81 会議(3)
81 会議(3)
「遅くなりました」
R-10Tを修理に出していたハヅキが代わりのR-10TとS-2Tと共に戻って来た。
「ただ今戻りました」
少し遅れて、ナンバー4の菅凪寿一郎と、ナンバー5の浜概キャロンがゲキダ女史を懲罰房送りにして戻って来た。二人と一緒に行った二体のロボットは会議室の入り口の見張りに復帰した。
「さて、これで全員そろいましたが、ここでの決定事項は妖鬼君を守り抜くということと、その為に一旦彼にはこの島から本土に誰かのボディガードとして出て行って貰うことです。
その後の策略に関してはお隣さんからでも聞いて下さい。ところで今気が付いたのですが、ナンバー5のキャロン君、君は近々本土に渡る予定だったね」
義忠は具体的な方策を思いついたようである。
「はい、あの、明日ですが」
「そうそう、そうだったね。それは好都合だ。君は妖鬼君に護衛をして貰って本土に渡りたまえ。妖鬼君は一旦本土に渡ってすぐ、他の人と交換することになる。
あまり時間が無いので、会議が終わり次第準備に取り掛かってくれたまえ。どうだろう、時間も切迫していることだし、会議はここで打ち切って、今後の方策をトップスリーは確定し、その他の者は本来の作業に精を出して貰いたいのだがね」
「あのう、俺はどうしましょうか」
妖鬼には本来の仕事などは無い。
「ああ、君はまずキャロン君の計画を聞いてそれからしばらくここに待機してくれたまえ。本土に到着してからの作戦を数時間後には君に伝えられると思うから。
それで、明日まではここに滞在して、時間になったらハヅキ君の運転するヘリでキャロン君と共に本土に渡って貰いたい。さっきも言ったようにその後の事は今我々が協議して決めるからね」
「了解しました」
「それじゃ一応解散!」
義忠の解散宣言で会議は急きょ終わりを告げた。
「しばらくお別れね」
ウヅキが泣き出しそうな顔で言った。
「まあ、仕方がないね。でも、近いうちに戻って来れるからさ、それまでさよなら」
「さようなら」
ウヅキはしぶしぶ自宅に戻って行った。ミソカやハヅキも簡単に別れを言って、それぞれの仕事場に戻った。
「えっと、こっちへ来て下さい。控室で少しお話ししましょう」
キャロンは金髪の知的な美女だった。控えめな性格からかあまり目立たないのだが、美貌はかなりのものである。
まだ二十代の彼女は知能が非常に高く語学にもまた理科系の教科にも通じていた。R-10TやS-2Tの製作にも関わった才女である。
「あ、あの、いきなり殴ることは無いわよね」
控室に入って向き合って座ると、少し怯えのある目でキャロンは妖鬼に話し掛けた。
「はははは、何もしませんよ。襲いかかってこない限りはね」
「それを聞いて安心したけど、確か剛毅さんの弟子のクノ一というのかしら女忍者みたいな人達。彼女達は骨を砕かれたと聞いていますから心配になったのよ」
「それは彼女達が刀で襲いかかって来たんですからね、こっちもそれなりの対応をしないと死んでしまいますから」
「でも彼女達の刀はおもちゃだったんでしょう?」
「いや、おもちゃに見せかけた本物でした。おもちゃを振り回す女性を怪我させたりはしませんよ。変な言い方になりますが俺はそれくらい強いんですよ。
それより今後の予定を少し聞かせて下さい。本土で何をするのかざっとでいいですから。一応聞いておかないとどうすべきなのかさっぱり見当が付きませんから」
「ふう、わ、分かりました。私は本土での表の顔は大学の講師をしています。ビッグシティ大学のね」
「へえ、ビッグシティ大学というと、世界でもトップクラスの大学ですよね。俺には想像もつかないな」
「あら、あなただって知能はかなりのものだって聞いているわよ。その割に勉強が出来ないとか。変な人よね」
「へ、変ですか?」
妖鬼はちょっと戸惑った。変な人と言われたのは殆ど初めてである。
