99 再び車中にて(4)
99 再び車中にて(4)
「どうする? 救急車を呼ぶ?」
ユキオが全員倒してからキャロンとキミエが降りて来た。
「それよりも、ここからの脱出が優先ですよ。いっその事こいつらの車を借りましょうか」
「そうねえ、あたしとしてはこの車が良いと思うんだけど」
キミエは三台ある暴走族の乗って来た車のうちの一台が気に入ったようである。
「あら、誰か乗っているわよ!」
キャロンが叫んだ。危険を察知したのでユキオに知らせる意味があった。
「なんだ、3台全部に、女性が乗っているぞ。さて、これは始末が悪いな。とにかく外に出て貰おう。おい、降りて来い!」
ユキオはかなり厳しい口調で言った。
「………」
女達は全部で6人居た。しかし全員が怯えた目をしている。誰も一言も喋らなかった。
「どうやら武器は持っていないらしいな。どうするキャロン。まごまごしているとレンターカーが来てしまうかも知れない。レンタカーは断ろうか」
「そうね、もしまだ出発していないんだったら、断りましょう。キミエさん何度も申し訳ないけど、今の件お願い出来ますか」
「じゃあ、今、電話してみる」
キミエは電話をしに乗って来た車に戻った。
「とにかくここに座れ!」
やはり厳しい口調でユキオは6人の女性に命令した。女達は何も言わずにコンクリートの上に座った。服装は様々だったが全員がかなり派手で露出の多い服装をしている。化粧も相当に濃く素顔は全くと言っていいほど分からない。
「名前と年を言え」
ユキオはキミエの帰って来るまでの言わばつなぎとしてそんな事を命令口調で聞いた。
『妙に若そうだな。こいつら皆未成年じゃないのか』
そんな懸念があったからでもある。
「お前は」
「わ、わ、私は杉内ナノハ、17歳」
「お前は」
「こ、近藤ヒマワリ、15歳」
「結城ユリエ、14歳」
「原木ノンノ、16歳」
「西川原ジュノン18歳」
「堅達ノゾミ20歳」
「一人を除いてみんな未成年か。さてこいつらの始末をどうつけたらいいかな」
ユキオは対応に困った。
「あ、あの、こ、殺さないで下さい」
最年長の堅達ノゾミが必死の思いで言った。ケバケバしい風体に似つかわしくない恐怖に戦きながらの言葉だった。
「殺しはしない。しかし俺達の事を口外されたら困るんだよ。もし誰かに聞かれたら、仲間同士の喧嘩だと言うこと。もし喋ったら恐ろしいことになるぞ!」
ユキオは脅した。脅したくはなかったが確かに簡単に言われたら困ることは事実だった。
「OK! OK! レンタカーは断れたし、ガソリンの補給もしないことになったから」
キミエが嬉しそうに走って来た。
「じゃあ、車を一台借りていくことにする。どうするこいつらは」
一応キミエの意見を聞いてみた。
「救急車を呼んで、後の始末は彼らに任せましょうよ。早くこの場を離れないと何かとまずいわよ」
「ああ、そうだな。もう誰かが目撃して警察に連絡しているかも知れないからな」
三人の意見はまとまった。
「そういう訳だから、お前らは救急車が来るまでここで待っていろ。あとは救急隊員に任せることにする。多分その後で警察が来るだろうが、さっきも言った様に俺達のことは言うなよ。じゃあ、キミエさんご苦労ついでに救急車の方頼むよ」
「OK! 任せておいて」
キミエは今度は借りて行く予定の車に乗って連絡を始めた。想像通り、車にはちゃんと電話が装備してあった。そういう車種であることを知っているのだろう。
「あ、あのう、私も連れて行って下さい」
予想外の事が起きた。女達のうちの一人西川原ジュノンがそう言い出したのだ。
「ええっ、俺達と行ってもろくなことにはならないぞ。分かっているかも知れないが俺達は警察に追われているんだ。ダメだろうキャロンさん?」
「勿論だけど、あんたらの中で車を運転出来る人はいる? 勿論スーパー免許がなきゃ話にならないけど」
「はい、私は運転出来ます。スーパー免許も持っています」
そう言ったのは二十歳の堅達ノゾミだった。やはり派手な服装に不釣り合いなほど真面目に答えた。
「だったらこうしましょう。これは希望者だけでいいんだけど、ここに残りたい人は残って。それから、ノゾミさんと一緒に逃げたい人は逃げればいい。私達はあなた方を連れて行く訳にはいかないのよ」
「この場に残りたい奴は誰だ」
「はい」
「はいっ!」
杉内ナノハと結城ユリエが手を挙げた。理由ははっきりしないが、倒れている男達の中に彼氏がいるのかも知れない。
「それじゃ、後はノゾミと一緒に車で逃げればいい。さあ、乗れ」
ユキオはかなり強引に残りの四人を車に乗せようとしたのだが、一人だけ強硬に拒んだ者がいた。
「わ、私は、一緒に行かない!」
ジュノンは激しく抵抗した。
「しょうがない、じゃあ、あんたらは行けばいい」
