド塔国代表議会は女に餓えている者共ばかりなのだろうか。そもそもそんな馬鹿な事に釣られるほど、代表議会は公私混同しているのか。そんな人の運営でエルドはやっていけるのか。ていうかゼルウィガー、本職はどうした。
色々とエルド塔国代表議会に対してあきれやら、困惑やらがラユトの中で芽生える。
「きちんと説明をしたから大丈夫だ。ただ、表向きは処分保留期間扱いだから、牢屋にいることになっている。それに北塔はお父様の管轄だから、出入りが難しい。脱獄させるなら今日しかない」
「議会に話が行ってるなら、堂々とやってもいいんじゃねぇのか?」
「話を大袈裟にしたくない。議会と牢番、ラユト、クラメラ、ルミア、ゼルウィガー、そして後から叔父様に言うつもりだ。北塔の使用人やお父様には黙っておく」
「なんでそんな事するんだ?」
レーリィンは時々、妙なものに興味を持つな、とラユトは思う。
今もそうで、犯罪を犯してまで興味を持つほどのものかと思うのだ。
「お父様の最近の動向が怪しいのだ。話によると、ラミレスとの同盟を突拍子もなく議会に提案したらしい」
「同盟? なんでまた。エルドとラミレスはわざわざ同盟を組む必要ないんじゃ」
「何か思い当たることがあるのだろうよ。ラミレスとの確約が必要な何かが」
飄々と言ってのけるが、その口調は何の関心もないように思われた。ラユトは一応きいてみる。
「一体何がやりたいんだよ、王サマ」
「さぁな。でもまぁ、やっとラミレスとの友好を築ける口実ができたのだ。私が勝手をするのはおもしろくないだろうよ」
「そういうものなのか?」
「そういうものなのだ」
眉をひそめるラユトに、レーリィンはくすくすと笑う。その声は僅かだが明るく、これから悪いことをする首謀者のようには見えない。
最前列が北塔の扉が近づいてきている。盗賊か次々と扉をくぐっていくのが見えた。
「頼んだぞ」
「御了解」
ラユトがやれやれと返事をする。レーリィンはそっとラユトの側から離れた。
ラユト「姫さんも危ない賭すんなよな……」
レーリィン「良いのだ、この国で私に逆らえる者など王以外にいないからな。議会も陥落したし」
ラユト「権力濫用すんなよ!」




