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塔国のラユト  作者: 采火
街道編
13/34

12.本来の目的

 スィークがしとめた鹿を肩に担いで、自分の服が汚れるのもかまわずラユトは彼の空っぽの荷馬車へ運んだ。その表情には騙されたと書いてあって、不機嫌であるのを隠さない。

 色々と罠をかけようとしたが、すぐに興奮した鹿が襲ってきたそうだ。それに応戦していたら返り血を浴びまくったらしい。スィークはあまり剣が得意ではないのだ。しかも護身用の短剣ではなおさら。狩猟は弓矢を使うのが主だが、そんな暇も無かったようだ。


「ルミアちゃん、聞いて下さい。ラユトったら私に会って早々、お前何をしたか分かってるのか!? って血相抱えて叫ぶんですよ」

「わぁ〜。ラユト落ち着きがないねぇ〜♪」

「ちげーよ! スィークが盗賊殺したのかと思ったんだよ!」

「私が盗賊を殺せるわけ無いじゃないですか。君と違って対人格闘術はからきしなんですから」


 あはは、とスィークはのんきにルミアと笑いあう。

 だがラユトの言うことはもっともだ。

 エルド塔法において殺しをした者は死をもって償うべし、というものがある。古代にあったという「目には目を、歯には歯を」を元にしているそうだ。

 ラユトは最近エルドにやってきたばかりだったが、それでもエルドの法には順守しなければならない。それは盗賊にも言えることだ。法は人を等しく裁く。

 さすがのラユトも知り合いを裁くために連れ帰る事はしたくないのだ。

 歯をむき出しにしてからかわれているのを怒るラユトだが、全員完全無視と決め込んでいる。


「姫様。まだエルドには帰るのが早いと思いますが、スィークさんも見つかったので一度戻りますか?」

「そうだな。部外者を巻き込むわけにはいかぬ。それにこの鹿の処理もしなければな」


 ルミアとクラメラはラユトとスィークが戻ってきてすぐに帰ってきた。ラユト一人なら一瞬で駆け抜ける森も、鹿を抱えながら、しかもあちこちふらふらするスィークを導きながらでは、予定の時間を使い切ってしまったのだ。

 レーリィンは二匹の鹿を見る。

 これからどうしようか。


「肉はやっぱ焼いた方が美味しいだろうなー。煮たのも食べてみたいが、スープも良いな。ご飯と一緒に鹿肉の炊き込みご飯も美味しそうだ」

「鹿が食べたいだけですか」


 さすがのクラメラも即座に突っ込む。まったくこの王族達は。

 レーリィンは当然だとでも言うかのように、胸を張って、


「鹿食べたい」

「本音ですね」


 クラメラが嘆くように溜め息をついた。どうしてこんな主人に仕えてしまったのでしょうか自分、と思わずにはいられない。


「鹿肉は旨い」

「ウォータック様もですか!」


 横からの主張も即座に突っ込む。クラメラは血が繋がっている確かな瞬間を見た気がした。ウォータックもあの厳めしい雰囲気の割には茶目っ気を持っていたことを過去の経験から思い出し、クラメラは額を押さえる。

 クラメラとラユト。どちらも苦労する質だからか、目線があうと何だか同士を見つけたようで、二人して思わずほろりと涙がでそうになった。


「じゃ、私はそろそろラミレスへ帰りましょうか」

「あ、その事なのだが」


 レーリィンが鹿からやっと目線を外してくれたので、クラメラはほっとした。


「行商君。エルドに引き返さないか? ほら、鹿肉を加工しないで移動すると腐ってしまって勿体ないだろう?」

「大丈夫ですよ。食べれる分だけ切り取って、後は森にお返ししますから」

「森に返す?」


 聞き慣れぬ言葉に聞き返したレーリィンに、ラユトが答える。


「旅の間、大きな獣とかをしとめても一人じゃ食べきれないし、運べないねぇだろ? 自分の欲しい分だけ取って、他の部位は森の動物にやるんだよ」

「敬語」


 鹿騒動で油断していたラユトは、クラメラに言葉遣いを注意されてぎくりとなる。


「いい、クラメラ」


 だが、指摘するクラメラをレーリィンが遮った。


「ラユト、お前に普段の口調で話すことを許そう。これからは、私と話すときは敬語じゃなくてもよい。お前が敬語が苦手なのがよーく分かったからな」

「あー、でも……」

「主人が良いと言ったら良いのだ」


 レーリィンに普段の口調でよいと言われて嬉しい半分、クラメラの視線が怖くてクラメラの方を見ないように必死に視線を反らす。先ほどの意思疎通は幻だったようだ。

 口調が幾分か楽になった、というよりクラメラの小言を聞かなくて良くなった分、ラユトは気兼ねなく話し出す。


「……じゃ、続きを話すか。いらない部分だけ分けた後、森の奥に置いておけば、動物が食ってくれたり、土に還ったりして無駄にはならない。旅人には常識として扱われてる習慣だな」


