93 ブルースカイパーク(2)
93 ブルースカイパーク(2)
「お待たせしました。ピザ・ブルースカイですが」
20分程で注文の品が届いた。料金は健太が支払った。レストランではキミエが払ったので、今回は健太が払うと言って譲らなかった。あれこれ随分頼んだので2万イエンほどになった。
「へえ、何か壮観だね。でもこれほど頼んだのに2万イエンは安いね」
「そうねえ、セレブの感覚だと安いかも知れないわね。私から見たら普通だけど」
「ふうん、そんなものか。えっと、それじゃあ、カンパーイ!!」
「カンパーイ!!」
居間のテーブルに注文の品のほとんどを乗せて、キミエはビールで健太はコーラで乾杯した。二人とも、とても幸せな気分だった。ただ、キミエの酒乱だけが心配だった。
「ふう、ビールが美味しいわ。だけどあれねキャロンさんから相変わらず何の連絡もないわね」
「ああ。明日は来るはずだからそれなりに支度して置いた方が良いと思うけど、もし明日午後とか夕方に来るんだったら、俺は明日もブルースカイパークに行ってみたいよ。
体力測定のマシンが他にいろいろあるみたいだしね。まあ、今度は子供のいない所を選んだ方が良さそうだけどね」
「ふふふふ、そうね。だけど体を鍛えるんだったら、スポーツジムとか格闘技の道場とかもあるわよ。全部ブルースカイパークの中にあるのよ」
「へえ、そうなんだ。ただ人とやるのは怪我しそうで怖いからやめておくよ」
「あれだけのパワーがあっても自信が無いの?」
キミエは意外に感じた。
「いや、相手に怪我をさせることが怖いんだよ。今考えると随分怪我をさせて来たと思ってね。一番ひどい怪我は、四天王の一人、剛毅という人だったんだけどね。顔面が相当ひどかったからね」
「顔面以外を狙えば良かったんじゃないの?」
「これはウヅキさんには言ってなかったんだけど、彼の下半身は生身の体じゃなくて殆どロボットだったんだよ。顔面だけが生身の体でね」
「じゃあ、下半身を攻撃しても効き目が無いということ?」
「ああ。しかも、肉を切らせて骨を断つ、つまりダメージを覚悟で攻撃しようとしていた。俺を殺す気でね」
「えええっ、そ、そうなんですか!」
健太は誰にも言っていなかった秘密を打ち明けた。剛毅の下半身が殆どロボットだということは彼の名誉の為にも言い難かったのだ。
「そう。だから、こっちも一気に片を付けるしか方法が無かったんだよ。しかし、後になって考えてみると、むしろ戦わなかった方が良かったと思う。卑怯者とか臆病者だとか罵られてもね」
「でも、それも悔しいわね」
「うん。ただそれ以来俺はロボットと戦うようになって来ていた。俺の戦うべき相手はロボットだという気がするんだよ。最近、特にね」
「へえーっ、でも相手がロボットじゃ、勝ち目は薄いわね」
「そうなんだけどね、キミエさんの前で言うのもあれだけど俺の体は特殊だから普通の人と戦って勝ってもアンフェアだと言われそうな気がする。オリンピックで薬物を使って優勝するのに似ている気がするんだ」
「ああ、そうねえ。それは私が、………」
キミエは沈黙した。
「ピー、ピー、ピー、ピー、………」
絶妙なタイミングで電話が鳴った。電話には沈黙していたキミエがすかさず出た。
「はい、ああ、キャロンさん。ええ、ああ、そうですか。了解しました。じゃあ、明日の夕方まではフリーな訳ね。じゃあ、お待ちしておりますから。ええ、健太君は元気ですわ。それじゃ、お休みなさい」
電話は待っていたキャロンからだった。
「キャロンさん、明日の夕方、講義が終わってから来るそうよ。午後6時くらいになるらしいわ」
「ああ、そうなんだ。じゃあ、さっきも言った通り、明日またブルースカイパークに行ってみよう」
「OK! それでものは相談なんだけど、もう、ビールが無くなったんだけど、もう一本、ダメ?」
「ダメ!」
「そこを何とか」
「無茶だよ。悪酔いするのにきまっている。こればっかりは認められないぞ」
「はあーっ、私は不幸だわ。さっきまで幸せだったのに、今は不幸のどん底よ」
「大げさなんですよ。一休みしてから、お風呂に入って寝ればきっと良く眠れますよ」
健太は頑としてキミエの要求を認めなかった。
「私、何だか精神的に疲れたわ。じゃあ、お風呂に入って寝ます」
「ああ、お休みなさい」
「覗かないでよね」
「覗きません」
「す、少しぐらいなら覗いても良いわよ」
「おいおい、覗くなと言っておきながらそれはないだろう」
「もう、堅物なんだから」
「はいはい、私は堅物なんですよ」
「もう、知らない!」
キミエは怒って風呂場に消えた。風呂場は三か所ある。二か所ある寝室に一つずつ付いている他に、居間からすぐの所にも風呂場があるのだ。キミエはその居間の近くの風呂場に入って行った。
「ふう、やれやれ。キミエさん、昼は本当に良い人なんだけど、夜はちょっとねえ」
健太は小声で呟きながら、注文したから揚げ等の肉類をせっせと平らげていた。
『もやし野郎、か。あの一言はきつかったな』
メーキャップに来た女の最後の捨て台詞が心に突き刺さっている。理屈ではくだらない暴言だと分かっているのだが、かなりムカつく言葉だった。
