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 74 トレーニング(5)

 

                    74 トレーニング(5)


『俺はいつの間に年寄りになったんだ? 妖鬼は18歳、しかし本当の俺、つまり暁天ユキオはまだ17歳だぞ。

 それにしてもいつも大人びた言い方をしていたらいつの間にか定着してしまって、もう若者らしい言い方が出来なくなったな。あ~あ、もう、高校生にすら戻れないんだな』

 幾分やけ気味な気分になったが、買って来た食料やら牛乳などを食べ終えると、しばらくイスに座ったままテーブルに突っ伏してうたた寝をした。


「ふう、何時だ? ああ、まだ深夜の3時か」

 一応壁には時計があったので、時間が分かったものの、その部屋にも窓が無いので昼と夜の感覚が少し狂っているような気がした。


『まさか、午後3時じゃないだろうな、昔ながらのアナログ時計だと午前なのか午後なのか分からないからな』

 少し不安になって時間を聞いてみることにした。

「あのう、済みませんが今、午前3時頃ですよね?」

「はい、午前3時少し過ぎたところですがですが」

「ああ、分かりました、どうも有り難う御座います」

「どういたしまして」

 電話で確認して安心した。


『午前3時か。めちゃくちゃ早いけど、時は金なりだ、よし、トレーニング開始!』

 今度は1時間ほどパンチの練習をした。しかし、どうも歯ごたえが無いし脚での蹴りの練習は特に回し蹴りは難しかったので、

「あのう、サンドバックが欲しいのですが、出来る限り頑丈なというか、2トン3トンのパワーに耐えられるものってありますか」

 ダメ元で聞いてみた。


「あの、そちらは1899号室の妖鬼様で御座いますか」

「はい、そうですが」

「それでしたら、特注のサンドバックが御座います。10トンまで耐えられる、象のトレーニング用のがあるのですがそれで宜しいでしょうか」

「へえ、象用ね。ああ、結構です、ぜひお願いします」

「それでは早速お運び致しますので少々お待ち下さい」

「はい」

 願ってもない事だったが、

『しかし象用というくらいだから、かなり大きいんだろうね。この部屋に入るのかな?』

 と、ちょっと心配だった。


「お待たせしました」

 係員が自信有り気に運んで来たのはロボットだった。人型ではあるがアンドロイドほど外観は精巧なものではない。身長は自分より少し低いくらい。がっしりしていて如何にもパワーがありそうである。


「ええっ、サンドバックを注文したはずなんだけど………」

「はい、ロボット型サンドバック、R-10アール・テン・ティーです。先ほども電話で言いましたが、象の調教などにも使われるパワーのあるロボットでして、動きは緩慢ですがそこいらのサンドバックより遥かに耐久力があります。

 今、動きが緩慢と言いましたがそれでも一般の人よりはずっと速いのですよ。ただ妖鬼様の様な一流の格闘家に比べましたら緩慢ということで御座いまして」

「成程、それを聞いて安心しました。余りのんびり動かれたんでは練習にならないし、第一ロボットの意味がないですからね」

 妖鬼は感心したが、使い方は想像出来なかった。


「でもどうやって使うんですか? どこにもボタンらしいものは無いようですが」

「使い方は言葉で指示されればその通りにしますから。例えば5分間こちらの攻撃に耐えろ、と言えば動かずに耐えていますし、徹底的に逃げろと言えば5分間逃げ続けるといった具合です。

 勿論攻撃しろと命令すればこちらからの攻撃もあります。ただし、アシモフの三原則は守ります。しかし、三原則を外せと命令すれば、その通りに致します。

 ただ、この場合お使いになられた方がけがをされても当方は一切責任を持ちませんので、その点くれぐれもご注意下さい、ふふっ」

 係員はかすかに笑った。

『このロボットに勝てるものなら勝ってみろ』

 目がそう言っていた。先ほどまでのおどおどした態度は消えうせている。よほど自信のあるロボットなのだろう。


「じゃあ、慣れるまではアシモフの三原則は外さないでおきましょう。ところで、このランニングマシンが邪魔なんですが片づけて貰えますか」

「ああ、承知しました。5分あれば撤去できますので少しお待ち下さい」

 係員達は早速ランニングマシンの撤去に取り掛かった。工具などを持って来ている所を見ると最初からそのつもりだったようである。


「この折り畳みのイスとテーブルも片づけておきますか。ご入り用なら電話一本ですぐ持参いたしますので」

「じゃあ、それもお願いします」

 係員達がランニングマシンや折り畳みのイスとテーブルを運び出すと部屋の中にはロボットと妖鬼の二人きりとなった。


「はははは、何だか妙な気分だな。それじゃ早速やってみるか。今から1時間、俺の攻撃から逃げられるだけ逃げてみろ」

 妖鬼の言葉が終わると、

「復唱します。今から1時間俺の攻撃から逃げられるだけ逃げてみろ、ですね」

「そうだ」

「それでは実行開始します、宜しいですか」

「いいぞ」

「ビュッ!」

 了承した瞬間、Rー10Tは妖鬼から2メートルほど離れた位置に逃げ、停止した。まるでライガの様な身のこなしだった。動作が緩慢というのは謙遜に過ぎなかったようである。


「そりゃっ!」

「シュッ!」

「たっ!」

「ビュンッ!」

 R-10Tは想像以上に素早く、

『こいつは全力を出した方が良さそうだ。瞬発力のスピードはライガをしのいでいる!』

 

 妖鬼は嬉しくなって全力で追い続けた。

「バンッ!」

「ドンッ!」

「ガンッ!」

「バタンッ!」

 さすがのRー10Tも妖鬼の全力には勝てなかった。パンチ、蹴り、ひじ打ち、投げ技、次々に攻撃を受け、バランスを崩して倒れたりしたが、しかし、その都度体勢を立て直して逃げ続けた。あっという間の1時間だった。

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