98 再び車中にて(3)
98 再び車中にて(3)
「仕方がないでしょう。こうなったら一生付き合っていくしかないんだから」
キャロンは慰めのつもりで言った。
「はあ、一生ですか………」
それからしばらく会話は途切れた。しかし突然キミエが、
「ごめんなさい、うっかりしていたわ。ガス欠になりそう、ああ、困ったわ」
泣き出しそうな声で言った。
「左側の緊急駐車場に取り敢えず止めて。ガスゼロでも慣性で走れるでしょう?」
キャロンが指示を出した。車はどんどん減速し緊急駐車場に停止した。すぐさま近くのガソリンスタンドに連絡して来て貰うことにしたが30分くらいは掛りそうである。
「人手が足りないから速攻では来れないらしいわ。30分あれば大丈夫らしいけど」
キミエは如何にも申し訳なさそうに言った。
「珍しいミスね。キミエさんメーター見ていなかったの?」
「まだ半分くらいあるから大丈夫だと思っていたんですけど、このメーターインチキね。急にぐんと減りだしたのよ」
「変ですね、ガソリンが漏っているんじゃないんですか。調べた方が良いかも知れませんよ」
「そうします」
キミエと他の二人も車から降りて周囲を調べてみた。
「ああ、やっぱり漏れているわね。転々と続いているのはガソリンの跡じゃないかしら」
キャロンは素早く見つけた。
「ああ、本当ですね。しかし、変ですね、こんなことはめったにないと思いますけど」
「これじゃ、ガソリンを補充しても走れるかどうか。もう一度電話してみます。車は修理に出して、レンタカーの手配をお願いしたいわね。それともタクシーにするか」
キミエは責任を感じて言った。
「レンタカーを優先にして下さい。どうしてもだめな時はタクシーにしますから」
キャロンは即決した。
「レンタカーの手配、OKだそうです。あと40分くらいかかるそうですけど」
「分かったわ。仕方ないから、車の中で待ちましょう」
再び三人は車に戻った。
「しかし、おかしいですね。これって誰かが故意にやったんじゃないんですかね」
ユキオは確信めいたものを感じている。故意にという点では他の二人も意見が一致していた。車社会が始まった20世紀前半ならいざ知らず、20世紀末頃からはその種の事故はほとんどなくなっている。
「キミエさんは念入りに調べたのよね。どうして見つけられなかったのかしら?」
キャロンは不思議に思った。
「方法は一つですね。キリの様なものでタンクに穴をあけて、時間がたつと溶ける素材でフタをしておく。しかも一番目立たない分かり難い場所を選んで。
つまり素人の仕事じゃなくてプロの仕事ね。15分かけて念入りに調べても工作した跡を見破れなかったのだから、余程腕のいい車に詳しい連中の仕業に違いないわ。
大きな組織が絡んでいるのよきっと。一番考えられるのはヤセールグループだけど、ひょっとして別のグループかも知れない」
キミエは暗に天下グループを示唆した。
「ちょ、ちょっと待ってよ。天下グループの誰かがやったって言うの。それはちょっと聞き捨てならないわね!」
キャロンはかなり怒って言った。
「ヤセールグループは私達の行動を把握していないわ。把握出来ているとすれば天下グループだけよ。疑う価値はあると思うわ」
キミエは一歩も引かなかった。
「しかし別のパターンがあるかも知れない。俺とキミエさんは道場から逃げて来た。俺は名乗ってしまったから、マンションさえ突き止めればどこに住んでいるのか知る可能性はある。
逃げて来た時、確かに誰も後を追っては来なかったけど、どのマンションに逃げ込んだか例えば双眼鏡を使えば、いや眼の良い人だったら逃げ込んだマンションを特定出来る可能性はある。
ただし車の特定は難しいけどね。そこまで管理人がしゃべるとも思えないし、うーん、どうすればこんな細工が出来るかな」
ユキオも推理に行き詰ったが、
「いや、待てよ。出口を見張っていれば、分かるんじゃないか。それで車で後をつける。俺達はパーキングエリアに駐車したけど、あの時はかなり離れた所に駐車した。
