92 ブルースカイパーク(1)
92 ブルースカイパーク(1)
「あと、これから私達は何をすればいいのかしら?」
レストランからの帰宅途中にキミエは少々不安気に言った。
「そうだな、キャロンさんから何の連絡もないしね。まあ、明日来るらしいから今日は骨休めしておこうか。でもね、俺は体を動かしたいんだけどね。
まだ格闘技とかはちょっと無理だから、ここにはテニスコートとかあったんだよね。借りられるのかな、今からでも」
「ちょっと無理じゃないかな。人気があるから、順番待ちらしいわよ。2、3時間は待たされそうよ」
キミエは残念そうに言った。
「キミエさんはテニスは出来るのか?」
「えへへへへ、ちょっと得意なのよ。でも暫くやってないからねえ。腕は多分落ちちゃったと思うんだけど」
「そうか、しかし、何時間も待つんじゃまずいよね」
「プールで泳ぎましょうか? プールだったら待ち時間は無いわよ」
「俺も泳ぎはそこそこ出来るんだけど、背中の入れ墨が問題なんだよ」
健太、即ちユキオは水泳は比較的得意だった。ゆっくりだったら千メートルくらいは楽に泳げた。誰にも見られていないのなら、一度限界まで挑戦してみたかった。
しかし妖鬼の入れ墨は相変わらず黒々と背中一杯に描かれているのである。日本中に知れ渡っているので、うかつな事は出来ないのだ。
「そうねえ、じゃあ、近くのアミューズメントパークに行かない?」
「近くにあるのか?」
「ええ、これもまた、ブルースカイパークって言うんだけど」
「という事は、マンション専用のとか?」
「いいえ、ここは誰でも入れるのよ。腕自慢の人の為のアームレスリングマシンやパンチングマシン、キックマシンなんかもあるわよ。
珍しいのは自転車競技マシンやマラソンマシンなんてものまである。ジャンピングマシンもあったと思うわ。どう、健太さんにピッタリなんじゃないかしら?」
「へえ、驚いたな。じゃあ、着替えてそこに行こうか」
「はい!」
二人は一旦帰宅して、留守電が無いことを確認してから、着替えて再び出掛けた。マンションから少し離れているが、歩いて十分とは掛らなかった。
平日だったのでさほど混んではいなかったが、それでも数百人は来ているだろう。結構、賑わっている。まず最初に行ったのはパンチングマシンの所だった。
「300キロを超えると景品が出るらしいわよ。頑張って健太さん」
「いや、どうだろうね。病み上がりなんだからね、すっかり筋肉が落ちているし。まあ、やってみるか」
「バンッ!!」
凄い音がして記録は測定不能だった。
「パンパカパーーーーン!」
それでも、ファンファーレが鳴って、景品が出て来た。
「すげえ!」
そばで見ていたのはキミエの他に学校の帰りらしい小学生のグループだった。景品はキャンディーの詰め合わせだったので、
「俺、要らないからあげるよ」
と言って、渡した。子供達は大喜びである。が、それがまずかった。
「お兄ちゃん、今度はキックで挑戦してみてよ!」
小学生達は口々にそう叫んだ。彼らの狙いはお菓子にあるのに違いない。
「ああ、分かった。でもね、失敗するかも知れないよ」
「大丈夫だよ」
子供達の口車に乗せられて次はキックの挑戦である。
「ふうん、どうかな、えいっ!」
「ドンッ!!」
やはり物凄い音がして、測定不能と表示された。景品は500キロ以上からだったが恐らく1トンを超えたのだろう。ここでもファンファーレが鳴って景品が出て来た。
ここの景品はチョコレートの詰め合わせだった。勿論それも子供達に渡したが、なお子供達は付きまとって離れない。
「ねえ、これが最後だからさ、今度はアームレスリングに挑戦して!」
少しうんざりして来ている健太の心をちゃんと見透かしている。
「これが最後だからな。いいよな!」
幾分、語気が荒くなった。別にデートのつもりではなかったのだが、気分はキミエとデートしているみたいだったのだ。
「坊や達、これで本当に最後よ」
キミエも察して念を押した。
「はーい!」
子供達は精一杯良い子になった。ただアームレスリングの場合は今までとはちょっと違っていた。
「お兄さん、一番強いのにしてよ。景品が凄いんだよ」
