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塔国のラユト  作者: 采火
街道編
18/34

17.メイドじゃないもん

 ラユトがトロルの首を飛ばしたことで、リュイ達盗賊の戦意は大火を消火する如く消えていった。

 マントの下に隠し持っていたロープでリュイを縛り、次いでコダカも縛る。痺れ薬が効いているとはいえ、コダカを放置しておくのはラユトの精神的に危険だと判断した。

 他の奴らは逃げ出しそうに見えないので、痺れ薬の塗ってあった剣の欠片でルミアが森に誘い込まれたという奴とリュイにだけ斬りつけておく。

 一仕事が終わり息をついたところで、倒れているルミアの元へいく。


「ルミア大丈夫かー」

「うー…ルミア一生の不覚……」

「悔しがれるなら平気だな」

「ひどーい!」


 ガバリと起き上がる。


「頭大丈夫か?」

「大丈夫ですー。ちゃんと受け身取ったもん。あまりにも身体中痛くて気絶はしちゃったけどね♪」


 なんて事の無いように言うが、気絶してから殺される可能性だって在るのだ。悠長に意識を放せる状況ではない。


「お前よく殺されなかったな」

「そこはルミアの女子力でカバー!」


 マントを軽く払い、軽く蹴ったり跳んだりする、と。


「うわぁ……」


 マントという障害物がなく、ルミアの足が元気に動いているのが分かる。それに合わせてスカートがひらひらと軽く揺れたりめくれたりする。

 所謂、見えそうで見えないアレだ。

 計算し尽くされているかのように、スカートは絶対にギリギリ上のラインはいかない。しかも膝上まであるようなソックスを履いて、その絶対領域を目立たせている。

 なんてあくどいんだルミア。

 とんだ小悪魔だ。

 男の真理を突いてくるこの作戦、リュイのような思春期真っ盛りのお子さまには刺激が強すぎないか。まあ、女に餓えてる男集団の盗賊には有効な作戦でもあるが、


「ルミア、お前本当は年幾つなんだよ……」

「ルミアは十四歳でーす」

「嘘つけ! 十四であんな小悪魔系熟女な戦略作れるか!」

「ルミアが考えたんじゃなくて、ゼルウィガーに教えて貰ったんだよ?」


 いきなり出て来た名前にラユトは面食らう。なんだって?


