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 8 山小屋(2)

お金の単位はイエンとしています。このイエンは22世紀の基軸通貨YENの日本読みとなっています。何故なのかはご想像にお任せします。

                 

                    8 山小屋(2)


「ぐううう~、ぐうう~」

 腹の虫がしきりに鳴いている。

『うへ、そういえば腹が減ったな。ああ、おあつらえ向きに、コンビニの弁当が置いてあるぞ。ええと日付は、ああ、有難い、4時間前に製造した奴だ。これなら十分に食えるな。

 ……しかし、食うのか? あいつらの準備した奴だぞ。ううむ、何かあったら、どうしよう。検査室の時みたいな眠り薬だとしたら。

 ……それどころか毒薬入りかも知れんぞ。いや、恐らくそれはあるまい。あいつらは疑われそうなことはなるべく避けようとする筈。

 ここで睡眠薬や毒薬なんかを使ったら警察も馬鹿じゃない、何か特別なことがあったと、勘ぐるやつも出て来るだろう。……食べよう。とにかくここは食って、体力をつけておかないと』

 さんざん迷ったが用意してあった弁当を食うことにした。


『うーん、美味い! まともな飯は久しぶりだ。ああ、雨だな』

 弁当をほぼ平らげた辺りで、雨音がしてきた。最初はポツリポツリだったが、十五分ほどで本降りになった。さらに十五分ほどすると激しい雨に変わった。緩い雨の時は何ともなかったのだが、雨脚が強くなるとともに雨漏りが始まった。


『え、おいおい、そりゃないだろう、まだ辺りは真っ暗だし、外に出て行く訳にもいかないし、困ったな』

 三十分ほどは雨漏りに悩まされたが、しばらくすると雨も止んで、辺りは急に静かになった。虫の声やカエルの鳴き声などは聞こえて来るのだが、人工的な音は全くしない。


『ふう、何だか静かで気持ちが安らぐな。しかしまてよ。あいつらは外にいたんだ。あの雨じゃ、車の中にでも避難したんじゃないのか?』

 ユキオはじっと耳を澄まして心の声を聞いてみた。


『あれ、何も聞こえないぞ。……ひょっとして、もう帰ってしまったのか』 

 念の為にもう一度耳を澄ましてみたのだが、何も聞こえない。少なくとも近くにいないことだけは確かである。


『逃げようか? それとも警察に捕まって、洗いざらいぶちまけるか?』

 かなり迷ったが、やはり逃げることに決めた。


『思い出したぞ、津下原源内! 確か政財界と太いパイプがあるだけじゃなく、警察関係にも深くかかわっているってな。だとすれば警察も百パーセント安心は出来ない。

 明るくなる前に逃げた方がよさそうだぞ。だけど、どこへ逃げる? うーん、それなんだよな、一イエンも持ってないし、カードもない、携帯電話の類もない。全部没収されているからな、おや?』

 小屋の隅っこの方に置いてある小さなカバンに気が付いた。


『なんだこれは?』

 カバンを開けて驚いた。

『ええっ! 現金がある! かなりの額だぞ。それにカードもあるし、身分証やら携帯電話らしいものもある。どうしてわざわざこんなものが用意してある?』

 じっと、考え込んだ。


『待てよカバンに仕掛けがあるんじゃないのか?』

 探してみると確かにあった。何かの発信機らしいものが飾りに見せかけて付けてあった。

『ははーん、このかばんを持って逃げたらアウトだったな。……現金だけなら、いいだろう。でも俺のこの服は大丈夫なのか?』


 服を脱いですっぽんぽんになって丁寧に下着からジーパンやTシャツ、更には靴も調べてみた。案の定、すべてに発信機や盗聴器らしい少し分厚い黒いシミの様なものが見つかった。


『この小屋に仕掛けは無いのか?』

 一瞬、気になって、ざっと見てみたが無さそうである。

『そうか、ここに警官が踏み込んでくるのだから、そういう類のものがあってはまずいからだろうな』

 そう結論付けて、小屋を詳しく調べることは止めにした。

 

『しかし、俺の体の方は大丈夫なのか?』

 全身、さわれる限り触ってみたが頭のてっぺんから足の先まで、特に何もなかった。体内深くに埋め込まれていたらアウトだと思ったが、

『ふうむ、そうか、読めたぞ。万一、俺が死んで、遺体解剖なんてことになったら、体に仕込まれた機械が見つかってしまう。

 そうすれば、大きな疑念が生まれることになる。それを避ける為に、生身の体には何もしていないのだ。きっとそうだろう。だけどまてよ、何かおかしいぞ。脳の交換をしたのだよな。

 だとすれば頭に大きな傷があるはず。頭蓋骨を大きく切って脳を取り出さなきゃならない筈だよな。ううむ、しかし、殆ど傷はないぞ。何故だ?』


 頭に傷が全くない訳ではないのだが、確かに脳を取り出したりしたような傷には思えなかった。それに関してはよく分からなかったが、

『なんにせよ、ここからは早く脱出した方がいい!』

 そう結論付けると、発信機やら盗聴器などの取り外しにかかった。幸いにも、カバンの中にはサバイバルナイフなどもあって、それらを使って出来るだけ音がしない様に、また振動などもないように気を配りながら、慎重に切り取り始めた。

 

 一時間余りかかって、ほぼ全部の取り外しに成功した。もっともその為に、下着もジーンズもTシャツも、更には靴までも全部がぼろぼろになった。

 見様によっては最新のボロ着ファッションのようにも見えるが、ちょっと度を越しているように思える。


『ふう、ポケットが健在なのは助かるな。さて……』

 ジーンズのポケットに現金を詰め込み、

『屋根を破って、出て行こう』

 椅子に上がって、屋根を強く押してみた。思った通り、さほど丈夫ではない。


『静かに、静かに……』

 出来るだけ音を立てない様に屋根をちょっとずつ壊していく。雨漏りの状況から、屋根の造りがずさんなことを見抜いていた。


『内側から鍵をかけておけば、警察が来た時に、多少なりとも時間が稼げる。それに、今、玄関から外に出たら、あいつらが双眼鏡で見ているかも知れんしな』

 そう考えての事だった。屋根を破ると懐中電灯の明かりが外に漏れてしまうので、どこを壊せばいいかしっかり覚えてから、明かりを消して作業を続けた。

 余程新しい体は筋力があるのだろう。音を立てない様にゆっくり慎重にやったのにもかかわらず、三十分足らずで、屋根の上に出られた。曇り空で、辺りが真っ暗。肉眼ではまず姿は見えない。

 

 ユキオの想像通り、例の屈強の男達は離れた車の中から、時折、暗視双眼鏡で出入り口の辺りを監視していた。しかし、幸いにも小屋の屋根の上までは見ていなかったのだ。


 男達に見つからない様に小屋の入り口とは反対の方に飛び降りて少しずつその場を離れて行った。かなり遠いが、前方の少し高くなった所に、道路があるのが時折通る車のヘッドライトでわかる。

 生い茂る草むらの中を、ヘッドライトに照らされた一瞬の記憶を頼りに進んでいると、やがて道がはっきりと見えて来た。


 その道の先には、明るく光り輝く街並みが見える。来た時に通って来た街ではない。ユキオにはその街が何か素晴らしい理想郷のようにも見えたのだった。 


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