機械が四台あって、100Kgクラス、200Kgクラス、300Kgクラス、そして最強が500Kgクラスだった。コインを入れるのだが、Kgと同じ金額に設定してある。
それぞれ、100イエン、200イエン、300イエン、500イエンで、当然一番高い500Kgクラスに勝てば一番高価な景品になるという仕組みである。
「しょうがないな、じゃあ、やってみるけど、今度こそ失敗するかも知れないぞ」
健太は渋々500イエン硬貨を投入して、500Kgクラスに挑戦した。
「はりゃっ!」
アームレスリングの場合は瞬発力が大事で、ゴーサインが出た瞬間に最大の力で一気に持っていかないと勝つのは難しい。
しかしそれは腕力が接近している場合の話。圧倒的な力の差がある場合にはさして重要ではない。健太は半ば負ける積りでわざとゆっくりと力を入れたのだったが、それでも圧倒して勝った。
わずか一日で体力は急激に回復しつつあったのだ。昨日だったらおそらく負けていただろう。しかし、今は全盛の時の少なくとも三分の一くらいには回復していた。
「ギブアップ! あんたの勝ちだぜ、大将!」
ファンファーレではなくセリフを言って、景品が出て来た。出て来たのは数枚のカードである。
「ありゃ、綺麗なカードだけど、これでいいのか?」
健太にはカードの値打ちは分からなかった。
「す、す、すげえ。スーパーヒーローのレアカード三枚だ。で、でも、二枚足りない」
子供の数は五人だった。
「だったら坊や達、さっき取ったキャンディセットとチョコレートセットとそのカード三枚で丁度五人分あるから、じゃんけんで決めたら? じゃんけんで一番勝った人から順にどれか取るのよ」
キミエの提案に子供達は乗った。物凄く真剣な表情でじゃんけんして、一番勝ったものから順に指定して行く。幸いなことに、二番目の子はチョコを取り、四番目の子はキャンディを取った。カードが欲しかった子にちゃんとカードが行き渡って、トラブルなく終了した。
「お兄さん、それとお姉さん、有難う」
一人の子が言うと、
「お兄さん有難う。お姉さん有難う」
他の子供達も口々に礼を言って、幸せそうな顔で帰って行った。
「ふふふふ、一時はどうなることかと思ったけど、うまく行ったわね」
「ああ、やれやれ結果オーライってとこだな。今度から子供が見ていたら、わざと負けた方がいいな。大人の常識だと一回で終わるんだけど、さすがに子供は自分の欲に正直だ。ちょっと疲れるよ」
「まあ、あなただって、ついこの間までは子供だったのにねえ。もうすっかり大人のつもりなんですか」
「はははは、まあ、そう言えばそうだけど。小学生くらいまでだよね子供時代は。さて、だいぶパワーが戻って来たことが確認出来たから、今度は君も一緒に遊べるものにしようか。ボーリングなんかどうだ?」
「そ、そうね。ボーリング場も遠くはなさそうだから歩いて行きましょうか」
「ああ、そうしよう」
二人は今度はボーリング場に行った。
「久しぶりだわ。学生の頃たまに行ったけど、あんまり得意じゃなかったわ。ベストスコアが150位だったかしら」
「ふうん、俺と大差ないね。俺も多分それ位だったと思う」
始めてみると、何年もやっていないせいか、ボールの進路が定まらなかった。
「あら、ガターだわ」
「ありゃ、俺もだ」
二人とも絶不調で1ゲーム目は散々な結果に終わった。それでも3ゲーム目には各々150ほどのスコアを出して、それなりに満足して帰宅した。
「夕ご飯はどうします? 今から外出するのもあれだから、出前でも取りましょうか」
キミエは少し疲れたようである。
「そうだな、俺も少しくたびれたから、何か取ろうか。何がいいかな」
「私はピザがいいわね」
「成程。じゃあ、ピザ二枚。種類は任せるよ。その他のジュースとか飲み物も任せる。ただ、肉類を俺は食べるから、適当にお願い出来るか?」
「イエス、任せなさい。で、そのう、わ、私はビールが良いかなって思うんだけど、ダメ?」
「うーん、ビールねえ。ひとビン位なら良いと思うけど。絶対飲み過ぎはだめだぞ」
「分かった、じゃあ、今注文しますから」
「ああ」
早速キミエは電話した。注文も慣れている様だった。




