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 76 トレーニング(7)


                    76 トレーニング(7)


『やれやれやっとベッドで眠れる。それにしても今日はハードだったな。しかし、R-10Tは素晴らしかった。壊れたとしても相手は機械。気分はとても楽だ、………』

 そのまま熟睡し、目が覚めたのは正午少し過ぎである。胃袋は正直である。目覚めたのは空腹だったからだった。


「デリバリーは面倒だ、簡単に済ましておこうか」

 呟きながら廊下に出ると、

「あのう、妖鬼様、お迎えの方が来ておられますが」

「迎え?」

「はい、ウヅキ様と伺っておりますが」

「はて、何だろう。明日までは休みのはずだけどね」

「急用と申されておりますが」

「急用ですか、それじゃ仕方ない」

 係員と共に外に出ると、確かにウヅキが待っていた。深刻そうな顔だった。


「済みません、妖鬼さん、本部の人達が来てくれって」

「本部の人達がねえ、じゃあ、行きますか。ああ、どうもお世話になりましたが、急用なので失礼します」

「いいえ、どういたしまして。それではお気をつけて」

「はい、じゃ」

 妖鬼はウヅキの後に付いて行った。ウヅキの表情からにしてただ事ではなさそうである。


「今日は地下二階の本部に行って貰うことになるわ。警戒がものすごく厳重だから、不用意な行動は厳禁よ」

 ウヅキはかなり緊張して言った。

「警戒が厳重? ガードマンがうじゃうじゃいるのか?」

「いいえ、ロボットよ。天下グループが誇る最強のロボット達よ。四天王でも歯が立たない相手なのよ」

「ひょっとして、R何とかという奴か?」

 妖鬼にはピンときた。あのロボットに違いないと思った。


「えっ、どうして知ってるの?」

「いや、対戦したからね。象の調教用とか聞いたけどね」

「象の調教用というのは一種のカムフラージュなのよ。本当はこの島を守る為の切り札なのよ。今対戦したって言ったわよね。どうだった、手ごわかったでしょう?」

「ああ、物凄くタフだった。俺が戦ったのは確かR-10Tだったんだけど。地下二階のも同じなのか?」

「同じタイプのもあるけど違うタイプのもあるわ。大きく分けて二種類あって、R-10Tは防御力に優れていて、もう一種類S-2Tというのがあって、これは防御力は大したことが無いんだけど、攻撃力は凄いのよ。

 どちらも人間には倒せない代物しろものよ。格闘会四天王の能力を上まわる様に作られた最強のロボット達で、攻撃力や防御力を半分にして貰っても四天王の誰一人勝てなかった。幾ら妖鬼さんでも倒せなかったでしょう、R-10Tは」

「いや、うーん、途中でロボットが故障してね、動かなくなったんだよ」

「故障しちゃったの? それはきっとポンコツだったのね」

 ウヅキは言葉の意味を取り違えたようだったが、妖鬼はあえて何も言わなかった。


「地下二階へはここから入ります。前には何も言わなかったけど、地下への通路や地下二階への通路は本当はたくさんあるらしいのよ。

 でもそれらの通路をすべて知っているのは大幹部の人達だけなのよ。それにこれはここだけの話なんだけど地下三階もあるらしいのよね、私はまだ一度も行ったことが無いんですけど」

 ウヅキが入って行ったのは教会の様に見える小さな建物だった。中はガランとしていて奥の方にドアが一つあるだけだった。


「考えてみると、この島には宗教施設が無いね。この島の人達は無宗教なのか?」

「ふふふふ、よく気が付いたわね。大当たりよ。この島に来て送り返される最大の理由はそれなのよ。無宗教であることを誓えるかどうか、嘘をついても心理テストで大抵見破られる。

 すごい犯罪者であるのにもかかわらず宗教を捨て切れない人達も大勢いるのよね。でもね、地球上の紛争のかなりの部分を宗教が占めているのも事実だわ。

 ましてこんな小さな島の中で宗教的な対立があったら目も当てられないわ。島の秩序は完全に崩壊してしまって天下グループの理想は消滅してしまうわよ」

「しかし俺の時にはそんなテストは無かったけどね」

「あなたが無宗教なのは明白だったわ。今まであなたが祈りをささげている姿なんて一度も見たことが無いし、第一津下原一族は無宗教で有名なのよ、特にあなたのおじい様はね」

「へえーっ、そうだったんだ。知らなかったな」

 妖鬼即ちユキオは意外に感じた。


『そもそも俺は一応仏教徒だけど事実上は無宗教に近いよな。大部分の日本人は皆そうなんじゃないのかな。大半が形式的な仏教徒に過ぎない。

 しかしだからこそ他の宗教者に対して寛容でいられると思うんだけどね。それにしてもあの爺さんが無宗教者とは驚いたな。むしろ新興宗教にでも凝っているんだろうと漠然と思っていたんだけどね』

 津下原源内を少しばかり見直した。


「綾川ウヅキ、妖鬼様を連れて参りました」

 相当に緊張してウヅキは地下二階の入り口らしいドアに向かって言った。

「合言葉を言いなさい」

 流ちょうではあるが機械的な響きの声だった。

「R-10TプラスS-2Tイコール最強」

「宜しい、入りなさい」

「いいえ、帰ります」

「ギーーーーッ!」

 驚いたことにウヅキが帰りますと言ったとたんにドアが開いた。


「随分変わった合言葉だな。特に最後が」

「ふふふふ、間違えなくてよかったわ。ここを通る時はいつもすごく緊張するのよ、合言葉を間違えるかも知れないって思ってね」

「大変なんだな、俺には出来そうもないぞ」

「そうね、その為に私が付いているんですからね」

「たはっ、こりゃ参った」

「はははははは」

「あははははは」

 なぜかひどく可笑おかしくて大笑いした。ドアを通ってしばらく行くとまたドアがあった。しかし今度のドアの前には2体のロボットが門番のように立っていた。どうやらここが本当の地下二階への入り口らしかった。

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