80 会議(2)
80 会議(2)
『妖鬼さん、剛毅さんと戦った時でも手加減していたんだわ。もし彼が本気だったら、もうとっくに死んでいる』
ウヅキはそんなふうに感じたがゲキダは全く違う印象を持った。
『恐ろしい。こいつはやっぱりエイリアンか、さもなければヤセールグループのスパイなんだ。四天王を使い物にならない様にして、一人残ったウヅキはうまく手なづけて、防御力をそぐ。
しかもロボット以上のパワーを持っていて傷の治りは異常に速い。事実上無敵の男だわ。こいつはもうすぐ正体を現して私達を支配するのに違いない!』
殆ど妄想なのだがそう決めつけてしまった。
「さて、会議を続けましょう。ハヅキ君はS-2Tと一緒に倒れたR-10Tを修理に出してくれ。それから代わりのロボットを調達して来てくれないか」
「はい、了解しました」
S-2TとハヅキはR-10Tを会議室から運び出した。と言っても実際にはS-2TがRー10Tを抱きかかえて、それにハヅキが付き添って行っただけである。
ロボットの修理には必ず人間が付き添うことが、ここでは義務付けられていたからでもある。会議室の外にはロボットが見張りに立っているが中には人間しかいない状態になった。
「はい!」
すぐにゲキダが挙手をした。かなり慌てている。
「ゲキダ君」
「き、危険です。ここにはか弱い人間しかいません。妖鬼の思う壺ですわ。は、早く、ガードロボットを部屋に入れて下さい!」
ゲキダは殆ど叫んでいた。
「はい」
「妖鬼君」
「ゲキダさんは何か勘違いをされているようですが、先ほども言いましたように私は本来は暁天ユキオ、十七才です。彼の生い立ちだったら詳しく言えますよ。本人ですから当然ですが。
それとこんな言い方はしたくないのですが、もしみなさんを倒そうと思っているのならもうとっくに出来ています。そうしないのはその意思がないからです。
勿論その必要もないからですが。ゲキダさん、私がなぜあなたを倒さないのかその理由を説明して頂きたい。さあ、どうしました。私はあなたを今すぐ殺せますが、そうしませんし、これからもするつもりはありません」
逆説的な言い方でゲキダに迫ったのだがゲキダは意外なことを言い始めた。
「はい!」
「ゲキダ君」
「秘密を知りたいからです。トップスリーしか知らない秘密があることを彼は知っているんですよ、きっと。その秘密を知るまでは私達を生かしておくつもりに違いありません!」
「ゲキダ君! 君は何ということを言うんだ! トップシークレットを漏らしたら懲罰ものだということが分からないのかね!」
激怒したのはナンバー1の磁北氏だった。
「R-10T、S-2T、それとナンバー4、5の二人は、ゲキダ君を懲罰房に連れて行きなさい。三日間の懲罰房入りを命じる!」
義忠が冷静にしかし非常に厳しい口調で言った。二体のロボットは会議室の入り口を見張っていた者達だったが中からの呼びかけですぐ会議室内に入って来た。
会議室の中にいないからといって、危険極まりない状態ではないことをゲキダ氏も知っていたはずなのだが、情に溺れる所があるのだろう、盲目状態になって言ってはならないことを口走ってしまったようである。
「やれやれ、このようなものがトップテンの中にいたとは。ゲキダ洋子はトップテンから格下げとする。トップ11扱いとするが異論はありますか」
義忠氏の提案に異論はなくゲキダ洋子の格下げが決定した。
「さて、ちょっとごたごたがありましたが会議を続けます。今回の最重要課題は妖鬼氏の、彼の主張によれば暁天ユキオ氏の処遇に関してですが、ミソカさんはどうお考えですかな」
「はい」
「ミソカ君」
「私は彼は信じうる人間だと感じております。彼は警察に追われてここに来た訳ですが、一度も自ら問題行動を起こしたことはありません。
相手を怪我させた場合でも正当防衛であるか合意の上の試合の結果の怪我です。また積極的なスパイ活動もただの一度もありません。
この島の外部へ連絡を取ろうとしたことも一度もありません。何とかしてこの島の生活に溶け込もうとはしていましたが、それ以外の行動は一切ありませんでした。