 流暢な言葉にレーリィンは納得した。しかしちょっと困った顔をする。


「それじゃあ行商君を連れていく理由が無くなるじゃないか」

「私が何ですか?」


 スィークがタイミング良く反応する。

 しかし、本当のことを言って不安にさせるのもどうかと思い、どう説明するべきかと困り顔だ。


「この辺りで最近、盗賊が出てるらしいんですよー。それの調査でルミア達は来たんで〜す♪」

「「「ルミアー!?」」」


 三人が一斉にルミアを振り返る。そしてラユトとクラメラがルミアに言い聞かせる。


「ルミアいいか、今な、姫さんがスィークを引き留めるためにすごい心を折ってたんだぞ」

「えー? なんで?」

「関係者ではないスィークさんに心身の負担をかけまいとするご配慮です」

「ルミア、言っちゃ駄目だった?」

「ふふ、ふふふ。ルミアは暢気でいいなぁー……」

「姫様!」


 レーリィンが遠い目をし始めたので、クラメラはそちらのフォローに回る。

 ラユトがルミアの言葉をどうやってフォローしようか頭を悩ませたとき、もう一人がルミアの言葉を悪い意味でフォローする人がいた。


「盗賊がいつ現れるか分からない。死者も出ているため、エルドが保護を申し出よう。討伐の目途が経つまで、エルドに滞在してもらいたい」

「ウォータック卿!?」


 まさかの伏線にラユトは愕然とした。遠回しの表現など全くなく、率直すぎる。

 だが逆にそれが良かったようで、スィークはすんなり納得した。


「なるほど。そんな事情があったのですね。しかしラミレスではそんな話聞きませんでしたよ」

「死者の話はまだラミレスには伝わってないはずだ。聞けばお前は行商になったばかりなのだろう。新人が下手に怯えて仕事にならなくなってしまうのは防ぐべきだと、国や行商組合が判断したのだろう。それでも護衛の推奨ぐらいはされるはずだが」

「んー、全くされませんでしたね」


 スィークの言葉は意外なものだった。

 さすがのラミレスでも大切な貿易の要となる行商を、例え仮契約だとしてもおろそかな扱いはしないはずだ。なのにスィークに盗賊の話を教えるどころか、護衛の推奨をすらしなかった。

 これではまるで囮になってもらうために送り出したとしか思えない。


「ラユト、クラメラ、ルミア。お前達が行商君を探していたときに変わったことは無かったか」

「特になかった」


 ラユトの言葉にクラメラもルミアも肯く。


「……すぐにエルドへ戻った方がいいな、レーリィン」

「そうですね」


 囮にされるということは見張られているということ。その可能性を考えたとき、今までの一連の会話が聞かれていた可能性がある。

 ウォータックの提案が最善かと思った。


「ラユト、当たりに人の気配は」

「……無いな。よほど気配を隠すのがうまいか、もしくは思い過ごしか。わからねぇ」


 レーリィンはそうかと頷く。後者であることを望む。


「行商君、そういうわけだからエルドに引き返して欲しい。ラミレスに戻りたければこちらで護衛を用意してからにしてはもらえないだろうか」

「いいですよ。私もまだ死にたくありませんし」


 なんて事のない顔でスィークが言うので、周りの者は全員ほっとした。ここでスィークが頑なに拒むことになったら、かなり厄介だっただろう。すんなり交渉が成立して良かった。

 善は急げということなので、スィークは早速馬の元へ向かう。地面に置いたままだったウォータックのしとめた鹿も、ラユトがスィークの荷馬車に積んだ。ラユトが鹿を積んだのを見届けると、スィークは馬を引いて向きを反転させる。

 その間に、ルミアとクラメラは荷馬車の荷台に乗り込み、レーリィンに手を貸して彼女も上がらせた。

 ウォータックも御者台へ座る。ラユトは降りたまま、スィークと同じように馬を引いてゆっくりと向きを反転させた。その後、御者台に座る。

 位置の関係により、ラユト達の荷馬車が先に行くこととなった。その後をスィークの荷馬車が追っていく。

 ガタガタと暫くは静かに進んだものの、長くは続かなかった。

 ───スィークが後ろから馬の駆ける音を聞いたのだ。



レーリィン「鹿食べたい」

ウォータック「鹿食べたい」

ラユト「二回連続で鹿ネタかよ!?」

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