仕方なく、ジュノンを降ろし、他の三人を出発させた。
「ブロォォォォン!」
恐らくは改造したであろうエンジン音を響かせて一台の車は去った。
「一つだけ聞くけど、あんたは無宗教か?」
「神信心の事か?」
「ああ、そうだ。あんたは18だよね」
「うん、神様なんていないよ。仮にいたとしてそれがどうしたってのさ。あたしは身寄りがないからあいつらとつるんでいたけど、紅サソリ団もここまでだよね、大将がやられちゃったし。
あたしには帰る場所がないんだよ。天涯孤独なんだよ。頼むよあたしを連れて行ってくれよ。何でもするからさ。人殺しでも構わないよ」
「おいおい物騒な奴だな。一応連れて行く。こいつの言うことに嘘はなさそうだ」
ユキオはさりげなくジュノンの『心読み』をした。荒れ果てた心が見えるが、それでもなお純粋な魂を持っている事が分かった。
「私は反対だよ、こいつは気に入らない」
困ったことにキミエが反対した。ユキオがジュノンに優しいのでカッカ来ている。
「俺が良いと言ったらいいんだよ。俺に従って貰う」
ユキオは押し切ろうとした。
「まあ、取り敢えず、目的地までってことにしましょう。その後は本部からの指示を待つってことでどうかしら」
キャロンは妥協案を出した。
「し、仕方ないわね」
キミエはしぶしぶ承知した。
「それじゃ行くけど、ユキオさんは私の隣に座って下さい。それが彼女を連れて行く私の条件です」
「ああ、分かった。そうするけどいいよね」
「はい、ジュノンさんもいいわよね」
「あたしはどっちでも」
話がまとまると、急いでその場を立ち去った。数台の救急車がやって来たのはそれから7、8分後、更に5分後には警察もやって来た。
ただ女達は勿論のこと、ユキオにやられた男達も一人もユキオとその連れに関しては言わなかった。彼らを恐怖心が支配していたのだ。
特に拳銃の三人がやられたのがショックだった様である。三丁の拳銃が火を吹けば無敵だったのだ。今までにも相当強い連中がいたが三丁拳銃の前に屈していた。
その絶対の自信が崩れ去ったのだ。しかも丸腰のたった一人のガキとも思える男に。その男が自分達のことを言うなというのである。男達は直接は言われていなかったが喋れるはずも無かった。
「結果的に少しだけど休養が取れたから、このまま目的地の天国、99まで行きます。休憩は途中で必要かしら?」
「うーん、一度くらいは休んだ方が良いな。スーパー高速道の出口近くで一回休憩しようよ」
ユキオは気持ちを落ち着けることも必要だと感じていた。
「分かりました。じゃあ、あと一回だけパーキングエリアに入って休養を取って、それからスーパー高速道を抜けますから」
「そうねえ、そうして貰えるかしら。ねえ、ジュノンさん、私達の世界ではたばこは吸えないし勿論麻薬はご法度よ。それでもいいのかしら」
「あたしは全然構わないよ。あいつらの手前仕方なくたばこや薬もやったけど、本当は好きじゃない」
「だったら良いんだけど、さっきあなたは言っていたわよね、紅サソリ団も終わりだとかなんだとか。紅サソリ団っていうのがあなた達のグループの名前?」
キャロンはどこかで聞いた名前だと感じている。
「ああ、今までに何人か人も殺しているヤバイ連中だよ。頭は散水チョージていう奴なんだけど、拳銃の早打ちが得意でね。
紅サソリ団はこのスーパー高速道を根城にしている一番強いグループだった。私はノゾミに誘われてこの世界に入ったんだけど、今日みたいな手口で強盗やらかしていたんだ。毎日のようにね」
「警察はあなた方を追っていなかったの?」
「はははは、何も出来やしないよ。時速300キロ以上の世界なんだぜ。ここを走っている限り捕まえることは事実上不可能なのさ」
ジュノンは自慢げに言った。
「まあ、呆れた。でも警察もだらしないわね。おかげでいい迷惑だったわ」
「ご、御免なさい」
殊勝にもジュノンは謝った。それから再び話し始めた。
「今回はエッチ目的だったんだけど、まさかこんなに強い人がいるなんて。その、ユキオさんて言うんだよね、チョージの拳銃で倒せなかったのはあんたが初めてだよ。
それも素手だよね。車の中から見ていてたまげてしまった。動くスピードが速過ぎて見えなかったよ。あんた人間なんだよね」
「余計な詮索はしない方が良いわよ。この人は間違いなく人間よ。あなたが私達のグループの仲間入りが認められたら、この人の正体も分かって来ると思うけど、まだあなたに教える訳にはいかないわね」
「グループって何のグループ?」
ジュノンは理解しかねている。
「目的地に着いて、それから本部の指示を受けてからでないと何も答えられないわね。も言う一度言うけど詮索はそこまでにしなさい」
「は、はい。分かりました」
西川原ジュノンはいたって素直だった。




