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塔国のラユト  作者: 采火
街道編
15/34

14.メイドの武器

 遠くなっていく荷馬車を見送ってから、ラユトは盗賊の方へ向き直った。

 盗賊は既に弓の攻撃範囲内に入っていて、弓をつがえ始める。ラユトはフードを深く被って顔を隠した。ルミアもフードを目深に被る。

 ラユトもルミアも、装備は極力軽くしてある。そうでなければ機動力のある馬相手に、たった二人で相手するのは無謀すぎるからだ。だからと言って死にたくはないので、死んだりする前には戦場を離脱したいのが本音である。


「ラユト、来るよー♪」

「ああ」


 こんな時でも態度の変わらないルミアと並び、ぐっと膝に力を込めた。

 矢が放たれる。

 ラユトとルミアは全力で前進した。

 盗賊は二人が前進するとは全く思ってなかったようで、慌てて弓の照準を直しにかかる。しかし、ラユト達はただ前進するだけでなく、突如止まったり左右に跳んでみたりとしていて、照準を合わさせてやらない。

 盗賊も馬に乗ったまま走っているので距離感覚がずれ初め、矢は見当違いな方へ飛び始める。

 両者ともに接近していけば、すぐに馬はラユトの目前に来た。

 走りながらラユトは目をしっかりと開き、剣を引き抜く。そのまま弧を描くように水平に剣を凪いだ。


「なっ!?」


 一匹の馬がラユトの横をすり抜ける際に剣の犠牲となり、騎手は落馬する。

 傷つけられた馬はその痛みに暴れ出す。あまりにも暴れるのでそれが伝染し、他の馬も怯え初め、盗賊は次々と振り落とされていく。

 暴れる馬を器用に抜けてルミアを見れば、彼女は思い切り跳躍して盗賊を横から蹴飛ばし、その反動で近くにいたもう一人も落馬させていた。

 騎手が突然いなくなった馬は大人しくなるが、ラユトが暴れさせた馬の興奮がやはり伝染し、落馬した騎手の一人を踏みつけてしまった。


「うわ、痛そーな……」


 馬の重さは人の何倍だっただろうか。小さいものでも六倍以上な気がする。思わずその重量を考え、一瞬顔がひきつってしまった。

 気絶したか死んだかは分からないが、沈黙してしまった盗賊に憐れみを覚えながらも、ラユトは無視を決め込んで他を見る。

 馬が暴れてくれたおかげで、見つけた盗賊のように犠牲になった奴は何人かいるようだが、誰一人として逃げてはいない。

 暗い目を爛々と光らせてラユト達の様子を窺っている。その闘争意志の強さに、ラユトは敵ながら感嘆する。

 盗賊の年は二十代前半と見られる者達が多いから暴れたい年頃なのだろう。きっとそうだ。こいつらは死に急ぐタイプだろうから難儀だろうなあ、とも思う。

 盗賊は騎馬戦が不利だと分かってきたようで、馬に乗っていた奴らも馬を捨て弓を捨て、その手に短剣や長剣などの形や種類がバラバラな武器を各々持ち始めた。


「この量を捌くのはさすがに疲れるぞ」


 ラユトがげんなりする。

 ルミアがラユトの後ろへ跳んできた。


「あは♪」

「……お前すげぇな。その体のどこにそんな瞬発力があったんだよ」

「見直したー?」

「正直ルミアが戦えるのかって思ってたから、ウォータック卿の指名とかお嬢さんの納得に正気かこいつらとか思ってた」

「言ったでしょー、人を見かけで判断しちゃ駄目だって」


 声は明るいがその目は全く笑っていない。


「それでもそろそろ、武器無しじゃルミアもきついかなー」


 ルミアがぼやいたのにラユトはちょっと眉を上げた。


「は? お前武器持ってきてないのか ?」

「大丈夫ー、持ってきてるけど使ってなかっただけだよ」


 ルミアの武器。

 来る直前、メイド服の時には何も持ってなかったし、ラユトが降りる準備をしていたときも何も用意していなかった。少し気になる。


「俺、ルミアが武器持ってるの見てねぇんだけど」

「えー? いつも持ってるよ?」

「いつも?」


 そんな風には見えないのだが。


「じゃーねー、ラユト。とくとご覧在れ♪」


 ルミアが懐に手を入れる。

 盗賊達が武器を握り直した。

 ルミアが微笑む。

 その笑みには普段の純粋さは全くなく、彼女の瞳を見た盗賊はその仄かに暗く陰る目に恐ろしさを覚え、竦んだ。

 ラユトも背後にいるルミアの気迫が変わったのを感じ、後ろへ注意を向けてしまう。


「皆〜、注目♪」


 明るい口調のままで相手を竦ませながら、ルミアは外周が鋭くなっている輪っかを三つ、掲げて見せた。

 ラユトはそれを見て思い出した。

 もしかしてあれは、チャクラムと呼ばれるものではないだろうか。



 ルミアが持つ手のひらサイズの円環は、明らかに鈍く光る金属で作られており、ちょっとした(まじな)いの文字に見える紋様が彫られている。


 チャクラムとは丸い輪っかを指にひっかけ、回転させて投げたり、指に挟んだまま投げ放ったりする事で、遠くにいる敵を斬る事が出来るものだ。

 普通の投擲武器とは違い、刺すことよりも斬ることに重点を置いた武器である。イメージとしては刃の付いたブーメランとでも言うところか。

 射程距離は弓矢の半分にも満たない。けれどもその円環状の形態から、直線にしか飛ばない弓矢よりも攻撃の幅は増える。しかもその軌道は放った本人にしか分からないので、避けるのも至難の業。相対するときは範囲外からの攻撃が有効で、それなりに剣の腕がなければ近接戦も難しいという。


 旅してきたラユトでも、あまりその実態をよく知らない武器で、大陸南部のアースグラン大国を通ったときに、チャクラムという不思議な武器についての噂を聞いて、興味半分で調べたことがある程度。前時代の武器と言われている。


 弓矢の方が扱いやすく、中途半端な距離を取っての戦闘はなかなか無い。実用性がないという事で、戦闘用の技術は廃れていくばかりのものだ。



 盗賊達も珍しい武器に戸惑い、どうすればよいのかざわめいている。ラユトも下手に動いて巻き込まれたくはない。

 行動を制限されると予想して動き出せないラユトに、ルミアが声をかけた。


「ルミアはラユトの後ろ半分やるから、ラユトは前半分お願いね〜」

「簡単に言ってくれるな、おい」


 どうやらルミアはチャクラムの攻撃範囲を定めてくれるようだ。だがこれで随分と動きやすくなる。

 ラユトは苦笑した。ルミアに気を利かさせてしまった。その行為に報いようと、剣を水平に構えたとき、


「ぐふッ!?」

「ああ?」


 後ろから野太い声があがった後、どさりと何かが崩れ落ちる音。瞬間、盗賊達の殺気が膨れ上がった。


「ごめんね〜、ラユト。フライングしちゃった♪」


 ちらりと見れば、掲げた方とは違う手で帰ってきたチャクラムを受け止めていた。

 掲げているのは変わらず三つ。つまり、


「一つ隠してたのかよ!?」

「先手必勝〜♪」


 盗賊が躍り掛かった。




ラユト「お前なぁ……」

ルミア「早い者勝ちー♪」

ラユト「じゃねぇよ!!」

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