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 89 酒乱(2)


                    89 酒乱(2)


「いや、そういう事じゃなくて、アルコールが怖いんですよ。俺の体は異常な成分で出来ているらしいですからね。それに飲んで酔っ払ったら暴れて手が付けられなくなるかも知れないからですよ!」

 健太は厳しい調子で言った。


「な、何もそこまで言わなくてもいいでしょう。あ~ワインが美味しい!」

 キミエは厳しく叱られた気分で、内心は少しビクついていた。健太即ち妖鬼の強さは彼女も重々聞いている。普通の人間とは違うことを思い出したのだ。


「まあ、分かればいいんですけどね」

 健太はキミエの扱いに困っていた。

『さっさと寝てしまおうか』

 とも思ったのだが、一人にすればしたで、大騒ぎしそうな気がして、

『しょうがない、しばらく付き合うか』

 そういう方針に決めた。


「近日中に行われることになった天国島の捜索には、ロボット警察犬が百匹以上使われることになりました」

 妖鬼関連のものは無かったが、天国島の捜索について、警察庁発表のニュースが流れていた。

「へえ、百匹もねえ。でも変な言い方ね。ロボットなのに百匹だなんて。本来は百台と言うんじゃないの?」

 キミエは酔っているのに変なことに気が付いたようである。


「うん、まあそうなんだけど、いいんじゃないのどっちでも」

「良くない! 人間とロボットと同じにされてたまるかってんだ!」

「いや、生きた犬と、ロボットとを混同しているんだろう?」

「あんたも細かいねえ。そんなことどうでもいいじゃないの!」

 キミエは何かと叫ぶ。すっかり酔っ払いである。


「えっと、もう午前二時過ぎたし、ワインももう無いようだし、そろそろお休みにしましょうか」

「あたしに一人で寝ろって言うの? 可哀そうなこのキミエちゃんを一人ぼっちにさせるんですか?」

 ワイン一本を開けて相当に酔っている。

『ほっといても寝ちゃうんじゃないのかな?』

 そう感じた健太は、

「ああ、分かりました。じゃあ、もう少しここに居ましょう」

「少しじゃいや! 朝まで一緒に居て!」

「ああ、分かった。じゃあ、朝まで居ますよ、全くしょうがないな」

 最後の方は小声で言ったのだが、変に耳が良い。

「しょうがないって何ですか! 仕方なく付き合うんですか!」

 相変わらず絡み続ける。


「ああ、その、よ、喜んで付き合いますよ。はははは、それなら良いんでしょう?」

 かなり辟易していたが、

「ほんとに喜んでいるの、じゃあ、証拠を見せなさい!」  

 なお執拗に絡んでくる。

『ああ、こいつは相当にしつこいぞ。仕方ない、朝まで付き合ってやるか』

 そう覚悟した時だった。


「あうう、しょ、証拠を見せなさいって、言っても見せられないだろう? じゃあ、キスしなさい。そしたら信じてあげる」

「いや、そ、それはその、………」

「簡単だよ、こうするのよ、チュウウウウッ!」

 いきなり抱きついて来て、キスをしまくった。


「えへへへへ、一丁上がり~っ、ゴーーーーッ!」

 キスの後、一言言ってから、いびきをかいて寝てしまった。

「はあ、何だこりゃ。キスはキスでもアルコール臭くってたまらんキスだった。うーっ、何だか気持ちが悪い」

 ちょっと吐き気を感じる。


『ううむ、しかし目の毒だな』

 寝間着のボタンが外れて胸がかなりはだけている。いびきさえかいてだらしなく熟睡しているのだが、両乳房の膨らみがかなり見えて妙に色っぽかった。

 エッチな気分にはなったが、しかし結局キミエを寝室まで抱きかかえて行ってベッドに寝かせ、それから自分の部屋に戻ってベッドに横になった。しばらくうとうとしていたが、やがて眠ってしまった。


「お、お早うございます。あ、あのう、朝食の支度が出来ておりますので、宜しかったらご一緒に………」

 昨夜の態度が嘘の様に、すがすがしい感じでキミエは健太を起こしに来た。

「あ、ああ、お早うございます。えっと、今、何時ですか?」

「そろそろ9時ですけど」

「えっ、く、9時!」

 時間を聞いて跳ね起きた。

「じゃ、私、向こうで待っておりますから」

「あ、はい」

 かなり慌てて着替えをして、ざっと身だしなみを整えて居間に向かった。


「あの、朝食はこちらにしましたから」

「はい、今、行きます」

 朝食は台所でとるようである。テーブルの上にはトーストと目玉焼き、ジュースと野菜サラダ、その他にハムやチーズなどもあった。


「ああ、目玉焼きを焼いたんですか」

「ええ、まあ、このくらいしか出来ないんですけどね。トーストにはバターとかマーガリンとか、マーマレードとかお好きなものを塗って食べて下さい」

「はい。ああ、でも目玉焼きは誰かさんよりずっと上手ですね」

 確かにウヅキよりははるかに上手である。少なくとも焼き過ぎたりはしていない。もっともこのくらいが普通なのだが。


「誰かさんて、ひょっとしてウヅキさんですか」

「ああ、その、名前を言ってはまずい様な気がしますが」

「ふふふふ、………ところで私、昨夜何か変な事をしませんでしたか?」

「えっ、覚えていないんですか?」

「はい。ワインの一杯目までは覚えていますが、その後の事は全然記憶が無いんです」

「あれま、じゃあ、キスの事も?」

「ええっ! ま、まさか、キ、キスしちゃったんですか?」

「はい、いきなりでしたので逃げられませんでした」

「す、済みません。ほんとに申し訳ありません………」

 キミエは気の毒なほど縮こまっていた。


「余りお酒は飲まない方がいいんじゃないんですか?」

「………、眠れないんです。恐ろしくて眠れないんです」

「恐ろしくて眠れない?」

「はい。酔わずに眠ると、悪夢にうなされるんです。あなたの手術の事とかアカリちゃんの悲惨な最期の事とかの夢を見ます。とても怖い夢で生きた心地がしません。

 それでつい飲めないお酒を沢山飲んでしまうんです。でも、その後の記憶が無い。何かとんでもないことをしているらしいって薄々気が付いてはいるんですが、これって酒乱ですよね」

「まあ、多分ね」

 健太、即ちユキオは自分の父親の事を思い出していた。酔うと恐ろしく気難しくなり、しかもその時の事を覚えていないらしいのだ。酒乱という言葉をどこかで聞いたことがある。


「ポロロロロン、ポロロロロン、………」

 玄関の方から軽快なドアフォンの音が聞こえた。キャロンが言っていた3人が来たようである。

「入りますよ」

「失礼します」

「失礼いたします」

 男二人に女が一人、ロックミュージシャンの様なけばけばしい風体の3人が、どやどやと許しも得ずに勝手に入って来た。手には各々鞄等を持っている。 

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