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 67 対決(4)


                     67 対決(4)


「いや、別に明日まで待つ必要はないですよ。ただ十五分だけ休憩時間を下さい。ちょっと汗をかいたものですから下着を取り換える時間が欲しいんですが」

「ほほう、そうかい。じゃあ、そうだな、大盤振る舞いだ。八時きっかりに始めようじゃないか。その方が何かと分かり易いし、その間舞台の上でちょっとしたショーでも見て貰えばいいんじゃないのか。

 十分な休憩時間が無いと、後で連戦したから負けてしまいましたなんて言い訳されたくねえからな。幸い今日は俺の弟子の女達が数人来ている。野郎ばかりじゃお客さんも退屈だろう。

 八時五分くらい前までそいつらとウヅキ、あんたとのエキシビションマッチをやってくれねえか。俺の弟子たちもそれなりに強いが、あんただったら一対三でも互角に戦えるだろう」

 妖鬼の提案を待っていたかのように剛毅は逆に提案してきた。恐らくは妖鬼がすぐに戦うと言い出すことを読んでいたのだろう。


「あ、あたしはいいけど、妖鬼さん、本当に大丈夫?」

 ウヅキは剛毅の特殊能力に恐れを抱いていた。

『剛毅さんはもっと別の何かがあるんじゃないのかしら?』

 そう思うと不安で仕方が無かったが、

「ああ、大丈夫だ。じゃあ着替えして来るからその間お客さんを退屈させない様に頑張ってくれよ」

 いたって呑気のんきに言うと、さっさと舞台から降りて自宅へ向かった。一応シャワーを浴びてから着替えをするつもりだった。


「鬼のいぬ間の洗濯じゃねえが、さあて、照明と音楽スタート、さあ、四天王の女大将と剛毅門下のクノ一軍団の戦闘開始!」

 剛毅は芝居がかった口上を残して舞台から降りた。客席は照明がすっかり落とされ、舞台の上にはスポットライトがあてられ、しかも時代劇風な音楽が流れだした。

 そこへするすると舞台へ上がって来た、背中におもちゃっぽい刀を背負しょった女忍者風のスタイルの三人が、一斉にウヅキめがけて突進した。すべてが計算されつくした演出のように思われた。


『なんなのこいつらのスタイルは! それに音楽も! まるで初めから計画されていたみたいじゃないの!』

 ウヅキには訳が分からなかったが、

『妙に人数が多かったのは剛毅の一派が多数入り込んでいたからなんだわ! 音楽の係も照明係もみんな剛毅の一派だったんだ!』

 だがそれだけではなかったのだ。


「えい!」

「はっ!」

「たっ!」

 女達の攻撃自体は大したことは無かった。しかし、その奇妙な動きが気にかかった。

『何だかわざと外している感じだわ。何なのこれは一体!』

 奇妙だと気が付いた時には遅かった。


「そうれっ!」

「きゃっ!」

 三人の女達はウヅキを罠にかけていた。スポットライトだけで辺りが暗闇だったのは細い網の目になった罠の仕掛けを見破られないようにする為のものだったのだ。


 ウヅキの体は網に包まれて宙吊りになってしまったのである。網を切り裂こうとして必死になったが人間の腕の力位ではおいそれとは切れない丈夫な糸で出来ていた。

 ウヅキはそれでも何とかしようともがいたが、もがけばもがくほど網は絡まって、何やらみだらな格好になってしまった。


 その途端に音楽は悩ましげなものに変わってウヅキにピンクのスポットライトがあてられた。まるでセクシーショーの様になってしまったのだ。

 会場のいたる所から、くすくす笑いが聞こえて来る。ウヅキにはその状況がよく分からずに相変わらずもがいていた為、ことさらに音楽にマッチしてセクシーさが際立つのだが、体型が大柄な為か何かトンチンカンな印象を与えて、それが笑いを誘ってしまうのだった。

 

 やがてウヅキが諦めてじっと動かなくなると、音楽も止み、照明も通常に戻ってショーは終わりを告げた。舞台上には再び剛毅が上がって、

「皆様、私の演出したショーはいかがでしたでしょうか。さあ、主役のウヅキ君を下ろしてくれたまえ、私のかわいいクノ一軍団達よ」

 相変わらず芝居がかった言い方だったが、

「さてもう一人の主役がもうすぐやって参ります。今度は男同士の些か激しいショーになりましょう。こうご期待!」

 平然とそう言い放つ剛毅に対して、

「ちょっと、ひどいじゃないの! 網を使うなんて! 一言も聞いてなかったわよ!」

 ウヅキは怒りをぶつけたが、

「おかげで誰も退屈しなかったんだからいいじゃないか。それにもし、これが実戦だったら今の言い訳は通用するのかな?」

 剛毅はちゃんと反論を用意してある。


「まあ、その通りだけどねえ、でも、何かフェアじゃないよね。先ほどからじっくりと見させて貰いましたよ。これだけのことをするのにはかなり準備が必要だったと思うんだけど、なんせ音楽付だしね」

 いつの間に来ていたのか妖鬼は客席の中にいた。


「おやおや、私がアンフェアだと言うのなら、君も十分にアンフェアじゃないのかな? こっそり客席に戻って来てセクシーなショーを鑑賞しているんだからねえ」

「なあるほど、じゃあ、おあいこな訳だ。ところで俺の相手はそこの三人も一緒なのかな?」

「冗談言うんじゃねえ! おまえを倒すのはこの俺だ。俺がたった一人で倒してこそ意味がある!」

 剛毅の表情が一変した。


「じゃあ、その網も片づけて貰いましょうか。八時まであと二分。お互いのウォーミングアップももう十分なようだし、そろそろカウントダウンと行きましょうか」

 妖鬼の提案に会場は呼応した。


「あと一分五十秒!」

 そこで妖鬼は舞台に上がり、

「ひどい目にあったね、客席でゆっくり見ていてくれ。あ、いや、多分数分で終わると思うが、十分なお返しが出来ると思うからね」

「でも、こいつは何をやらかすか………」

 ウヅキは妖鬼にだけ聞こえるように小声で言ったのだが、初めて剛毅を罵った。自分が笑いものにされていたのだということに気が付いたのだ。


「大丈夫、その為にこっそり会場に来ていたのだからね。もう何も心配はいらないよ」

「わ、分かった」 

 妖鬼の自信ありげな態度を信じようと思った。

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