83 大学病院(2)
83 大学病院(2)
『そろそろ来るころだな』
運動を止めて寝たふりをした。しかし万が一の場合を考えて、『心読み』の網は張ってある。
『さて、彼氏は起きているかしら?』
『………』
心読みで一人はキャロンに間違いなかったが、もう一人の心は読めなかった。
『一人はロボットか! どうしてロボットなんだ?』
ちょっと疑問を感じたがキャロンに任せた以上黙って従うしかなかった。
「起きて、妖鬼さん」
キャロンは耳元で囁く。
「ああ」
かすかな声で返事をして起き上がった。
「このベッドの上に静かに寝なさい」
「了解しました」
ロボットと思っていたのだがそれは妖鬼の調査の時に見たアンドロイドだった。しかも容姿はかなり妖鬼に似ている。特に顔は精巧に出来ていて、間近で見ない限りはロボットと見破れそうもないくらいである。
『これだったらかなり時間稼ぎになるな。しかしこんな精巧なロボット、つまりアンドロイドが敵の手中に入ったらまずいんじゃないのか?』
その辺が心配だったが、それはそれとしてキャロンの持って来た服に着替え、帽子をかぶり、靴を履き、ハンバーガーと牛乳を貪り食った。
五分ほどで完食。キャロンは何やらアンドロイドの耳元でひそひそと囁いている。その後で毛布を掛け、頭を半分ほど覆って、
「じゃあ、行くわよ。いいわね、計画通りにやって頂戴、さよなら」
小声で、アンドロイドに別れを告げた。最後にマスクを妖鬼につけさせて部屋を静かに出た。既に消灯時間を過ぎているので廊下はかなり暗い。
「外に車が待たせてありますから。一応、私と運転手の三人になるけど、目的地に着いたら私は大学に戻りますからね。着いた後の行動は、その時に伝えられるはずよ。
ああ、それから、これは、におい袋よ。それとこれは予備のにおい袋。効力は24時間だから一日一回は取り替えて頂戴。一応予備を含めて全部で10個あります。無くなる前にこちらから連絡しますから、連絡があったらそこへ行って補充して下さい」
二人はエレベーターを使わずゆっくり階段を下りて行った。エレベーターだと誰かと鉢合わせになる可能性があるが、夜も遅い時間なのでさすがに階段を使う者はほとんどいないからである。
「しかし、受付のガードマンに見つかるんじゃないのか?」
「ふふふ、大丈夫よ。私達の仲間が十分間だけ眠るガスを噴霧しておいたから。ほら、寝てるわよ。あと五分くらいでお目覚めのはず。急ぎましょう」
静かにしかし素早く受付の前を通り過ぎた。
「ふう、やれやれうまく行ったけど、もし誰かが受付を通ったらどうするんだ。眠っていたら変に思うだろう?」
「大丈夫よ、さっき言った私達の仲間が入り口のかなり前の所で足止めしますからね。長い時間は無理だけど5分やそこいらだったら、何とかなるし、そうこうしているうちに私達が通り過ぎるって仕掛けだから。
私達は携帯電話とかは余り使わないのよ、こんな場合はね。盗聴される恐れがありますからね。暗号化しているから大丈夫なんて思っていると危ないのよ」
「ああ、そうか。前に天国島では携帯電話とかは使わないって聞いたことがあるけど、そういうことだったんだ」
以前タンポポに聞いた話を思い出していた。
「まあ、簡単に言えばそういうこと。さあ、あの車よ。ちょっと待って」
キャロンは何やら手で合図した。車の運転手が降りて来て、何やら同じようなサインを腕を使って示した。
「大丈夫よ、乗りましょう」
キャロンに従って車の後部座席に座った。間もなく車は走りだした。
「うまく行きましたね」
運転手の声は女性だった。
「女の人だったんですね。帽子を被っていて、それにズボンだったし、おまけに暗かったのでよく分かりませんでした」
妖鬼は素直な感想を言った。しかしどこかで聞いたことのある声だったが思い出せなかった。運転手は何も答えず黙って運転を続けている。
「車で目的地までは一時間半くらいかかりますから、あなたが入院している間の事をかいつまんでお話しするわね。あなたが意識を失っている間に随分大変なことがあったのよ」
キャロンは妖鬼の想像もしていなかったことを話し出した。
「先ずはあなたが気絶した時の状況をお話ししましょう。あなたはたくさんのロボット達に囲まれて血だらけで倒れていた。私達が驚いたのはあなたは二台のロボットを倒していたということ」
「えっ! 一台は倒したと思ったんですけど、二台だったんですか?」
妖鬼には意外だった。
「はい。恐らく一台は意識のあるうちに、もう一台は無意識のうちに倒したんだろうと推測しました。S-2T一台は壁に激突した形で倒れていましたが、もう一台はやはりS-2Tだったのですが相打ちの形で倒れておりましたから。
それでこの際お話ししておきます。もっと早くお話ししておくべきだったのですが、ロボットが確保といって近寄って来た場合には抵抗を止めれば良かったのです。
そうすればロボット達は手荒な行動はしません。あんなことになっていようとはだれも想像していなかったものですから、ごめんなさいね」
「あれ、じゃあ、黙って従っていればボコボコにされなかったんだ」
「ふふふ、そうなのよ。どうしてあんなことになったのか、すぐ分かったわ。あなたトイレに行きたかったんでしょう?」
「あ、ま、まあね」
盗撮、盗聴ぐらいは当たり前にあると感じていたがその通りだったようである。
「ほんとにごめんなさいね。そういう時はロボットと同行すればよかったの。つまりトイレに行きたいから一緒に来て下さいって言いさえすれば、OKなのよね。言ってなかったわね、肝心な事なのに」
「な、なんだ、それだけのことだったんだ。ああ、かなり損したな」
「今回の事は私共の落ち度ですから、お詫びと言ってはあれなんだけど、あなたに天下グループナンバー7の称号が与えられることになりました」
「ナンバー7というと確か、………」
分かってはいたが、自分からは言い出しにくかった。
「そう、ゲキダ女史の降格によって空いたポストなのよね。受け取ってくれるかしら」
「俺は構わないけど、でも、まずいんじゃないんですか、俺は今でもお尋ね者なんだし」
「あら全然構わないわよ。あなた以外にもいるのよトップ10の中にお尋ね者が。勿論、私共にとってその人達はお尋ね者じゃないですからね。
本土でお尋ね者であっても、天下グループにとってお尋ね者じゃない者は受け入れる、これが私共のポリシーですから」
キャロンは誇らしげに言った。




