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 77 本当の地下二階(1)


                    77 本当の地下二階(1)


「合言葉を言いなさい」

 ドアの向こうから声が響いてくる。

「今日の合言葉はありません」

「宜しい、入りなさい」

「ロボットが邪魔で入れないわ」

「ギーーーーッ!」

 またしても奇妙な合言葉だった。しかもウヅキは妖鬼の手を引いてS-2Tらしいロボットの後ろをわざわざ通って中へ入って行った。


「これは一体何なんだ?」

 余りに不思議だったので聞いてみた。

「ロボットとロボットの間を通ったら即座に攻撃されるのよ。気の毒だけど死ぬわね。しかも、どっちのロボットの後ろを通るのかは毎日変わるのよ」

「へえーっ、ふう、危ない話だな。俺の手を引っ張ったのも合言葉の一種なのか?」

「いいえ、手をつなぐ必要はないけど、うっかりして真ん中を通らない様に、手を引いたのよ。そうしないと妖鬼さん直進したでしょう?」

「ああ、確かに。それにしても合言葉も毎日変わるのか?」

「いいえ、それは不定期なのよ。いつ変わるかはトップスリーの人達が決めるの。こればっかりはミソカさんでも手も足も出ないわね。

 ほらこの間の天下グループナンバー2の義忠さん、彼には一応合言葉を提案する権利はあるんですけど、ナンバー1とナンバー3との合議で決まるから、自分の自由には出来ないわね。

 そうしないと一人に権利が集中してまずいからだと思うけど、私達にとってはややこしくてねえ。もっと簡単にしてくれないかしらっていつも思うんですけど、無駄よね、ふうっ」

 ウヅキは歩きながらため息をついた。


「しかし、階段じゃなくてスロープなんだね」

「そうよ。これは多分身体障害者に配慮してのことだと思うんだけど、どうしてここだけこうなのかは分からないわね」

「ふうむ、どうなんだろうねえ。ああ、またドアの前にロボットが二人いる。今度はどんな合言葉なんだ?」

 妖鬼は変な合言葉を聞きたくなった。


「いいえ、合言葉はさっきので終わりよ。ここからは自由に入れるわ。でもね実はちゃんと生体認証システムが働いているのよ。部外者が侵入しようとしたら、やっぱり殺されるか捕まえられるかのどっちかね」

「生体認証システムがあるんだったら合言葉は必要ないんじゃないのか?」

「そうでもないわよ。例えば大きなけがをしたり病気をしたりして外観がすっかり変わってしまう場合には認証が難しいし、コンピューターの認識にもミスがあるのよ。

 絶対間違わないみたいにコマーシャルでは言っているけど、実際にはたまに間違えるのよね。それで合言葉も混ぜてより完全な認証にしようという狙いらしいわ」

「ふうむ、何とも用心深いんだねえ」

「余り大きな声じゃ言えないけど何かもっと秘密があるみたいなんですけど、それを知っているのはトップスリーだけらしいってミソカさんが言ってた」

「へえ、ミソカさんでも知らない秘密がねえ」

 妖鬼はその秘密に興味を感じたが、ロボットのガードするドアを開けると、一気に視野が開けた。


「ええっ、これって工場?」

「そう、一番重要なのはロボットの製作。勿論その他に食品の工場やら衣料品の工場やらもうたくさんの工場があるのよ。広いでしょう?」

「ああ、遥か彼方まであるね。しかし、俺が行くところはどこなんだ?」

「地下二階の最下層にあるのよ。エレベーターを使って降りるのよ」

「えっ? 地下二階の最下層って何だ?」

 さっぱり訳が分からなかった。


「説明するとね。地下二階というのは一層じゃなくて大体十層くらいあるのよ。それ全部が地下二階と言われているのよね」

「お、驚いたな。俺が今まで見ていた地上や地下一階はむしろごく一部だったんだ」

「そういうこと。しかもここのオートメーション化は極度に進んでいて、人間はごくわずかしかいないのよ。あとは殆どをロボットがしているのよ。

 ただ実用性が感じられなかったロボット犬の開発は極端なほど遅れているわね。それと実際の所、ロボットの開発が進んでいないとヤセールグループに思わせる役目も果たしているのよ」

「なあんだ、じゃあ、俺もその片棒を担がされたわけだ。敵を欺くには先ず味方からっていう奴か」

「御免なさいね、その通りよ。知っていても言えなかった私の辛さを察して下さいな」

「ああ、すっかり騙されたな。はははは、いや、しかし何だか腹が減って来たぞ。ここにはレストランは無いんだよね?」

 急用と聞いて空腹を忘れていたのだが、敵を欺く為の片棒を担がされたと知ってにわかに思い出した。


「大丈夫ちゃんとあるわよ。その名もロボットレストラン。ロボットレストランと言ってもずっと昔のマンガみたいに機械の部品なんかを食わせるレストランじゃありませんからね」

「ハンバーグステーキとかオムライスとかあったりするのか?」

「はい、メニューは百種類くらいはあるわね。ラーメンや餃子やカレーライス、お寿司、チャーハン、丼物までレパートリーは広いのよ」

「是非行ってみたいけど料金は高いのか?」

「いいえ、全部無料よ。さっきも言ったけどここにいる人は幹部クラスの人が殆どだから無料なのよ。人間は数十人程しかいませんからね。

 でも、アンドロイドもたくさんいるから見分けるのが大変よ。ちなみにコックは一人だけ人間であとは全部アンドロイド。ただ、紛らわしいから、一応一目で分かる外観にしてありますけど。顔に表情が無いからすぐに分かるわ」

「で、それはどこにあるんだ?」

「エレベーターに乗って間もなく着くわ」

 ウヅキは何度か角を曲がってエレベーター乗り場に妖鬼を案内した。


「やけに分かり難いんだね。迷っちゃいそうだよ」

「これも外敵からの侵入を阻止する為の仕掛けの一つよ。初めてでここにたどり着ける人はまずいないわね」

「ふう、何かと疲れるシステムだね。でもあれだね、急用なんだから、食っている暇はないんじゃないのか?」

 妖鬼はちょっと心配になったが、

「確かに急用だけど食事の時間くらいはあるわよ」

 迎えに来た時の深刻さはどこへやら、いたって平然としていた。

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