それを思うと早く体力を回復したくて、良質のたんぱく質を大量に取らずにはいられなかったのだ。ほどなく山の様にあった肉類を全部平らげて、それから風呂に入った。本当はメーキャップに来た男達に風呂に入るなと言われていたが、
『顔を洗わなければ大丈夫だろう』
と考えて、体だけ洗って済ませることにした。
『うん、やっぱりかなり筋肉が付いて来ている。もう、もやしは卒業だな。ふふふふ、良かったな。入れ墨は相変わらず黒々としているな。しかし、天下グループの医者に消して貰えないかな』
キミエとの話の中で水泳が出て来て、入れ墨が無ければと痛感した。
『入れ墨を消すのに百万イエンくらいは掛るらしいな。俺の全財産をつぎ込めば何とかなるかも知れない』
そんな事を考えながら風呂から上がった。
『まさか、キミエさんこっそり飲んでいないだろうな』
寝間着を着てから一旦寝室を出て居間に行ってみた。特に変わった様子はない。しかし、彼女のベッドルームから何か声らしい音が聞こえて来た。
『何だろうな。ううむ、女性の寝室に入るのはちょっとためらわれるな』
そう思ったが寝室で酒を飲んでいるかも知れないと思って恐る恐るドアを開けてみた。
「ううーん、ううう、ひーーーーっ!」
明らかにうなされていた。恐ろしい夢を見ているのに違いなかった。起こすべきかどうか少し迷ったが、
「キミエさん! キミエさん!」
体を少しゆすって起こした。
「ううううっ、はあ、はあ、………あれっ、ああ、夢だったんだ。ああ、健太さん、怖かったよお!」
キミエは健太にしがみ付いた。
「一緒に寝て下さい。怖くてたまらないんです。お願いします。何もしませんから、一緒に寝るだけでいいんです」
キミエは怯えの表情と僅かながら甘えの表情とを見せている。かなり迷ったが、
「分かった。じゃあ今晩だけ、その前に汗を拭かないと」
言いながら、近くにあったティッシュで丁寧にキミエの汗を拭った。
「あ、有難う。優しいんですね。………あの、一緒に寝てくれますよね」
キミエは念を押した。よほど怖い夢だったのだろう。
「うん。じゃあ、失礼して」
キミエの寝ているベッドに入り込んだ。さすがに高級マンションだけあってベッドは広々としている。通常のダブルベッドより一回り広いベッドで二人寝ても十分に余裕がある。
「そんなに離れてちゃいやよ、もっとそばに来てぇ」
キミエは甘えた声を出す。悪夢に恐怖していることは嘘ではないのだが、それとは別の感情があふれそうになっている。
「ふふふふ、乗りかかった船だから仕方ないか」
何だかキミエという女の罠にはまった気がしたが、健太の即ちユキオの元々の優しい気持ちは彼女を拒否出来なかった。
「じゃあ、お休み」
「うふん、お休みなさぁい」
二人はかなり体を接近させた状態で眠った。
「ちゅうううっ」
「ぶちゅっ」
キスの音で目覚めた。キミエといつの間にかキスをしていた。しかもしっかりと抱き合っている。
『これは夢なのか?』
夢と現実とが入り混じっていた。次第に意識がはっきりして来るといつ脱いだのか、二人とも下着姿だったし、キミエのブラジャーは既に半分外れ掛っている。
『しまった、いつの間に?』
そう思った時にはもう遅かった。
『ユキノ!』
一瞬ユキノの顔が浮かんだが、
『彼女は俺と関係を持つはずがない!』
今までの経緯から、この時、ユキノの事はキッパリと諦めたのだった。キミエのブラを外しパンティも取り去り、自分もパンツを脱ぎ捨てて一気に性行為に及んだ。
ただ健太、即ちユキオは初めての情交である。あまり上手には出来なかったが、キミエは相当の経験があって、上手にリードしてくれた。失敗せずに性交渉は初回にしてはかなりうまく行ったのである。
「う、嬉しい。ううううっ」
キミエは健太と情を交わして、余程嬉しかったのか思わず涙ぐんだ。
「ああ、その、有難う。何とかうまく行ったよ」
「ううん、いいのよ。私が処女じゃないことがばれちゃったわね。まあ、処女だとは思っていなかったと思うけど」
「はははは、ま、まあね」
「もう、ひどいわ。正直に言います。あなたが五人目よ。一人目はいたずらみたいなものだったけど、後の三人は全員がプレイボーイだった。
他に女が複数いると知って別れて、その次もおんなじ別れ方をした。更にその次もそうだった。自分でもちょっと呆れるわね。似たようなタイプの男ばかり好きになっていたのよね。
それで、しばらく嫌気がさして、彼氏いない歴三年目よ。初めて今までとは違うタイプの男性に興味を惹かれた。というか、こういう出会いは多分最初で最後だと思うわ」
「俺もまさかこうなるとは思わなかったけどね」
「でも、良いのかしら。あ、あの、その、ユ、ユキノさんて人の事は………」
キミエは恐る恐る聞いた。
「彼女とは男と女の関係にはなれないと思う。親しくはあるんだけど、絶対に越えられない壁があるような気がする。だから気にすることはないと思うよ」
「そ、そう。だと良いんだけど………。あ~とても気持ちが良いわ。ああ、眠くなってきた。お休みなさい」
「ああ、お休み」
その後キミエはうなされることも無く静かな朝を迎えたのだった。