「ゼルウィガーがなんだって?」

「ゼルウィガーが男ならこうすればイチコロだって。ほら、ルミアって可愛いから♪」


 何気にルミアのナルシストっぽい面が出て来たが、そこはあえてスルーする。

 それにしてもゼルウィガー恐るべし。

 剣の達人でオッサンで男の真理を突いてくる。今の所、ゼルウィガーについて分かる情報はそれだけだ。ますます謎の人物像と化している。

 この情報からくると結構冷静沈着な人なのだろうか。それともルミアへの助言はスケベ心から来たものなのか。

 未だ全体像が謎なゼルウィガー。気になる、ひたすら気になる。

 ラユトがゼルウィガーについて頭を悩ませていると、馬の足音が聞こえた。


「お、ゼルウィガーか?」


 そういえばレーリィンが増援を送ると言っていた。期待を込めて振り向く。ラユトの記憶力が正しければ、視線の先から来るのは謎だらけの人物ゼルウィガーのはずだ。

 しかし、馬の足音は少なくとも二匹はいる。ゼルウィガーの他にも増援がいるのだろうか。

 ちょうどラユトの位置からは木が邪魔でよく見えない。立ち上がってよく見える場所へ移動する。

 そして目の前のおかしな光景を見た。

 馬が必要以上に並列に寄り添って駆けている。

 それはまだいい。

 その上にかなりの美女がいる。

 それもいい。

 大剣を背に担いでいる。

 それもまだ許せる。

 何がおかしいかというと、


「何アレ……?」


 何故か美女は、足並み揃えた左右の馬に片足ずつ乗せて仁王立ちで立っているのだ。バランスは崩さないのだろうか。

 何かがおかしい変人女子のようだが、ゼルウィガーではなさそうなのでラユトはちょっぴり残念に思う。そしてレーリィンの人材選択も何かおかしいと思う。

 最初の予定通りゼルウィガーを派遣すればよいのに急遽人選を変えたのだろうか。いやいやいや、でもあれは無いだろう。思わず顔がひきつってしまいそうになった。

 美人なら何でも許されるというが、ラユトの感覚としてはそれは無いと思うのだ。


「あ、ゼルウィガーだ」

「へぇ、ゼルウィガーさんかー…………ってちょっと待てえええええええええええ!?」


 ルミアの呟いた名前が美女の名前だと認識したとき、ラユトは声を裏返して力一杯叫んだ。死屍累々としていた盗賊たちが、びくりと震える。

 太陽の光で輝く華やかなさらさらの短い金髪、緑を基調としたエルド製のメイド服、ラユトより背が高く見えるが、身は細い。

 どこからどうみても全うな美女だ。

 それ以上でもそれ以下でもない。

 たとえそれが、二匹の馬に仁王立ちをしている奇妙な出で立ちでも、だ。


「嘘つけ! 絶対アレは女だろ! 三十代のおっさんなんてどこにもいないだろ!」

「え? あ、うん、そだね。ラユト、アレはゼル子さんって言ってね、」

「最初の疑問符の時点で取り繕う必要性消えたああああああああ!」


 名前もゼルウィガーをもじっているだけなので殆ど意味がない。


「うわー、すげえ美人」

「リュイ、女は恐いぞ」


 リュイとコダカが何やら言ってるが、すぐにそのイメージはご本人によって修正がかかりそうなので訂正はしないでおく。やるだけ面倒くさい、勝手に絶望すればいい。

 美女もどきが近づく。

 二匹の馬が息を合わせてゆっくりとラユトとルミアの前で止まる。

 ふわりと美味しそうな肉の香りや魚の香ばしい香りが、僅かにラユトの鼻をくすぐる。

 美女が馬から下りた。

 身長はラユトとあまり変わらない。馬の上にいたから高く感じただけのようだが、本物の女子として考えるならかなり高い方だ。


「ルミア、平気かい?」


 女性としては低く、男性としては高いアルトの声で美女はルミアに声をかけた。


「平気ー」

「そう、ならいいね。キミがラユト? 初めまして、ゼルウィガーです」

「は、初めまして……」


 人違いという線が完全に消えた。


「……ちょっと質問いいか?」

「いいよ」

「男? 女? 今何歳?」

「三十二歳、男です」

「じゃあ何でメイド服なんだよ!?」


 すごく気になる、というか紛らわしい。どうしよう、ゼルウィガーに女装趣味があったら。


「いやー、いつもはエプロンコック姿なんだけどね。動きやすいように着替えようとしたら姫様にコレを着ろと渡されてね……」

「姫さんの仕業かよ!?」

「僕はそんな趣味ないのに……慣れたからいいけどね……………」

「しかも常習犯!?」


 レーリィンがやったことが判明したので少し安心した。ゼルウィガーがそっちの趣味の人だと、さすがにラユトは関わりを持ちたくない。できるだけ目を反らし続けたい。

 本意ではないとはいえ、それでも見事に女子になれるとは恐るべしゼルウィガー。

 三十代という年齢に釣り合わないので、是非とも年齢詐称を推奨したい。


「一応、馬を二匹連れてきたんだけどどうする? この様子だと、ほとんどの盗賊を捕獲したんじゃないかな」

「その前にちょっといいか」


 ラユトは挙手して注目を集める。


「はい、どうぞ」

「俺の常識じゃ、馬は騎手一人につき馬一体が乗馬の基本だった気がするんだけど」

「そうだね」

「どうやったらあんな人業離れたことができるんだよ!?」


 どう考えてもあり得なさすぎるだろう。

 ゼルウィガーはきょとんとして、


「できちゃったものはいいと思わないかい?」

「それでも限度はある!」


 まあまあ、と笑ってゼルウィガーは済まそうとするので、ラユトは煮え切らない。


「それよりも、こんな雑談より優先すべきことがあるんじゃないかな」


 言われてラユトは唸る。納得がいかない、非常に納得がいかない。

 それでも使命があるのでしぶしぶゼルウィガーから視線を外して、盗賊の一人を一瞥した。不運にもその盗賊は、ラユトの恨みがましいような視線に射抜かれガタガタと震えてしまっている。


