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塔国のラユト  作者: 采火
街道編
14/34

13.ご心配なく


 一瞬だけ振り向くと、遠くに数匹の馬が見える。その荒々しい音はどう考えても徒人じゃない。

 スィークが声を上げる前に、レーリィンも気づいた。


「ラユト! 後ろから馬に乗った奴らが近づいてきている!」

「普通の行商ではないようですね。武器を持っていますが、ラミレス軍の服装でもありません」

「盗賊か!」


 クラメラが冷静に目を細めて相手を見る。

 ラユトは舌打ちをして、馬には悪いが速度を上げさせてもらう。


「あの人達、弓を持ってる! もう少しで射程範囲になっちゃうよ!」

「姫さん、どうする!」

「えええい! 私に聞くな!」


 レーリィンがラユトに怒鳴り返したとき、ウォータックが口を開いた。


「クラメラ。この中に馬に乗った相手でも倒せる自信のある奴は何人いる」

「───私を含め、姫様付きの者は全てそのような者を配置しております」

「ならば、ここからもう少し行ったところに開けた場所があっただろう。そこで執事とメイドは降りて、一人でもいいから捕獲しろ」

「叔父様!」


 ウォータックの無茶な要求に、レーリィンが声を荒げ、不安定な荷台の上で立ち上がる。

 さすがのラユトとルミアも二人であの数を相手するのは無理だ。それではまるで、死ねと命じているようなものではないか。

 レーリィンは納得ができない。


「それは多勢に無勢というもの。今回は盗賊退治を諦めるべきでは」

「レーリィン、大局を見よ」


 ウォータックは前を向いたままで、レーリィンを見ようとしない。


「少しでも犠牲は抑えねばならない」

「しかしそれでは意味がありません!」

「もともとは三人で決行する予定だった事だ。お前は自分の配下が信じられぬと言うのか」

「それは、」


 ガタンと荷馬車が大きく揺れ、レーリィンはバランスを崩して尻餅をつきそうになるが、荷台から落ちないようにクラメラが彼女の背中を支えた。

 レーリィンは唇を噛む。こんな事なら、こんな話を受けるのではなかった。


「……御者はどうなるのです」

「私がやる」


 ウォータックは堂々と言う。

 レーリィンは悔しそうに目を伏せた。


「……ラユト、ルミア。生きて戻れ」

「御了解」

「はーい」


 気軽に返事をしてくれる二人に、レーリィンは泣きそうになる。

 本当は行かせたくない。いくら強くたって、あの人数を相手させるのはどうしたって危険が伴う。

 そんなレーリィンの気遣いなどつゆ知らず、ラユトはひょいと立ち上がる。


「ではお願いします」


 ラユトはウォータックに手綱を預けると、危なげなく荷台の方へ移る。

 移動中の荷馬車を御者台から荷台へ移動するのは危険なことだが、ラユトは難なくやってのけた。そして荷台に積んであった細身の剣を帯剣し、クラメラのマントを、弓を引く奴らの目のごまかしのために借りて着る。

 道幅には余裕があるが、それをたった二台でめいっぱい使うようにしてスィークに並列に走行してもらい、ラユトとルミアが飛び降りるときの邪魔にならないようにしてもらう。

 それだけで準備は整った。

 沢山の馬はその間も距離を詰めてくる。


「いいか、ラユト、ルミア。私達は一度エルドに戻る。援護の部隊は少数部隊の編成にでさえ少なくとも三十分はかかるだろうから、エルドに着き次第、真っ先にゼルウィガーを向かわせる。彼の剣術はきっと戦力になってくれるだろう」

「俺、ゼルウィガー知らねぇんだけど」


 ゼルウィガーという名にラユトが思い出したように言う。


「ルミアは知ってるよー」

「ルミアが知っているなら大丈夫だ。それに今でこそ私の専属コックではあるが、剣の腕は確実にラユトより上だ。すぐに分かるだろう」

「……違う意味でもすぐに分かると思います」


 ぼそりとクラメラが付け足したが、よく聞こえなかった。ラユトは詳しく聞きだそうとするが、その前にレーリィンが次の言葉を言う。


「もし、無事に捕虜を確保できたら一人だけでも連れてきてくれ。もしうまくいって盗賊をもっと多く捕らえたなら、片方はその場に残って見張りをしろ。それから素早くこちらの部隊に合流し、誘導だ。くれぐれも無茶だけはするな」


