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 9 逃亡(1)

 東京などの具体的な地名はこの物語では出てきません。イメージの固定化を防ぐ為ですのでご了承下さい。ただし大きな範囲の名称、例えば日本ぐらいは出てきます。悪しからず。

                      

                   9 逃亡(1)


 道路に沿って、しかし草に隠れ、木に隠れしながら、次第に街へ向かって歩き続けた。やがて街のはずれに差し掛かったが、おあつらえ向きに、ホテルがあった。


『ここはいわゆるラブホテルじゃないか。しめたっ! ここだったら、顔を見られずに済むかも知れない』


 テレビドラマやゲームなどでラブホテルの出入りの状況は一応知っている。先払いのシステムが採用されている場合もあり、その上フロントに人がいなくて、誰にも出会わずにチェックインやチェックアウトが可能な場合もある。ここのホテルもどうやらその様である。


『ふうむ、ここは現金を入れて、カードを受け取るシステムなのか。一時間につき、千イエンか。よしやってみよう』

 三千イエンを入れると、三時間だけ休めるカードが出て来た。そのカードには部屋の番号と、終了時間とが明記されている。

 時間をオーバーすると中の電源が切れて、自動的にドアが開き、半ば強制的に外に出されるシステムのようだ。勿論、途中で追加料金を支払えば問題はないのだが。


『311号室か、ああ、ここだな。と、その前に……』

 カードを差し込み口に差し込むとドアの鍵が開くのだが、廊下のそこここに、コスプレ衣装の自動販売機があった。ぼろぼろの服では街中を目立たずに歩けそうもないので、一応の格好をつける為にかなり真剣に服を選んだ。


 中に、ちょっと見た感じサラリーマン風の上下一揃いがあった。生地が薄っぺらで安物の感は否めないが、極悪非道の男の服装には見えないところが良さそうに思えたのだ。


『うむ、コスプレにこんな服があるとは信じられないけど、まあ、これだったら、着れそうだな。ええっ! これで五万イエンもするのか、こんなものが!!』


 現金は百万イエン以上あったが、これから先の長いであろう道中を考えると、出来るだけ出費は抑えたかったのだ。

 しかし背に腹は代えられない。その他に、下着類もあって、それも買った。更にサングラスと帽子も買い求めた。全部で約十万イエンだった。


『あ~あ、痛いなあ、畜生! こんな安物が、こんなに高いなんて! 全く、なんで俺はこんな目に合うんだ、……』


 部屋に入るとぶつぶつ言いながら、すっぽんぽんになって、すぐに風呂に入った。何日ぶりの入浴だろう。風呂から上がると、どっと疲れが出て、すぐに眠ってしまった。


「ピーッ、ピーッ、ピーッ、……」

 休憩時間終了十分前の警告音で目が覚めた。

「ウオッ!」

 一声あげて飛び起きた。

「追加料金を支払うぞ!」

思わず叫んで、慌てて、追加料金支払い口に現金二千イエンを投入した。


『ふう、間に合った。あと二時間は大丈夫だな。その間に、もう一度風呂に入って、早くここを出て行こう』

 同じところに長く居てはまずいと感じて、再び風呂に入り、買ったばかりの服を着て、

『服装も全く違うし、帽子にメガネで印象が全く違う。よしこれだったら、大丈夫』

 自分の姿をラブホテルらしい大きな鏡に映して見て確認した。


 着て来たボロ着は屑入れに投げ捨てた。屑入れは意外に大きく、楽に投げ捨てることが出来た。あと、問題は靴である。

 そのホテルでは靴までは売っていなかったのだ。終了時間より一時間ほど早かったが、そそくさとホテルを後にした。外はもうすっかり明るかった。


『どこかに二十四時間営業のスーパーでもないかな。ええと、ええと、……』

 なるべく大きな通りを選んで歩き続けた。二十四時間営業のスーパーなどは大抵大通りに面しているからである。


『ああ、あった!』

 喜んで店に入ったのだが、開いていたのは一階だけで、二階には上がれず、当然そこの靴屋も閉まっている。


『なんだ、二階は十時開店か、ちぇっ!』

 スーパーの中の時計を見ると、まだ午前六時。靴屋開店までは四時間もある。仕方なしにスーパーを出てみると、すぐそばにネット喫茶があった。


『よしここで時間をつぶそう』

 そう思ったのだが、入室には「身分証が必要」と、あったのでこれは断念した。


『どうする? どこへ行く?』

 思案に余ったのだが、

『あいつらが捜しているんじゃないのか?』

 自分が追われている身であることを思い出した。

『それに、あんまりうろうろしていて、警察官に職務質問されたらそれも困るな』

 結局、ユキオの足は駅へ向かっていた。


「ガチャッ」

 切符の自動販売機で切符を購入した。スーパー新幹線で日本の中心都市、いや、今や世界の中心都市「ビッグシティ」に向かったのだった。五百キロほど離れているが、一時間余りで到着した。


 ユキオの住む北の小規模都市の様に人は少なくない。どこへ行っても人、人、人、人、だった。駅を出たものの、どこへ行ったらいいのか全く分からずに、しばし呆然とたたずんでいた。


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