「おい、お前」

「は、はいぃぃぃ」

「お前らの(かしら)は誰だ」

「リュイです! ついでに副頭はコダカです!」


 ラユトは答えた盗賊から目線を外す。確かトロルを操っていたのがリュイで、筋肉質がコダカだった気がする。

 よし、方針は決まった。


「ゼルウィガーとルミアで、あそこの筋肉と小っちゃいのを連れて行ってくれ。俺ここで留守番してるわ」

「それなら、予備の縄を持ってきたから転がっている人を縛っといてくれる?」

「了解」


 頭だけでも十分だが、副頭という二番手のリーダー格もいるなら、コダカも連れて行った方が抵抗する意志も減ると言うものだ。その可能性を考えての二頭の馬ならば納得もいく。連れて来る方法はおかしなものだが、考えとしては悪くない。

 ラユトは残りの盗賊たちをゼルウィガーの持ってきた縄を使って逃げられないように簀巻きにしたかったが、どう考えても長さが足りないので手足を縛るだけにしておく。

 ラユトが縛っている間、コダカとゼルウィガーが、リュイとルミアが馬に乗る。コダカとリュイは、先にゼルウィガーとラユトの二人係で馬に乗せた。痺れ薬がよく効いているらしくて、うまく乗れなかったのだ。


「じゃ、ラユト。ちょっと待っていてね」


 ゼルウィガーが言い、ルミアも小さく手を振る。

 ルミアは彼女よりリュイの方がほんの少しだけ背が高いため前が見にくい。

 馬を走らせる前に言っておく。


「リュイくん、ちょっと屈んでくれる? 前見えないから」

「仕方ねーな」


 すんなりとリュイが少しだけ前屈みになったとき、甘い石鹸の匂いがした。

 リュイの脳裏に先ほどのルミアの攻防が思い出される。

 チャクラムを操りながらも、一人で風のように軽く跳ねるルミアの体術は見事だった。

 俯いたままでそう考えていると、ルミアの太股が目に入った。馬にまたがっているからか、スカートが少しめくれてる。そして思い出す。

 見えそうで見えないアレ。

 先ほどのことを思い出してリュイが赤面しているのを、ラユトは見逃さなかった。ああ、やっぱり。


「ルミア、罪作りだな。……そういや、あんたがルミアに教えたんだろ、チラ見せ戦略」

「ルミアさんなら可愛いので、盗賊程度ならアレで戦うのも言うことを聞かせるのも楽になるかなって。盗賊の噂が出た頃、お使いとかでエルド塔国外に出ようとしたルミアさんに教えたんだ。今更だけど、役に立って良かった」

「うっわ、策士だわあんた……」


 ラユトは笑いながらも、また一人縛り上げる。


「よく言われるよ。それなのに姫様には何故か裏をかかれるんだよねぇ。この服もそう」


 ため息をついて、ゼルウィガーはコダカに少し屈むように言う。コダカもゼルウィガーより背が高いので前が見にくいのだ。


「……俺替わろうか?」

「僕とラユトでは身長変わらないので意味ないよ」

「確かにな」


 お互いに苦笑し、ゼルウィガーはルミアに行こうと声をかける。

 ラユトは黙々と盗賊を縛り続けた。



ラユト「もうやだあの姫さん。なんでこう、こんな事したがるんだよ……」

ゼルウィガー「あはは、姫様だからしかたないさ」

ラユト「今一番の被害者はお前だからな、三十路!」

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