 レーリィンはウォータックが初めにラユトとルミアを犠牲にすると言ったときこそ、悲しそうな表情で落ち込んでいたが、今は闊達に指示を出していく。人の上に立つ者に在るべき姿でレーリィンが指示を出してくれるから、ラユトとルミアは安心して大きく頷ける。不安げな指導者には誰もついて行こうとしないものだ。

 最後に待機している二人の正面に移動し、祈りの体勢をとるために両膝を折った。両手を組み、胸の前に持ってくる。


「……我らが始祖エルドよ、我らが母アルミナよ。その尊き光を以て、我らが子に大きなる祝福の加護を与えんが為に、天に坐す神へ共に希いたまえ」

 エルドは名前通りエルド塔国の建国者。

 アルミナはエルド塔国にすさまじい発展をもたらした女王。

 その二人に祈るのは、この国最上級の祈りを意味する。

 太陽の光の下で、レーリィンの銀髪が清らかに輝き、風になびく。

 一心不乱に願うレーリィンに倣って、略式ではあるがクラメラも神へと祈る姿勢をとる。

 ラユトもルミアも二人の行動を嬉しく思い、顔を見合わせた後、もう一度力強く頷いた。


「ラユト、ルミアちゃん。頑張って〜」


 スィークも笑って声をかける。


「お前はもうちょっと今生の別れというものを学んだらどうだ?」


 ラユトが呆れてスィークに言うと、スィークは簡単に返してくる。


「別に心配してないからね。ラユトならこれぐらい平気でしょ? 前にも盗賊団一人で壊滅させてたし」

「まぁなぁ」

「ええええええええ!?」


 これに吃驚したのはレーリィンだ。

 祈っていたのをやめ、勢いよく立ち上がる。


「なんだそれは!? お前、そんなに強いのか! クラメラでもそれは無理だぞ!」

「あれは相手の寝首を掻いただけだから何とも……」


 しどろもどろになるラユトにレーリィンは頬を膨らませた。そういえばラユトはクラメラと張り合えるほどの腕前なのであった。

 日常風景として見ることはないからすっかり失念していたことに気づく。


「お前のために加護を祈って損した気分だ。ルミアの分しかもう祈らん」

「え。お祈りって出し惜しみするものか?」


 ぷい、とレーリィンがそっぽを向いた時、ウォータックが声を上げた。


「そろそろだ」


 全員の間に瞬く間に緊張が走る。

 ラユトの実力を聞いても、今回も同じようにいくわけがないという思考が働く。それでもレーリィンは真っ直ぐに前を見た。

 荷馬車が、道幅が二周りほど大きく膨らんだ場所に出た。ウォータックの操る荷馬車をスィークの操る荷馬車が少しだけ追い越す。それを見計らって合図を出した。


「行け!」


 レーリィンが鋭く命ずる。


「御了解!」

「仰せのままに♪」


 ラユトとルミアは荷台を軽く蹴って、荷馬車から飛び降りた。

 危なげなく着地した二人が段々小さくなるのを見て、レーリィンは目を伏せて座り込む。

 不安だ。

 不安を隠しきれない。

 ただの使用人ではあるが、一日の多くを共に過ごした者達だ。例え出会ってまだ日が浅いとはいえ、ラユトもルミアも、レーリィンにとって信頼の置ける者に代わりなかった。


「……お嬢様」


 レーリィンの元へ寄ってきて、クラメラは彼女を支える。


「大丈夫だ、クラメラ。あいつらは強い。その強さを知っているクラメラが不安そうにしていないのだから、あいつらは平気なのだろう?」

「はい。盗賊に化け物でもいない限りは大丈夫かと。それにルミアはともかく、ラユトには切り札もありますから」

「そうだな」


 道が細くなり、スィークがレーリィン達の前を行く。

 ウォータックが荷馬車のスピードをあげたようで、横を流れていく木々の速さも速くなっていった。



ラユト「にしても、やっと真打ち登場ってか」

スィーク「ラユトなら腕の一本で事足りるよね」

ラユト「いや、それはさすがに……な?」


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