つまり彼は我々が守るべき人間の一人だと私は信じます。ただ、彼はいまだに警察に追われている身です。彼を警察に引き渡すべきかどうか、引き渡さないとしたらどのような方策があるのか、それを考えるべきだと私は思いますが、皆さんはどうでしょうか」
ミソカは妖鬼に対して出来る限り好意的な判断を示したが、今後の方策については特別な考えは持っていないようである。
「いよいよ話は核心になって来ましたな。先ず決定しなければならないことは妖鬼君を警察に引き渡すか否かです。もし引き渡すのなら話は簡単。それ以上議論の必要もない。
しかし、それでは今までの苦労が水の泡とも言えます。今まで頑張って来たのは何だったのか。これは他のこの島の住人にとっても由々しい問題です。
ここで私は私見を述べましょう。私は特に妖鬼君、あるいはユキオ君を擁護しようとは思わないが、しかし、この島の理念といいますか、我々の理想からすれば断固として戦うべきだと考えます。
つまり、引き渡し要求には絶対に応じないということです。ただ、警察当局の要求をいかにはぐらかすか、それが問題なのです」
義忠氏は明白に妖鬼を警察に引き渡さない方針を述べた。それに異論があるのは懲罰房送りになったゲキダ洋子ぐらいだったろう。警察に引き渡すくらいなら最初から受け入れなかったのだ。
ただ厄介なのはその方法である。今のままでは警察の強制執行もありうる。それも拒否すれば憲法を改正してでも軍隊を投入して来るかも知れない。
それだけは避けたかった。かつてウヅキが妖鬼に言ったように十年でも二十年でも籠城は可能なのだが、生活がかなり不自由になることは目に見えていたからである。
「一つ、私に提案があるのですが」
それまで沈黙を守っていたナンバー2の難波ムスキン氏が口を開いた。背が高くて目つきの鋭い冷徹さを感じさせる、どこかヨーロッパ風な顔立ちの男である。
「どうぞ、ムスキンさん、遠慮なくおっしゃって下さい」
義忠は期待を持って言った。トップスリーの発言は挙手なしでも認められるようである。
「まず、妖鬼氏にはここを出て行って貰わなければなりません。あえて言えば、警察をだますのです。偽の情報を流して、例えばミソカさんのボディガードとして、本土に入ります。
本土の仲間と協力して、ミソカさんのボディガードをすり替えます。妖鬼さんには最新の特殊メーキャップで別人に変装して貰います」
「はい」
「妖鬼君」
「ロボット警察犬の追跡をどうかわしましょうか。幾ら変装して人間の目はごまかせても犬の鼻はごまかせないでしょう?」
妖鬼はロボット警察犬に追われた苦い記憶がある。
「大丈夫です。先ずご本人のにおいを消して別のにおいにする、特殊なにおい袋を常に持って頂きます。最新ハイテクのもので全く別人のにおいにすることが可能です。
面倒なのはにおい袋は毎日交換の必要があることですが、それは仕方がありません。それともう一つの目くらましとして別人が妖鬼さんのにおい袋を持って行動し、ロボット警察犬の捜索を撹乱します。そうやっておけば日本のどこかに妖鬼さんがいるといういわば偽情報になる訳です。
それなら島に戻ったことになりませんから大丈夫です。以上の事をしばらく繰り返し、ほとぼりが冷めた頃に島に戻って来れば宜しいのです」
「はい」
ムスキンの策に疑問を感じたウヅキが挙手した。
「ウヅキ君どうぞ」
「あのう、それでしたらわざわざこの島を妖鬼さんが脱出しなくても、におい袋と偽情報だけで宜しいんじゃありませんか?」
「いいえ、真実の重みが違います。この島は監視衛星によって常に監視されています。ヘリコプターに乗ってこの島を脱出したと警察に確信させる必要があるのです。
単なる偽情報に踊らされるほど彼らは馬鹿じゃありません。彼らは妖鬼氏がここにいると確信しているから、この島の捜索令状を裁判所に申請しているのですから。
この島の地上を何度か歩いているでしょう、妖鬼君は。その姿はバッチリ監視衛星でとらえられている筈ですよ、そうは思いませんかウヅキ君」
ムスキンの答えに隙は無かった。




