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塔国のラユト  作者: 采火
街道編
16/34

15.執事vs 筋肉

 ギョロリ、と血走った目を動かして自分を探している盗賊に、ラユトは背後から斬りかかる。


「ぬぅーん!」

「うわっ」


 筋肉質な腕が後ろに思いっきり降られ、ラユトはしゃがんで避ける。しかし大木の幹のような太い足が、右側から顔へ直撃する。


「がッ……!」


 顔の骨が砕けそうな痛みに、ラユトは一瞬気を失いそうになる。地面に転がり、はっと視線をあげると相手の拳が目前に迫っていた。


「ぬぅっ!」

「……うぜええええええええ!」


 三段階攻撃。

 盗賊のくせに小賢しい。筋肉なのに、筋肉質なのに。

 見せつけるかのようなムチムチとした筋肉は、見ているだけで暑苦しい。こんな奴と戦いたくない、と全身が拒否をしているが、堪える。

 普通の斬り合いならば瞬殺でキリがつくのに、とラユトは拳を避けながら思った。

 他の盗賊と違って、こいつは肉弾戦を得手とする奴だ。相手の技は力任せの分単純だが、一発の威力が侮れない。しかもあそこまで筋力をあげた奴ならば、体力もそれなりにあるだろうから、急所を狙わない限り倒れないだろう。

 厄介だ。非常に厄介だ。

 しかも、


「ふんぬっ! その細っこい腕! 貴様も男なら儂が鍛えてやろう!」

「嫌じゃああああああああっっっ!」


 妙に変な考えを持っているようで、ラユトは少しだけ必死だ。

 ラユトに任された半分の盗賊は、地面に死屍累々と転がっている。残るはこの筋肉だけなのだが、その苦境にラユトは泣きそうになる。俺、帰れるか?


「こんのッ!」


 ラユトは身を起こして、低い姿勢のまま跳ねた。

 図体が大きいこの盗賊の筋肉は鍛練されていて、破壊力は恐い。だがそれも、当たらなければ意味がない。

 だったら、当たらなければよいだけの話。

 筋肉は重い。鍛えられた筋肉であればあるほど、筋肉はどうしても重くなる。瞬発力をあげようとするなら、必要な筋肉を必要な分だけつけなければならない。

 見かけだけの筋肉など、落ち着けば恐くないのだ。

 だからラユトは技術を捨て、速きに身を置いて、斬りつけることに専念する。


 ───相手の横腹から血が吹き出す。


 そのまますり抜け、背後から縦に思いっきり斬り込む。


「ぐぅッ……!」


 浅くはない。速さに身を任せたとはいえ、力を乗せるのは忘れなかった。

 ラユトは後方に一旦跳んで、盗賊の次の動きを待つ。


「か………ハ…ッ……!」


 暫くは何とか立っていたものの、やがてがくりと片膝をつく。

 それを見てラユトは一安心とばかりに、剣を肩に担ぐように置いた。


「ふぅ……。大丈夫か?」

「貴様……ッ! 何をしたッ!」


 ラユトはにこっと微笑む。簡単なことだ。


「剣の刀身にちょぉぉぉぉっとだけ、即効性の痺れ薬を塗っといただけだが?」


 ラユトの意地の悪そうな笑みに、筋肉質な盗賊は目を怒らせる。


「こんな小細工で儂を倒したつもりでいるか!」

「こっちはお前等を戦闘不能にしておけばいいんだよ」


 ラユトは辺りを見渡す。この辺りに倒れている連中は、ラユトの手に掛かり痺れている奴らだ。気絶させた奴も、後からわざわざ軽く傷をつけて痺れさせているので抜かりない。

 筋肉質の盗賊は悔しそうにして立ち上がろうとするが、倒れ込んでしまう。


「背中のやつ、思いっきりやっちまったから、そのまま安静にでもしてろよ」


 言いながら懐中時計を見る。

 たった三十分で盗賊を約半数を倒した。ラユトは辺りに倒れている奴らを適当に数える。大体五十人。

 ルミアと約半分ずつにしたにしては多すぎる。多分、ラユトから離れているところに倒れているのはルミアが相手した奴なのだろうと見当をつけた。

 しかし、塔を出る前に聞いた話では少数だったはず。数が多すぎる。


「なぁ、お前等、全員で何人?」


 近くに寝ている奴の頬をペチペチと叩いて起こす。小さく呻いて起きた、平凡な感じの男が六十四、と答えた。


「へえ。今まで小出しだったのを、何故か今日だけほとんど総出で攻撃してきたんだな。まあ、そこら辺の理由はエルドに戻ってから聞くことにして。こんなにいたら根城なんかすぐ見つかるはずだが……」


 不思議に思って思案していると、木々が揺れた。


「ルミアか?」


 近くにルミアがいない上に、更に十人程度はまだ生き残っている様子。ルミアが逃げた奴らを森の中まで追って、全員仕留めて帰ってきたのかもしれない。

 ラユトはそちらに視線を向ける。

 ガサガサと先ほどよりも大きく木々が揺れた。ラユトは目を細める。


 ───今、ルミアの背より高いところの葉が揺れなかったか?