パーキングエリアに1時間以上いたんだから細工をしようと思えば出来ないことはない。それまではタンクのメーターは何ともなかったんだよね」
ユキオは徐々に核心に近づいている気がしている。
「そうよ、確かに、パーキングエリアから出た後で急にガス欠になりそうになった」
「だとすれば腕がそんなに良くなくても構わない。パーキングの駐車場で単にガソリンタンクに穴をあけたのだとすれば、辻褄がぴったり合う」
「うん、名推理!」
キャロンは思わずうなったが、内心天下グループの疑いが晴れてほっとしていた。
「しかし、誰なんだろうね。明らかに犯罪ですよ、これは」
「後をつけて来た車に気が付かなかった?」
「うーん、運転するのに精一杯でそこまではちょっと」
三人が頭をひねっていると、
「ブオン、ブオン、ブオン、………」
激しい騒音を立てて、7、8台の大型バイクと数台の車が緊急避難用の駐車場に入って来た。それほど大きな駐車場ではないので、その連中のバイクと車でいっぱいになった。
他の車は一台も入れそうになかった。いや、他の車が入って来れない様にわざと駐車場一杯に駐車したように思えた。
「ヒャッホーッ! ガキ一人にいい女が二人。こいつは楽しめそうだぜ」
降りてきた連中は如何にもガラの悪そうないわゆる暴走族だった。口々に卑猥な言葉を投げ掛けながら三人の車に近寄って来た。
「キャロンさん、要するに道場の事とか何も関係ない、こいつらの仕業だったんですよ。俺が話をつけてきますからお二人はここで待っていて下さい。こういう時は骨折もやむを得ないでしょう?」
「はあーっ、仕方がないわね。好きなようにして下さい」
「ユキオさん、怪我をしないようにね」
「勿論ですよ、じゃ」
ユキオは一人車から降りて10人程の荒くれ男達と対峙した。
「ひゃっ、ひゃっ、ひゃっ、おい、正義の味方気取りの男が出て来たぞ。いや、まだガキか。坊や、怪我しねえうちに、早く消えな。俺たちゃおめえになんぞ興味はねえ。
中のお姉さん達に興味があるんだ。俺は親切な男なんだぜ。こうやって紳士的に話しているんだからな。さあ、早く行きな。家に帰って母ちゃんのおっぱいでもしゃぶってな」
「あははははは、………」
男達は余裕の大笑いをしたのだった。
「じゃあ、俺も一言。車のガソリンタンクに穴を開けたのはあんたらか」
「はははは、きまってるじゃねえか。そんなことも分からなかったのか。間抜けな奴らだぜ」
「じゃあ、もう一言。さっさとここから去った方が身の為だぞ。そうしないと大怪我をすることになるぞ。俺は注意したからな」
「おい、おい、おめえは自分の立場が分かってねえな。余程頭が悪いんだな。しゃあない、おい、このガキに立場の違いってものを教えてやれ」
リーダー格の男が言うと、
「くりゃっ!」
「そりゃっ!」
「それっ!」
先ず三人が手にそれぞれ金属バットや鉄パイプ、ハンマーを持って襲い掛かって来た。相当に喧嘩慣れしている様である。息がぴったり合っていて隙はなさそうだった。
「ぎゃっ!」
「うぎゃっ!」
「ぐえっ!」
三人は三人とも獲物を持っていた手の骨を砕かれて、もだえ苦しんでいた。いつの間にやったのか誰にも分からなかった。
「うぎゃあっ」
「い、痛い!」
「うああああっ!」
次の瞬間に更に三人やられている。もう残りは四人しかいない。
「ま、待ってくれ」
一人は獲物を投げて、降参した振りをしたが、ユキオは見破っている。ナイフを隠し持っているのだ。
「ぐえっ!」
隠し持っていた手の骨が砕けた。残りは三人。
「なめんじゃねえぞ」
叫びながら、何と三人とも拳銃を出して来た。しかし、それがユキオの怒りに火をつけた。彼らが拳銃を構えた時には既にその手の骨が砕かれていたが、その三人の手は二度と回復しない。
粉々に打ち砕かれていたのである。余りに激しい劇痛で三人とも失神した。10人を倒すのに30秒とは掛っていなかった。




