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「へえ、あんたが噂の妖鬼さんかい?」

「ま、まあね。今は健太という名前になっているけど」

「ああ、そうだった。健太君だった。それにしても細いね。あんたほんとに四天王を倒したのかい?」

「とてもそうは見えないわね、何だか弱そうに見えるわ」

 キャロン以上に無遠慮にものを言う三人である。三人とも体がごつく、格闘技をかなりやっているらしかった。


「ちょっと待って下さい。あんたたち何しに来たのかしら?」

 朝食を終えて、食器の後片付けをしながら、不愉快そうにキミエは言った。

「はははは、勿論こちらさんのメーキャップですよ。特殊メーキャップですがね」

 三人の中では一番年配のリーダーらしい男が言った。


「だったら余計な事を言ってないで、さっさとしたらどお。それと、あなた達は知らないのかも知れないけど、こちらの妖鬼さん、病み上がりなんですからね。

 昨日退院して来たばかりだから、まだ体力が回復していないんです。余り細いとか、弱そうだとか言わないで下さい。気の毒でしょう!」

 キミエは相当に厳しい口調で言った。


「おお、おっかねえ、お姉さんだな。こいつは参った。それじゃ始めるか。勝手知ったる他人のマンション、それじゃ早速仕事にかかりますぜ。こっちへ来て下せえ」

 リーダー格の男はにやにやしながら健太を呼んだ。どうやらこのマンションには何度か来たことがあるらしい。


「さあ、ここに座って。仕事は迅速丁寧。おっと忘れてた、メーキャップに三時間はかかるからね。その間トイレには行けないから今のうちに行っておいた方がいいですぜ」

「ああ、じゃあ、そうさせて貰う」

 健太は素早く用を足して化粧室の鏡の前のイスに座った。


「おい野郎ども、ミュージックスタート!」

 女の持って来たラジカセみたいなやつのスイッチを入れると、ガンガン激しいロックミュージックが掛った。その音楽に合わせて彼らは仕事をするようである。


「髪も染めるからね。何色がいい? ああ、銀色がいいか、じゃあ、銀髪ゴーッ!」

 髪の色を聞いたのに、勝手に銀髪に決めてすぐさま染め始めた。それが終わると顔の特殊メークに掛ったが、顔のかたちや、まゆ毛の形などすべて勝手に決めて行った。

 その間、音楽は流しっぱなし。防音がしっかりしているからいいものの、半ば踊りながらやっているので、騒々しいことこの上なかった。


『いったいこの人達は何なのかしら?』

 キミエは呆れていたが、きっちり三時間で仕上げたのには驚いた。腕は一流なのだ。余り化粧した様に見えないのに、まるで別人の様な顔立ちになった。


「ハイ出来上がり。それで、一つだけ注意事項があるんだ。この特殊メークは相当に長持ちするタイプなんだけど、それでも一週間しか持たないからね。

 それと、ひげは一応自分で剃って貰わないとね。もう一つは顔を洗えないんだなこれが。メークは落ちにくい素材を使っちゃいるけど、どうしても少しは落ちるからね。

 当然だけど風呂にも入れないからね。一週間たったらまた来るからね。俺達が来る前に風呂に入っておけばOKだぜ」

 リーダー格の男はきっちり言うべきことを言うと、

「えっと、料金なんだが、俺達の場合10万イエンと決まっているんだ。キャッシュでお願いするよ」

 当然の様に料金を要求した。


「ええっ! キャロンさんは支払っていないんですか?」

 驚いてキミエが言った。

「ああ、注文は受けたが、お金は天下グループが払うとか言っていたな」

「そうでしょう? それで私が送って行くって」

「あんたに送って貰う話は聞いてないな。それに、俺達はいつもニコニコ現金払いと相場がきまっているもんでね。まさか無いなんて言うんじゃないだろうな」

「ああ、俺が払うからいいよ。全然事情を知らなかったもんで、申し訳ない」

 健太はあっさり謝ってお金を出した。まだ百万イエンくらいはある。


「毎度ありがとうございます。それじゃこれが領収書。来週も同じ時間に来ますからね宜しく」

「毎度どうも!」

「ふん、見損なったよ、もやし野郎!」

 男二人は機嫌よく帰ったが、女は毒づいて帰って行った。


「なんていう人達なのかしら。特にあの女、ゆ、許せない!」

 キミエは激しく怒った。

「ふうん、あそこまで言わなくてもねえ。しかし銀髪か。こんな髪の色になるとは夢にも思わなかったよ」

「この次来たら、髪の色は健太さんが言えばいいんじゃないのかしら。黙っていたらどんな色になるか分かったものじゃないわ!」

 キミエは相変わらず怒っている。


「ああ、そうそう、におい袋を変えないとね。それで、もうお昼の時間だから外に食べに行かないか。このメーキャップとにおい袋が有効かどうか試してみたいんだよ」

 古いにおい袋を捨てて新しいのを取り出し、ポケットに入れた。人間の鼻にはそれがどんな匂いなのかよく分からないのだが、犬にならば明確に嗅ぎ分けられるのだろう。


「そうね、じゃあ、もう少ししたら出掛けましょうか。あの連中の事を忘れる為にもね」

「ああ、そうしよう」

 それから間もなく二人は身なりを整えて外出し、わざわざ警察署の前を通り過ぎてみた。ロボット警察犬は今では大きな警察署の前には必ず配備されている。


 犬一匹が犯罪者を遠ざける働きがある。確かに犯罪者にとって犬が番をしていると、どうにも入り辛い。前科者が側を通ると大抵吠えるのだ。犯罪者には特有のにおいがあるらしい。

 かつて警察署が犯罪者に襲われるケースが何度かあって、しばらくは生身の犬が配置されていたのだが、最近になってロボット警察犬に取って代わられるようになってきている。


「ふふふふ、全然吠えなかったわね」

「ああ、ちょっと緊張したけど、におい袋の効き目は絶大だね」

「じゃあ、マンションの隣にあるレストランに行きましょう」

「うん」

 健太と一緒に歩き回ってキミエの表情は随分明るくなった。何となく恋人とデートしている気分になったようである。


「お二人様ですね」

「はい」

「どうぞこちらへ」

 二人が入ったのはブルースカイレストランだった。その名前が示す通り、ブルースカイマンション付属のレストランで、マンションの住人か会費を支払った会員専用のレストランである。

 著名人も数多く利用している高級レストランだった。テレビなどで見覚えのある男性や女性の姿があちらこちらに見える。しかし、席に着いた途端に心に激震が走った。

『ふふふふふふ、うまく化けたわねえ。やっと見つけた! あたしは運が良いねえ………』

 一番会いたくない女、クレハが近くの席に彼氏らしい男と一緒に座っていたのである。

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