『待てよ、ユキオ時代には変人と言われたことが何度かあったな。中学の頃だったけど』
そんな事を思い出したが、高校に入って以来変人と言われたことは一度もなかったはずである。
「まあ、それは人それぞれでしょうから、いいとして、私は一気にここからその大学の構内にヘリで向かいます。大学の敷地内にヘリポートもいくつかありますから、そこにおります」
「へえーっ、ちょっと洒落てますね、いきなりヘリポートですか、大学の中の」
「そういうのを洒落ているって言うのかしらね。まあ、いいわ。で、そこが付け目なのよ、大学の構内には警察といえどもおいそれとは入れない。天下のビッグシティ大学ですからね」
「なるほど、そこだったら俺も安全な訳ですね」
「そう。ただどうやって、あなたと偽物とすり替わるのかが問題ね。でもそれはトップスリーの人達に任せておきましょう。だけどゲキダさん一体どうしたのかしら。
幾らなんでも宇宙人だなんてね。トップテンには私とゲキダさんしか女性がいないのよ。私一人じゃ寂しくなるわよ。でも本当にエイリアンじゃないのよね?」
キャロンは言葉で否定しながら、しかし心の片隅では少し疑っている様である。
「参りましたね、でも仮にエイリアンだとして一体何が問題なんですか。平和主義のエイリアンだったらいいんじゃないんですか。それでもだめなんですか、無害であっても」
「弱ければ問題ないんですけど、強過ぎるから問題なんです。R-10Tがあっさり倒された時には腰を抜かしそうでしたわ。ああ、そうそう、ちょっと違う話だけど、あなたが警察に自首して、脳の交換の事を公にするっていう手は無いのかしら?」
「ああ、それは俺もさんざん考えましたが、津下原源内は俺を死刑にしたがっているんですよ。警察の中や検事、弁護士、更には判事まで彼の息のかかった連中がいるっていう噂です。
俺が何を言っても無駄だと悟りました。そもそもそうでなければ脳交換の意味がない。合法的に俺を抹殺して、自分の孫を助ける、それが彼の意図なのですから」
「ふうん、そうねえ、言われてみれば確かに。幾ら脳交換を持ち出しても、ゲキダさんみたいに絶対信じない人もいる。私だってちょっと信じられないくらいだものね。
分かった、これで話は終わりにしましょう。私はこれから美容院に行かなきゃならないし、何かと忙しいからこれで失礼するわ。
あなたがここにいることは自動認証システムがきっちり仕事をしていますからお呼びが掛るまでここでのんびりしていて下さい。それじゃ、明日までさよなら」
「ああ、どうも、さよなら」
キャロンが帰ってしまうと妖鬼は一人きりになった。
『ふう、何だか慌ただしかったけど、しかし俺は特にすることもないな。ううむ、出来れば体を動かしたいんだがな。ここで運動する訳にはいかないか。仕方がない、お呼びが掛るまで寝ていよう』
控室にはおあつらえ向きに長いソファもある。そこに靴を脱いでのんびり天井を見ているうちに眠ってしまった。熟睡して目が覚めた時にはもう翌日になっていた。
しかし地下にいると時間の感覚が狂う感じである。壁にある時計は4時を指していた。眠った感じからすると、当日とは思えない。
『間違いないな、午前四時で。しかし、本当かな。ああ、そうか、ロボットに聞いてみようか』
たまたま廊下にいたS-2Tに、試しに聞いてみる。
「時間を聞いてもいいですか」
「あなたはトップ10の人ではありませんからお答え出来ません。これ以上質問すると攻撃します」
「そうですか、分かりました」
物騒な答えに聞くことはあきらめたが、部屋を出てトイレに行こうとした時だった。
「部屋に戻りなさい。命令に従わない場合には攻撃します」
「しかし、トイレに行きたいんだが」
「命令違反です。あなたを確保します」
S-2Tは問答無用で攻撃して来た。




