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 7 山小屋(1)

       


                      7 山小屋(1)



 部屋を出てすぐの所に上りの階段があった。階段を上り切ると、間もなく見覚えのある廊下に出た。そこはまさしくスイーツ研究所だった。


 それから、外に出て、大きなワゴン車に全員で乗り込んだ。外は真っ暗で、深夜らしかった。ワゴン車は8人乗りで、ちょうど、人数分である。

 やがて車は走り出し、どこへ行くのかわからなかったが、高速道路なぞは通らずに、次第に山中に入って行った。


 車内では殆ど会話がなく、ユキオはただじっと考えていた。

『そうか、俺がいたのは、スイーツ研究所の地下だったんだ。スイーツ研究所というのは一種のカムフラージュだったんじゃないのか?

 死刑間違いなしの津下原の孫を助ける為に脳を交換した。指紋だろうとDNA鑑定だろうと、何せ本人の体なんだからな。脳の交換に気が付かなければ、俺は犯人ということになる。

 スイーツ研究所の地下室はその脳の交換手術をする場所だったんだ。新作お菓子の研究所の地下がまさか脳交換の手術室だなんて誰も考えないからな。

 じゃあ、あの、スイーツの試食会というのは何だったんだ? ……そうか、適合するボディを探す為だったんだ。最初の時、記念写真をやけにたくさん撮ったのもその為だった。

 当選した連中は一次審査を通った連中、その中で一番適合したのがこの俺だったんだ! あああ、くそうっ! だけど家で俺がいなくて心配してるんじゃないのか?

 いや、いや、いや、極悪非道の津下原会長の孫が、何食わぬ顔で家に入り込んでいるんじゃないのか? きっとそうだろう!』

  

 あれこれ考えているうちに、車は山中で止まった。どうやら目的地らしい。草がかなり茂っている、如何いかにもへんぴな山の中だった。


「さあ、降りるぞ、少し歩くからな。暗いから足元に気をつけろ」

 リーダー格の男が先頭に立って、数人が懐中電灯で足元を照らし、しばらく一緒に歩いていたのだが、 

「向こうに小屋が見えるだろう。懐中電灯をやるから照らしてみろ」

 ユキオは懐中電灯を手渡されたので、言われた方向を照らしてみた。確かに小屋があった。百メートルくらいは離れているだろう。


「ここからは一人で行け。その懐中電灯はお前にくれてやる。あの小屋の中に入れ。入ったら、鍵をかけて、寝ていろ。小屋の中には、簡易トイレや食い物なんかも用意してある。

 出入り口はここから見える場所に一つしかない。絶対に外に出るなよ。俺たちは夜明けくらいまで見張っているからな。

 夜が明けたら、小屋を出てもいいぞ。あとは自由にどこへでも行くがいい。分かったか。もう一度言うが、夜明けまでは絶対外に出るなよ。いいなっ!」

 リーダー格の男はすごみを効かせてユキオをにらんだ。

「は、はい、わ、分かりました」

 ユキオは仕方なしに承知した。


「あ、危ない」

 相変わらず、よろける演技を続けた。ふらふらしながらかろうじて小屋にたどり着いた振りをした。数十歩ほど歩いた辺りから耳を澄まして、男達の心の声を聞いてみた。その中で特に強い思いの声に焦点を絞って聞く。

 

『何もここまでやることはないだろうにな。会長さんも用心深いねえ。ここにひそんでいたから、自分には分かりようがなかった、そんな言い訳をするつもりなんだろう。

 なんたって、孫をかくまっているのは会長だとマスコミは断定しているし、警察もそう睨んでいる。実際その通りなんだからな。

 しかし、そうそういつまでも匿いきれやしない。警察の捜査がいよいよ近辺に及んで来て、自分の身が危うくなって来たから、脳の交換なんていう非常手段をとったんだろうけどね。

 金持ちの考えることはよく分からんね。さて、もう少し様子を見てから警察に連絡しようかね。余りのんびりしているとこっちも疑われかねないからな』


 その辺りで、小屋に入り、一応言われた通りに、鍵を掛けた。懐中電灯をつけっぱなしにして適当な場所に置いた。その明かりを頼りに小屋の中を見回すと、椅子いすがあったのでそれに腰かけて、再び心の声を聞く。


『脳の交換なんぞせずに、殺してどっかに埋めておけばわかりゃしないだろうにねえ。日頃、正義を説いている会長さんだから、『たとえわが孫といえども法にのっとって、裁きを受けるべきだ』とか、何だとか。要するに、世間体が悪いってだけのことじゃないのか?』

 ユキオは自分が生かされている理由が分かった気がした。


『何としてでも裁判を受けさせて、自分は自分の信念の為に孫を失ってしまう悲劇の主人公を演じる。そういうあほらしい筋書きだった訳だな』

 津下原源内を心の底から軽蔑したのだった。


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