 もう一度注意深く、その部分を見る。

 ガサガサ。


「揺れた!」


 ラユトはとっさに距離を取る。ルミアの身長では到底届かない所の葉が、確かに揺れた。近づいたままではいけない。本能がそう告げた。

 剣を構える。

 すぐにそれは来た。


「グルゥァア!」


 人の三倍はあるかと思う程の巨体に青黒い肌。手も足も大木の幹よりも太く、顔は鬼のような形相の二本足の化け物。


「トロル……!?」

「あ? コダカ死んでんのか?」


 トロルの足下に一人の少年が立って、誰かに声をかけた。少年は生意気そうな顔立ちで、着古しているものの他の盗賊よりもこざっぱりした服を着ている。首には細やかな文様の入った犬笛のような物を下げている。


「リュイ!」


 ラユトが最後に倒した筋肉質が反応する。


「お、コダカ。生きてんのか。だらしねえなー」


 リュイはニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべて、ゆっくりと森から街道へ出てラユトと相対する。トロルも進み出て、リュイの隣で待機している。

 ラユトはトロルの手に握られていたあるモノを見て、声を張り上げた。


「ルミア!」

「それがこのねーちゃんの名前? すげーよな、このねーちゃん。トロル相手に大往生してくれたけど、やっぱ無理だったわ」


 けらけら笑うリュイに、ラユトの殺気が膨れ上がる。


「お前!」

「怒らないでよ。そっちも俺の仲間殺してるんだからさあ?」

「殺してない、痺れさせただけだ!」


 ラユトがリュイの勝手な物言いに反論する。

 ただの一人も殺しはしていない。レーリィンは捕虜を連れてこいと言ったのだ。死体を持ち帰る気はさらさら無い。レーリィンは己の使用人達に手を汚させることは絶対にしないから。


「へえ。ならこのねーちゃん殺すのだけは勘弁してやるわ。トロル、それをそこに置け。そう、そうだ。それでいい」


 どさり、とルミアが地面に落とされる。


「ぁぅ……」


 ルミアが落とされた衝撃に、顔を歪める。


「このねーちゃんの武器って確かチャクラムって言うんだったけな。あの武器はどうも仲間には荷が重すぎると思ってさ。わざわざトロルを潜ませてた森に誘導したんだぜ? まんまと引っかかって、トロルの再生能力の前に為す術も無しの所を、トロルがねーちゃんを掴んで投げ飛ばしたら、木に打ち付けられて気絶しちゃったんだわ。頭打ってるかもだから、これは危険だなー」


 ペラペラと饒舌に語るリュイの隙を、ラユトはひたすら窺う。

 トロルの知能はそこまで高くはないと言われているので、リュイの指示がない限り襲いかかってこないはずだ。


「めんどくせぇから、本題に早く入れよ」


 ラユトが急かせば、リュイは唇の端をあげて笑う。


「にーちゃん話が早いな。いいよ、本題。───交換しようぜ?」


 リュイはにやりと口角をつりあげて手を差し伸べる。


「このねーちゃん返してやるから、今日の所は見逃してよ。オレら、まだ捕まるわけにはいかねーんだ」


 リュイの言葉に一瞬考える。そして、トロルを見てルミアを見る。

 最後にレーリィンの命令を思い出して。


「んー…。───断るわ」


 トロルに突っ込んだ。

 その瞬発力を以て、先手必勝と言わんばかりに剣をトロルに突き刺そうとする。


「バァーカ。このねーちゃんより遅い。トロル、やっちまいな!」


 トロルが手を振り降ろしてきた。

 ラユトは避ける動作が間に合わないと判断しつつも避けながら、剣で万が一のためにと防御する。

 しかし、運命が嫌な悪戯を仕掛けてきた。


「げっ!?」


 剣が砕け、ラユトは思いっきり吹っ飛ばされた。



ラユト「くそっ、また何か濃いキャラ来たな!」

コダカ「この筋肉美が分からぬとは情けない……」

ラユト「一生知りたくねぇよ」

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